傍観者の恋



恋ってものは、当事者よりも傍観者の方が、実によく見える物で……

(中略)


恋って…
なんて厄介で、愛しきものなんだろう。


───────────相澤 かんな



仕上げた文章の誤字・脱字を ざっとチェックして、パソコンの電源を落とした。

今度の部紙のテーマは"恋"


真っ暗になったパソコンの画面に写り込んだ自分の姿を見つけ…たった今。書き上げたばかりのテーマに つい自分の事を考えてみる。






わたしの恋は、当事者の恋じゃなくて
"傍観者の恋"なのだ───。






物心がつく 遥か前から浩輝が好きだった。


だけど中学時代。友人に「本当の恋をしなよ。」 って言われ…
"本当の恋って何?恋に偽物があるの?" そう尋ねるわたしに友人はキッパリと言い放った。

「ハンサムで あんなに何でも出来ちゃう幼なじみがいれば好きになっちゃうのは分かるけれど…それって刷り込みじゃないの?」



こう兄に憧れ…?ハッキリ言ってそんな物はない。確かに今の こう兄なら憧れの存在に足るべき人物だろう。



でも 私が大好きになったこう兄は、ワガママで意地悪。ついでに言えばどS。 でも本当は優しい。 そんなガキ大将だった。


そう反論しかけて、友人が申し訳なさそうに 小さな声で
「雛が最初に見た物を親と思うように…」

ゴニョゴニョと力説を続ける姿を見て、わたしは反論を止めた。
その表情には、見覚えがあったからだ。嗚呼…彼女も浩輝が好きなんだなぁ。と妙に納得したのを よく覚えている。


同時に 彼女はわたしの事を大事に思ってくれてるのを わたしは良く知ってる。

あの頃のわたしも彼女も幼く、適切な言葉を知らなかった。 だけど彼女の忠告の真意は、理解出来たと思う。




浩輝の事を好きな先輩が、 「幼なじみだからってウロチョロするな。」「幼なじみじゃなかったら、あんたなんか相手にされてねぇ〜よ。ウザイ」と、集団で呼び出されては 度々言われていた。



わたしの恋心は、わたしをよく知る友人の瞳にすら "刷り込み""憧れ"と映るのだ。
…ひょっとしたら浩輝の瞳にすら、そう映るのかも…しれない。そう思うと それが一番辛く、哀しくて
また、集団で呼び出されている事を浩輝に知られ、心配をかけたり 手を煩わせたくなくて…

わたしは、この恋を胸の奥底に秘める事を決めた。

ただ無邪気に兄を慕う妹のように、振る舞い続けた。すると、受験シ―ズンの到来や高校と言った環境が変わった影響もあるのだろうが、それからは一切 女生徒に呼び出される事が無くなったのだった。

それに後からよく考えてみると、どことなく家族と一歩距離を置いてる浩輝にとって、わたしは唯一 ありのまま姿でいれる存在だと思うと わたしの勝手な恋愛感情で関係を壊してはいけないと強く思った。


浩輝の一番傍で見つめている傍観者になろう。それがわたしの"最上級の好き"なんだ。


なんて自分自身を見つめ直していると、突然ガタンと大きな物音がして思考が中断された。



「こんなテーマで書けるかー!」
紫ちゃんが椅子を蹴倒して、雄叫びを上げていた。


部室での大声も 雄叫びの内容も文芸部の部長としては到底容認出来る物ではなかったから、わたしは


「新入部員の前で泣き言いわないの」
そう言って、紫ちゃんを諌めた。



小説のテーマとして"恋"それはなんて ありふれて使いふるされたテーマでありながら、こんなにも多様性を見せるのだろう?



三者三様な対応を見せる部員達を 紅茶を飲みながら観察してると


"…この子達は 一体どんな恋をするんだろう…か?"
"幸せな恋をして欲しいな。"

そんな感情が、ふと頭に浮かんで





そしてわたしは考えるのを止めて、小さく笑った。


なんか……思考が年寄りくさくなっちゃったかな?



わたしはカップを洗う為に 勢いよく立ち上がった。

"恋は突然 舞い落ちる"
"命短し、恋せよ乙女"だよね。



fin
日常 かんな 志乃 なの 紫1 
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