はじまりはここから -上-



 


 今日の一番最後の議題は、旧校舎三階の第二図書室についてだった。
 新校舎のメイン図書室とは違い、手入れも行き届いてない上、隣は半ば倉庫化した空き教室。活用するにもし難いと上がってきた議題だったが、大した意見が出るわけでもなく、提案に見せかけた独り言がおざなりに飛び交うだけ。
 いい加減うんざりして窓の外に目をやった。視線の先には件の旧校舎。
 ふと、妙案を思いついた。

「はい、宮本君」

 進行役の副会長が挙手した俺を指名した。俺は自信たっぷりな笑みを浮かべ、こう言った。

「俺に一任して貰えませんか? 第二図書室と隣の空き教室の管理及び維持、一カ月でカタを付けてみせます」






【はじまりはここから】




 文芸部の冊子のバックナンバーを整理していたなのちゃんが首を傾げた。

「あれ、ここ……」
「どうしたの、なのちゃん?」

 同じように整理していた志乃ちゃんが顔を上げて聞き返す。なのちゃんは子犬のように首を傾げたまま尋ねてきた。

「この年度から一昨年までの間が抜けてるんですけど……」
「それはね、その間は文芸部がなかったからよ。通し番号見たらちゃんと繋がってると思うけど?」
「あ、ホントだ」

 なのちゃんが納得したように手を叩く。そうして、今度は反対側に首を傾げた。

「じゃあ今の文芸部って、センパイたちが作ったんですか?」
「まあ……そうね。かんなちゃんが発起人になって、声かけて部員集めて」

 ねえかんなちゃん? 視線で問われ、わたしはあの頃に想いを馳せながら頷いた。






 閉め切ってあった部屋からは、少し黴っぽい匂いがした。
 旧校舎の三階、奥まった場所にある空き教室。使われなくなったアンティーク調の応接セットや机、本棚が無造作においてある。思わず、すごい、と呟いた。

「こんなとこがあったなんて……」

 秘密基地みたいだね。そう言って隣の幼なじみを見上げると、彼――宮本浩輝はニヤリと笑った。

「目が輝いてるな」
「だって、すごいんだもん」
「好きだもんなお前。こういうの」

 苦笑した彼がふと真顔になった。

「かんな。俺の出す条件をクリアできたなら、この教室と第二図書室をかんなの秘密基地にしていい」
「ホントに?」
「ああ。生徒会の許可は取った」

 条件って何だろう。
 それより学校の一部を好きにしていいって……こう兄どれだけ実力者なんだろう。
 些か思考が脱線しだしたわたしに、こう兄が突きつけた条件とは、

 ――相澤かんなが責任者となっての、部の創設。
 創部に必要な人数と顧問を確保し、申請書を生徒会に提出することができたなら、この部屋を部室として好きに使うことを許可する。隣の図書室も維持管理してくれるなら好きに使っていい――

「悪くない条件だろう?」

 こう兄は挑戦的な笑みを浮かべた。
 わたしは頭の中で打算する。悪くないどころか魅力的な条件だ。
 そしてわたしが部を立ち上げるとしたら……

「……こう兄」
「なんだ?」
「小出高校に文芸部ってある?」
「あった、と言うべきだろうな。何年か前に廃部になっている」

 こう兄は事も無げに言った。
 ……うん。よし!

「やりたい。やらせて頂戴!」
「期限は一カ月だ。俺の期待を裏切るなよかんな?」

 意地悪く笑って、こう兄はわたしの頭をポンと叩いた。言動とは裏腹に、その目はあくまでも優しい。
 こういうところが、大好きだ。

「任せなさい!」

 大好きな彼のために、わたしの精一杯で期待に応えよう。
 わたしはきびすを返したこう兄の後を追いながら、頭の中でプランを練り始めた。



 
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