それは一般的にノロケと言う。



 


「どうして……なら赦せちゃうかな……」

 彼女がポツリと洩らした呟きを、ウチは聞き逃さんかった。





   それは一般的に



「一体何に悩んどるんや?」
「え? 何アリカ? 何のこと!?」
「……心の声が洩れとるで、ゆかりん」

 ウチが指摘しちゃると、彼女は赤うなった。
 ……彼女らしゅうない顔。けどめっちゃええ顔。
 今まで彼女に足りんかった顔やと、そう思うた。



「で? 何に悩んどるんや、ゆかりん?」

 改めて聞き直したウチを見て、ゆかりんは嫌そうな顔をする。

「……わざわざそこに戻さなくていい」
「戻すわ。せっかくこんなオモロそうなネタ……じゃなかったゆかりんのお悩み相談に乗ったろう思うたのに」
「…………人の悩みをネタ扱いするようなアリカには話したくない」
「じゃ……『紫』、『和美』には?」

 『アリカ』やのおて『和美』の顔で聞いてやる。するとゆかりんはため息をついた。



「私も和美くらい上手に、自分を使い分けられたらいいのにな……」
「紫は裏表のない真っ直ぐさが魅力なんや。それは無くしたらアカンで」

 これは本気で言うとく。ウチにはない彼女の美徳やから。

「それにそう言うとこを好いてくれとんちゃうの? 彼氏クン」



 そう続けるとゆかりんはもっと赤うなった。可愛ええ。ホンマ可愛ええ。……羨ましいわ彼氏クン。



「交際は順調みたいやな。今度正式に紹介してや、噂の背高の後輩クン」
「……機会があればな。ってアリカは私の親か?」
「『親』友やろ? 水くさいこと言わんといてぇな紫。……で、何なら赦せるって? 彼氏クンに」






 ――湯沸かし器も真っ青になるくらい、ゆかりんは見事に一瞬で沸騰した。



「なっなっなっ……」
「ホンマ可愛ええなー、ゆかりん。そんな反応しよったら直ぐに食われるでー」
「く……食われるって何を!?」

 うぶな反応からするに、ちゃんと清いオツキアイをしとるらしい。まあなんせゆかりんやからな。

「どこまで食われたんや? さすがにチューは済んどるよな、もう。そん先は?」
「食われるって……!? その先って……ないない、ないから!」

 もっと赤うなった顔と手をぶんぶん振りながらゆかりんは全否定した。……ほぉか、チューまでか。

「で、結局何に悩んどったんや?」

 この問いも何度目やか。振った手で頭を抱えたゆかりんが、ジト目でウチを睨みながらぼしょぼしょと言うた。



「……もうなんか全部ぶっちゃけた気がするから言うけど……どうして北条になら、何をされても赦せちゃうかな、って……」






ノロケと言う。   



 ウチは笑うた。予想はしとったが……またなんちゅう可愛ええ悩みなんや。



「好いた相手には何されても嬉しいもんやでゆかりん。ちいと無体なお願いされてもつい聞いてまうもんや。……せやけどな」

 ウチはゆかりんを手招きした。机越しに身を寄せてきた彼女にだけ聞こえるような声量で言うたる。






「……それはな、一般的にノロケっちゅーんやで。ゆかりん」



 ウチの一言に、ゆかりんは完全に机に突っ伏した。


 
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