小出高校の男子高校生の日常3



 


 今日も今日とて、クラスの奴らが盛り上がっている話題は『女の話』。
 どうして毎日毎日ネタが尽きないのか……不思議でならない。






 今日のお題は『何フェチか』ってのらしい。

 ……フェチって何だ。

 疑問を口にしたら、中上がスラスラと答えてくれた。



「フェティシズム〈fetishism〉異常性欲の一。異性の体の一部、衣類、所持品などに強く執着すること」



 ……中上……お前確か、現国もリーダーも赤点だったよな……?



「辞書通りの意味は、な」

 さすがに松嶋も苦笑している。

「要は女の子のどこのパーツが好きかって話だよ。手だったり髪だったり声だったり」
「胸だったり尻だったり太ももだったりな! オレは胸だ! デカけりゃデカいほどいいっ!」



 中上……ぶっちゃけすぎだ。
 だからお前は彼女ができないんだ。
 クラスの女子の冷たい視線にいい加減気づけ。



「俺も胸好きだなー。でも大きさより形重視かな。……あんまデカいとバカっぽく見えるし」



 チラッ、松嶋が一瞬オレを窺う。……何が言いたい。
 そこへフォローすると見せかけて爆弾を落としたのは――言うまでもなく北条だ。






「まあ下野は頭良いからね。おバカなコでも可愛く見えるでしょ?」
「はあ!? アレのどこが可愛いんだ!?」
「僕、別に特定の誰かサンだなんて言ってないけど?」



 ……引っかけられた。俺は頭を抱えた。

 ニコニコ、楽しそうな笑顔の北条と、ニヤニヤ、人の悪い笑みを浮かべる中上と松嶋。
 オレは口を噤むことにした。言質を与えてなるものか。






「ところでお前は?」

 松嶋が矛先を北条に向ける。阿呆。ソイツにそんな話題を振ってみろ、十中八九、回答は――



「僕? 僕は紫サンのすべてが好きだよ」
「「ノロケんな!!」」

 彼女無しサッカー部コンビの声がハモる。……ほれ見ろ。
 だが俺はもう何も言わないと決めた。だから忠告も何もしてやらない。



「だって事実だもん」
「わ……わかった。じゃあ鷹月先輩でいい。彼女のパーツのどこが好きだ?」

 中上の問いかけに、北条の眉根が僅かに寄った。

「なんで答えなきゃいけないの?」
「そうでなきゃお前が何フェチかわかんねーじゃん。どこだよ?」

 重ねて問いかける中上。北条は難しい顔をして口を結んだ。そして、



「そうだなあ……やっぱり髪は綺麗だよね」



 ……結局答えるのか。



「凄い指通りが良いんだもん」
「確かに綺麗だよな、鷹月先輩の髪」
「見るからにサラッサラだよなー」
「うん。あとね、手がすごい小さいんだ」
「小さいのか? 意外だな」
「本人的にはコンプレックスらしいんだけど……僕はそれが可愛いと思うんだけどな。手を握った時とか」



 じっと手を眺めながら言う北条。
 ……彼女無し二人組が羨ましそうに見てるぞ。



「あとは……」
「まだあるのか……」

 多少うんざりしたように応じるバカ二人。
 ……当たり前だろう。北条に鷹月先輩の話を振るからこうなるんだ。

 だが、






「一度だけしか見たことないんだけど、デートの時にショートパンツにニーハイだったんだよね。すっごい脚綺麗だったなあ……」



 次なる北条の呟きに、即座に中上と松嶋が食いついた。






「そ……それは禁断の絶対領域!」
「鷹月先輩、美脚か! 見たい! それは見てみたい!!」



 盛り上がる二人に、だが瞬時に周囲が氷点下に変わる。――ド阿呆ども。






「……人の彼女を脳内で妄想しないでくれるかな……。…………殺すよ?」






 笑顔で凄む北条に、バカ二人は震え上がって首振り人形と化す。
 俺は大きなため息を吐いた。……こうなるのはわかってただろうが。






小出高校の
子高校生の
日常 



(まさかとは思うけど……下野は紫サンを脳内妄想してないよね?)
(するか!)


 
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