![]() | 似て非なる二人 |
机の上に置かれた緑色のボードと、そこに並んだ白と黒の石を見つめながら、紫ちゃんは真剣に次の一手を考えている。それを北条君が微笑ましそうに見つめていて、――そしてそれをアタシが観察している。 「ここでどうだ!」 「そこですか。じゃあ僕はここで」 長い熟考の末紫ちゃんが一石を投じ、北条君はすぐに石を置く。そしてまた紫ちゃんが考える。その繰り返し。 なのに結果は毎回、北条君の圧勝なのだ。 「あーっ! また負けたー!」 「もう一戦しますか?」 「勝つまでやる!」 その返事に苦笑しながら、北条君が石を片づける。綺麗になっていく盤を見つめながら、紫ちゃんは難しい顔をしていた。 「何で北条には勝てないかな……なのっちには勝てるのに」 「どうして比較対象がなのちゃんなの?」 アタシは興味を引かれて尋ねた。それに対する紫ちゃんの答えは明快だった。 「だって志乃ちゃん。北条となのっちって、なんか似てない?」 成程それはわからないでもない、とアタシは思った。 北条君となのちゃん。確かに似ている点は多々ある。 何より、二人共入学早々に一目惚れをし、その相手を追いかけそして追い詰めていっている。その事実だけ見れば、実によく似た二人に思える。 だけどその手段は似て非なるものだともアタシは思う。 オセロを見ていると尚更そう思える。二人の戦法は対極的だ。 なのちゃんは一番多くひっくり返せそうなところを狙って石を置く。まるで自分の色を見せつけるかのようで、攻めていますというアピール力は半端ない。 北条君は直感的に置いているように見せながら、地道に周囲を固めていく。そして最後に全部をひっくり返してしまう。とてもそうは見えないのに緻密に計算されているみたいだ。 二人の恋に対するスタンスも、実はオセロと同じだ。 なのちゃんはいつも全力で、自分が彼を好きなことをアピールしている。彼女の恋のお相手である下野君は、なのちゃんを邪険に扱いながらも、なんだかんだで彼女の色に染められつつある。 北条君は、紫ちゃんが逃げられないように、そして彼女に他の男が寄りつかないように、着々と周りを固めていっている最中だ。そのことに紫ちゃんは気づいていない。……最後どうなるかは、推して知るべし。 「紫ちゃん……北条君となのちゃん、似てるけど全然違うよ?」 「全然かな? ……ああまあ確かに、同じワンコタイプでも、なのっちは可愛いが北条は可愛くないな」 全く見当違いなことを言い出した紫ちゃんに、アタシは苦笑した。 あーあ。北条君がなんだか良い笑顔を浮かべてるし。あれは何か企んでるっぽいけど…… ……アタシ、知ーらない。 「紫サン。次あなたが勝ったら、僕、何でもひとつ言うことを聞いてあげます」 「ずいぶん上から目線だな生意気な。……わかった、お望み通り絶対勝ってやる」 「わかりました。じゃあもし負けたら、僕のお願いをひとつ聞いてくださいね」 「……どうしてそうなる!?」 「だって絶対に勝つんでしょう? それとも自信ありませんか?」 「ない訳ないだろう! わかった、勝負だ!!」 まんまと乗せられた紫ちゃんが石を手に取った。 パチリ。小気味良い音。すぐに北条君が白い石を置く。 今度は紫ちゃんが善戦している、ように見える盤面を見ながら、アタシは小さく微笑んだ。 ……最後どうなるかは、推して知るべし。 |