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チームメイトA

ある日、それはガイ先生の貴重な休暇の日のことである。
せっかくの休暇であるから森にでもいって修業をするかと里に足を踏み入れた途端、愛弟子の一人であるテンテンに声を掛けられた。
「ガイ先生!」
「テンテンじゃないか!久しぶりだなぁ!」
「先生、今日休みですよね!お願いがあるんですけど………」
額当てをしていないところからすると、彼女も今日は休みなのだろうか。それにしても、テンテンから自分のもとを訪れるとは珍しいこともあるものだ。ガイ先生は不思議に思ったが、可愛い弟子の願いを聞き入れないわけにはいくまいと、わははと豪快に笑いテンテンに付き合うことにした。



「修業をつけてほしいだなんてな、珍しいこともあるもんだ!オレは嬉しいぞ、テンテン!」

二人は里を抜けて、ガイ先生の少々おんぼろな熱血道場へと向かっていた。
愛弟子である、リーとネジとテンテン。リー以外の二人には“熱血で暑苦しいガイ先生”としばし距離を置かれるのだが、今日は随分と嬉しそうに自分より二、三歩後ろからちょこちょこと付いてくるテンテン。嬉しいことだが、一体どういう風の吹きまわしだろうか、ガイ先生顎に手をやり、首をひねった。

「中忍になってから、こうやって先生に修業をつけてもらうことも減っちゃったでしょ!それに先生ってばいつもリーばっかりなんだもん!わたしだって先生に面倒みてほしいのにー」
道場に着くなり、テンテンは頬を膨らませて言った。
可愛いこといってくれるじゃないか……とガイ先生は目に涙を浮かべ「そうか、そうか」と頷きながら、熱のこもった道場内に新しい空気をいれるため、古くなった木の窓をあけにかかった。
テンテンも手近な窓に手をかける。しかし建てつけがわるいのか、それとも木の窓が湿気でだめになったのか、どんなに力を入れても窓は開かない。
「先生、ここ開かないんですけど…」
「どれどれ、いやこれにはコツがあってな…」
そうしてガイ先生が窓に手を触れた途端、外から何者かによって勢いよく窓が動かされた。そしてバン!と大きな音をたてて、全開になったところから突然リーの顔が出てきたので、二人は思わず後ろに飛びのいた。
「ぎゃ!リー!?」
「テンテン、ズルいですよ!抜け駆けはよしてください!!」
「げ!アンタ、付けて来てたのね!今日はわたしがガイ先生と約束してるの!」
突然現れたリーとテンテンがこれまた唐突に喧嘩を始める。ガイ先生は「これも青春だな」とさわやかに笑うと再び他の窓へと向かう。
開かれた窓から森の木々の匂いが混じる風がさわやかに入ってくる。こんな心地よい風に吹かれて、後ろでは愛弟子たちが師である自分を取り合うという青春に励んでいる。ガイ先生はいま最高の休暇を味わっていた。
「今日はわたしが先約よ!ガイ先生の家の前でずっと待ってたんだから」
「なにを〜!!ガイ先生、ボクもご一緒してもいいですか!?いいですよね!?」
「あっ、リー!ズルいわよ!!」
テンテンとリーがドタドタとガイ先生の元まで走ってくる。二人の喧嘩の勝敗はどうやらガイ先生にかかっているらしかった。それに戸惑うガイ先生。
「お前らがオレと修業したい気持ちは嬉しいんだがな、オレたちは同じ班なんだ、仲良くみんなで…」
そこまで言いかけたところで、道場の入り口に誰かが立っているのが見えた。
「あれ?ネジ?」
テンテンが目を細め、リーは眉をひそめた。
「お前ら、卑怯だぞ」
「ライバルはテンテンだけではなかったのですね!!」
ネジはふんと鼻を鳴らしてリーを一瞥すると、ガイ先生の方へ近付いて行く。
「ネジがこの道場に来るなんて珍しいな!今日はどうしたんだ」
「ああ、先生に修業をつけてもらおうと思って。いいですよね」
「なにー!!!!ネジまで!?今日のお前らどうしたんだ!!!」
テンテンとリーが歯を食いしばってネジとガイ先生のやり取りを見ている。
さて、そもそも三人は、どうしてこんなにもガイ先生と修業がしたいのか。
実はそれには共通の理由があるのだったが、ガイ先生に知られまいとして、三人はそれらしい理由を口々にした。
「先生、わたしは本当に先生と修業がしたいんです。わたしのことは、リーと違っていつもほったらかしじゃない」
「オレもだ。たまにはリーだけじゃなくオレにも修業をつけてください」
「な、二人ともボクを不利な方へ…!!!」
ジリジリと三人はガイ先生に詰め寄り、道場内に三人の熱気が漂い始める。先ほどまで吹いていたさわやかな風が今はない。ガイ先生の額に大きな粒の汗が浮かぶ。
「す、すまない。お前ら…。オレは、オレは……」
目を閉じて呻く先生。
それをさらに追い詰めていく弟子たち。
わなわなと拳を握り、ついにガイ先生も我慢の限界!
「うぉぉぉ!お前たちぃ!!オレには選べん!三人で熱血修業だーーー!」
ガシッと弟子の三人を一まとめに胸に抱きしめる。
ぎゃ!とテンテンが叫び、ネジが「ぎゃ!って…」とテンテンに突っ込み、リーはガイ先生に負けまいと「先生ー!」と力いっぱいに叫んだ。
結局その日、ガイ先生は日暮れまで三人まとめて熱血道場と演習場で修業をみてやった。
しかし、どうしたことだろう。リー以外の二人はさっきとは打って変わって全くやる気をなくしていた。
「どうした、ネジ!テンテン!熱血が足りないぞ!!」
修業の最後は里の外を100周。ガイ先生は自分の後ろに続く二人に言う。
「わたしたちはリーとは違います。それに一人ずつ修業見て欲しかったのにー」
テンテンは息を切らしながら答えた。その苦い表情を見て、ガイ先生はハッとし、突然走る足を止めた。ガイ先生のすぐ後ろを走っていたリーは反応しきれず、少しぶつかる。
ガイ先生は驚いている弟子たちに近付いていくと順番に三人の頭に手を添えた。、テンテンにはそっと。ネジにはやや強めに。リーには思いっきり強く。
「オレはな、お前たちそれぞれにあった愛し方をしているんだぞ!だからテンテンとリーを同じようにみるわけがないだろう!!テンテンはテンテンだ!三人まとめて修業をつけていても、オレは一人一人相手してるときと同様、全力で相手しているんだぞ!」
「はぁ…」
「なんだ、ネジ!ため息なんぞ吐きおって!オレはお前のことも忘れてないぞ〜!」
「おおお!やっぱりガイ先生はいうことが違います!」
「リー!もちろん、お前のこともだぞー!!」
「押忍!先生!」
少し暑苦しいが、ガイ先生は弟子たち三人をこんなにも愛しているのである。
そんな自分たちの熱き師にリーは目に涙を、ネジとテンテンは苦笑いを浮かべた。それでもネジとテンテンは内心すごく喜んでいた。
陽がすっかり沈み、修業を終えた三人はガイ先生の家で夕食をごちそうしてもらい、たった今笑顔で先生の家を後にしたところだった。窓からガイ先生が帰っていく弟子たちに手を振っている。
「いつまで手を振ってるつもりなんだ……」
ネジがやれやれと頭を抱えていると、三人の前に人影が見えた。その影をリーが駆け足で出迎える。
「カカシ先生!」
「いやぁ、よくやってくれたねー。助かったよ」
「カカシ先生との約束通り、一日ガイ先生と過ごしました!」
暗闇からふいに現れたカカシ先生はいつもより少しラフな格好をしていた。その表情はいつも通り眠そうな目をしていたが、顔色は良く、さらに力が抜けているように見えた。そんな様子から彼がこの日一日休みだったということが伺えた。
「カカシ先生、今日はよく休めました?いつもガイ先生が迷惑かけちゃってすみません」
「お前らのお蔭ですっかり回復したよ。さすがに今日はガイのやつと勝負する元気はなかったんだ。ま、今日は助かった。ガイも勝負のことはすっかり忘れてるだろ。結局三人でガイの相手してくれたの?」
リーが「はい!」と返事をすると、ネジとテンテンも頷いた。
「最初はカカシ先生のお礼を独り占めするために、みんなでガイ先生を取り合ってたんだけど…」
「ガイもさぞかし喜んだでしょうに」
「はい。それで結局一まとめにされちゃいました」
テンテンが恥ずかしそうに言うと、カカシ先生は穏やかに笑って、「今度約束通り、三人分のお礼をするよ。何がいいか考えておいて」というと片手をヒラヒラと振ってまた闇に消えていった。
「本当ガイ先生喜んでたよね」
三人はカカシ先生が見えなくなるまでその場に立ち尽くした。そしてテンテンがそう言うと、男たちは頷いた。
「最初から三人で修業申し込めば良かったね」
「そうだな」
「これからガイ先生との修業のときは二人もお誘いしますね!」
リーがガイ先生そっくりの暑苦しい笑顔でそう言うので、ネジとテンテンは「たまにでいいよ」と苦笑いを浮かべた。



その晩、ガイは弟子たちのことを思い大いに気持ち良く床についた。灯りを消すのを忘れたと、目を開けるとふと壁に適当にぶら下がってるカレンダーが目に付いた。
彼は今日の日付に印とともに“カカシと勝負”とデカデカと書いてあるのを見た。
そして、「ああ、そうだ、今日はカカシも休暇の日だったか」とつぶやく。そしてたった今つぶやいたことをもう一度頭で考える。
「………しまったぁぁぁぁ!!!!」
永遠のライバルと豪語するカカシとの大事な決闘をすっかり忘れていたことに気付き、ガバっと起き上がるガイ先生。
それでもガイ先生の脳裏には、自分を取り合う弟子たちの姿、四人でたくさん笑った今日一日が浮かんできた。
「…まぁ、たまの休みくらいは可愛い弟子たちと過ごすのもよかろう」
ガイ先生はすっと立ち上がってペンを手握るとカレンダーの“カカシと勝負”の文字をガシガシと塗りつぶし、“愛弟子たちと修行”と書き直して布団にもぐり込むと、朝までぐっすり眠ってしまうのだった。



おしまい