はじめての恋 A 〜 ドキドキ、ギュー 〜



あたしは廊下を全力で走り抜けた−

ドキドキ、ドキドキ胸が苦しい
走ったからとは違う…
よく分からない何かも加わったドキドキ


「あっ、いたっ!ちょっとなのっ!どーしちゃったの?もうすぐ先生来るよ?」
「…つぐみちゃん、胸が苦しい」
「え!?具合悪いの?大変!保健室に行こう」
「具合悪いのとは違う…。よく分からないドキドキ、ギュー!」
「ドキドキ、ギュー?後でちゃんと話を聞かせて?とりあえずクラスに行こ。何したの?髪の毛乱れちゃってるよ、直してあげる」
「ありがとう…」


つぐみちゃんに手を引っ張られながら、自分のクラスへと戻る


担任の先生がナルシストでキザな自己紹介をしている時も、クラスメイトが順に自己紹介している時も、あたしの頭の中は“しものひじり”でいっぱいだった


「さて次はそこのクルクル髪の毛の君」
「……」
「ちょっとなの…、なのの順番だってば」


つぐみちゃんに肘を突かれて、我に帰る


「先生に見惚れちゃったかな?うん、その気持ちは分かるよ。さあ、君の名前を言ってごらん?」
「…し、…吉野なのです」




思わず“しものひじり”と言いそうになった


「はい、次はショートカットの君ね」
「渡瀬つぐみです」


自己紹介の時に秘かに男子の間で吉野派か渡瀬派かで盛り上がってたらしい…

数日後、クラスの男子ほぼ全員が渡瀬派になりました(後日、理由が明らかになります)



気づくとHRも終わっていて、つぐみちゃんが帰り支度をしていた

「なの、帰りながら聞かせてよ?そのドキドキ、ギューを」
「うん」


校門を出ると、黒塗りリムジンが停まっていた
…どっかで見た車


「あっ、なのちゃ〜ん♪」


いかにもセレブですっ!という格好をして、手を振っている翠お姉ちゃん

「…お姉ちゃんなんでいるの?」
「ん〜、なのちゃんのお迎え?」
「なんで、疑問系なの?」
「まっ、いいじゃない♪帰りましょう♪つぐみちゃんも一緒に乗っていってね♪」
「…私はちょっと」
「あたし、つぐみちゃんと大事なお話があるから乗っていかない」
「ダーメ♪大事なお話ならお姉ちゃんも聞かないと、でしょ?」
「仕方がないよ、なの。お姉さんにも聞いてもらってみた

ら?」
「はあ…。乗ってく」
「やったぁ♪さあ、乗って、乗って♪」

仕方なくリムジンに乗り込むと、車がゆっくりと発進した



「なあ、さっきリムジンに乗って行ったの、聖に話し掛けられて逃げだしてった娘じゃん」
「失礼極まりない女だ」
「お嬢様なのかな〜?可愛いもんなぁ」
「…女は嫌いだ」




広いリムジンなのに、なぜ翠お姉ちゃんはあたしにくっついて座るんだろ…

「で、なのちゃんの大事なお話って何かしら?」
「今日ね、ある男子生徒を見た瞬間に身体中に電流が走ったの!
で、その彼から目が離せなくなって…、頭の中もその彼でいっぱいで……、胸がドキドキ、ギューってなるの。こんなの初めてで、何かの病気かな?」
「なの、それって…」
「え?つぐみちゃんは分かるの!?」
「ねえ、なのちゃん?今もその彼の事を話してて、胸が苦しくなるかしら?」
「うん、ドキドキしてギューってなる」
「そう…」
「え?あたし、何かの病気?」
「大丈夫だよ、なの」
「うふふ♪なのちゃん、それはね………、恋よ♪
なのちゃんはその彼に恋したのよ。一目惚れってヤツ



ね♪」


………一目惚れ?
………こい?
………コイ?


「泳いでる、コイ?」
「ばっか、なの違う!恋!恋愛の恋!」


……………って、あの恋!?



「えー!あたし、恋したの!?」


これが、恋?

恋ってドキドキ、ギューっなんだ!

あたし、“しものひじり”にドキドキ、ギューなんだっ!


日常 かんな 志乃 なの 紫1 
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