乙女の心得 |
本日最後の授業は担任の教科で、チャイムが鳴り響いた時には、既にホームルームまで終了していた。 面倒くさがりの担任のお陰で、何時もわたしは部員の誰よりも早く部室へと行けるのだ。 校庭のグランドを渡る風が木々を揺らす窓辺に座り、1人読書するこのひとときが最近のわたしのお気に入り。 その静寂を打ち破るように 旧校舎に慌ただしい物音が響いた。 ああ なのちゃんが来たのだなぁ。と既に当たり前になった光景を思い浮かべながら また木漏れ日の陰影に彩られたページに視線を落とす。 しかし予測に反し、息急き現れた意外な人物に わたしは目を瞬かせた。 「志乃ちゃん、今日は部員一番乗りね。でも扉を乱暴に扱っちゃ駄目よ。」 あまりにもビックリしたわたしは思わず、なのちゃんに言おうと用意していた台詞を そっくりそのまま志乃ちゃんに言っていたのだった。 そんなわたしをよそに 志乃ちゃんは瞳を輝かせて、クラスメートの橋本くんの話をわたしに話して聞かせた。 なぜか浮かれてる志乃ちゃんの可愛いらしい仕草に 笑みが溢れてしまう。志乃ちゃんは、くすくす笑うわたしの顔をポカンと見つめた。 「ううん、人の事には敏感なのになぁって思っただけ。」 わたしは素直な気持ち告げると 読んでいた本に再び視線を戻した。 視線はページを追うけれど、内容は頭に入ってこない。 …ほんと志乃ちゃんは、人の事には敏感なのになぁ、、、、、心配になる。 自分が学校でも一二を争う美少女だと自覚あるのかしらね? 志乃ちゃんの好みは、紫ちゃんみたいな正統派美少女みたいだから、可愛い系の自分は、違うと思ってる節があるから… きっと自覚はしてないよね。 なのちゃんが志乃ちゃんの事を"天然小悪魔"と命名してたのは、言い得て妙だと思う。 黙って あの大きなくりっとした瞳に見つめられると… その瞳に吸い込まれてしまいそう。 その上小首を傾げて、見上げられると最強。 男の子達が、好きになっちゃうのも分かる気がするなぁ。 だけど志乃ちゃんは、梯子を外すのも 上手い。 こう兄が言ってた学校生活に置いて、一番注意すべき人物の行動。 その1 何回も視線が合う。 逸らすのなら、まだ良し。視線が合った後、微笑む。手を振る…なら最悪。その人物は女性にだらしがない。 その2 沢山の荷物を抱えてるが、1人でも運べそうな量を"半分持つよ"と言ってくる異性。 "行く用事があるから…"と、わざわざ付け足してくるなら最悪。 その人物とは、けして2人きりになってはいけない。 ここまで極端ではないけれど、志乃ちゃんは男子のお誘いもスルリと躱す。 しかも無意識の危険回避だから凄いと思う。 わたしにはそれが出来ないから、こう兄に口を酸っぱくして色々注意されるのだろう。 だけど、わたしとの違いは、志乃ちゃんの拒否は、肝心な所が分かってない無意識の拒否だから断られた男の子は 諦めるのに諦められない。かくして 隠れ?ファンが広がっていく。 だからある意味一番、厄介とも言えるけれどね。 志乃ちゃんは優しくて、男女の違いなく公正で平等に対応してるから、女の子の僻みをかってないから良いけど、一歩間違えると…と、考える始めると ちょっと怖い。 乙女の心得 拒否する時は柔らかく、だけどキッパリ断る事。 それが一番大事! |