![]() | 僕の日常 |
第二図書室に夕焼け色の光が射し込んできた。 本を読んでいた、その手元にちょうど光が当たるらしく、紫サンは僅かに向きを変えた。その拍子に、さらり、長い髪が流れる。零れ落ちた髪を煩わしげにかき上げる姿が綺麗で目が離せなくなった。 僕は本を読むのを止めて、斜向かいの紫サンをこっそり盗み見た。 かき上げたばかりなのにまた零れかけている長い髪は、癖がなくまっすぐでさらさらで、とても触り心地がいいのを知っている。 きゅっと結ばれた気持ち厚めの唇からは、いつも辛辣な言葉が吐き出されるけれど、それが照れや優しさをくるんだオブラートだと知っている。 鋭い眼差しは文字を追うことに夢中で、ちらともこっちを見ようとしない。それが目の前のものだけを真剣に見つめているからだと知っている……。 「北条」 ……不意に、名前を呼ばれた。ドキッとする。 「なんですか?」 「読んでないだろ、本」 本から顔を上げることも、視線をこちらに向けることもせず。 それなのに問いかけではなく断定され、え、と思わず声が漏れた。 「……どうして?」 「ページを捲る音がしない」 僕は目を見張った。 そんなの、ほんの微かな音でしかないのに。 目の前の本に集中してても、ちゃんと自分を気にしてくれてるんだ。それがわかって思わず顔が緩む。 「ごめんなさい。紫サンが綺麗だったのでつい見とれてました」 返事の代わりに返ってきたのは、ハードカバーの角の一撃だった。 「ちょ……紫サン、角は痛いです!」 「そうか。悪いことをしたな。本に」 「そっちですか!?」 |