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歯がゆい青春!(中)

ネジとテンテンが朝修業を終えて数時間。
テンテンは一人昼の修業を終え、里をふらふらと歩いていた。
開かれた商店街で様々な人が行き交う中、露店で色々なものを目にしたり、手にとったりゆっくりとした時間を過ごしていた。
そのとき、テンテンは何者かが背後から小走りでこちらに近づいてくるのに気付いた。
「テンテン!!」
後ろを振り返るまえに、耳を塞ぎたくなるくらい大きな声で名前が呼ばれた。周囲の視線が一斉にテンテンの方に集中する。
テンテンは少し苛立った様子で、ため息をついた。振り返らなくても分かる、こんな大声を出す者は一人しかいない。
「リー!」
「こんにちは、テンテン!」
「あのさぁ、そんな大きな声出さなくても聞こえるって!」
リーは「すみません」と苦笑いし、右手で頭をかいた。
そんなリーの出で立ちはマイトスーツに木ノ葉ベストといつもと変わらず、他にもこれといって変わった様子はなかった。そのためテンテンは訝しげにリーを見た。
「リー、どこか悪いんじゃないの?朝修業来なかったからてっきり風邪でも引いたのかと思ったわ。珍しいじゃない、あんたが修業サボるなんて」
テンテンはそう言って、リーの黒い前髪に隠れたおでこを小突いた。
「ちがいますよ、テンテン!!ボクはサボったんじゃありません!!!」
リーは「いやだなぁ!」とテンテンの言葉を聞き捨てならぬといった様子で、両拳を硬く握りしめてこれまた大きな声で言い放った。
「ボクは、チャンスを与えたんじゃないですか!」
リーは声が大きい。騒がしい商店街にいても、彼の大声に驚いた人々の視線がこちらに集まってしまう。テンテンは恥ずかしくなり慌ててリーの木ノ葉ベストの襟部分を引っ掴んで道の端に引っ張って行く。
「だーかーらー、うるさいっての〜!しかもなによ、チャンスって」
「またまた!とぼけないで下さい、テンテン!!大丈夫です、ボクは知っているんですから!」
リーは得意気に腕を組み目を閉じて何度も頷いていたが、一方のテンテンは彼の言っていることに皆目見当がつかなかった。
おまけにリーのいちいちわざとらしい演出にテンテンはだんだんと苛立ちを募らせ、「もったいつけてないで言いなさいよ!」と終いに彼の頭をバシっと叩いた。
するとリーは咳払いを一つして、姿勢を正し、やけに改まった。その様子にテンテンはすこし嫌な予感がしたのだった。
「ネジのことですよ!二人っきりにしてあげたんじゃないですか!」
リーは、ガイ先生と同じナイスガイなポーズをし、さらにウインクまで添えてテンテンに言った。
彼女は驚きのあまり、だた固まってしまい、何も言葉が思い浮かばなかった。
そのテンテンのおかしな様子にリーが「どうしました?」と訊ねる。
「どうして、リーが知ってるの?」
テンテンが小さい声で言う。
「いつから知ってたの?わたしがネジのこと好きなこと!わたし、誰にも言っていないのに」
「なっ、テンテンがネジを?!」
「なによ、知ってたんじゃないの?」
「いやいや、知っていましたよ、それはもちろん。テ、テンテンがいつもネジを心配している様子を見れば一目瞭然ですから!」
テンテンは彼の言葉によって、目をリー以上に丸くしてしまう。
リーはというと、ははぁ、やはりそうでしたかとかなんとか言っていて、テンテンはそんなリーを怪しむ目でみた。
「ネジはボクと違ってそういうところに鈍感ですからね。でも、ボクは気が付いていましたよ!」
しかし、そう言って笑顔になられると何も言い返せなかった。
テンテンは出来れば、ネジを好きだということを自分自身にも曖昧にしていたかった。彼を好きだとはっきり自覚したり、第三者に打ち明けることで、ネジに何か求めてしまいそうで、せっかく笑うようになったネジを、自分のせいで困らせてしまいそうで、それだけは避けたかった。
二人は少しの間沈黙し、リーは困った顔でテンテンの様子を伺っていたがこうしていても仕方がないと、少し先の通りにあるベンチを指差して「あっちで少しやすみませんか」とテンテンの重くなった足を動かした。
リーはテンテンを先に座らせると、自分もゆっくりと腰を下ろした。
息をすっと吸い込んで、会話を試みる。
「今日の朝修業は上手くいったんですよね?」
「ネジに怪我をさせちゃったのよ、わたしのクナイがあたっちゃってさ」
「ふむふむ。それでどうなったんです」
「何が?」
「何がって、終始二人っきりだったんですよね?」
「そりゃ、リーが来なかったから」
「いえ、だから、その、こ、告白は……?」
リーは自分で言っておきながら、顔を赤く染めモジモジとした。
「リーじゃあるまいし、いきなり告白なんてしないわよ」
「え!!告白はなかったのですか!!」
テンテンがあははと笑い飛ばすと、リーはこれでもかというくらいの大きなリアクションでベンチから転げ落ちた。
テンテンが思うところによると、リーは朝修業に出なかったことのショックが大きいようだった。彼の服がところどころ泥で汚れているのを見ると、一人でもハードな修業をしていたことが伺えたが、やはり青春するには仲間と行動!といつも言っているリーであるから、できれば一人より三人で修業がしたいというところなのだろう。
しかし、リーが落ち込んでいるのはそれだけが原因ではなかった。もちろんテンテンは知る由もないが。
その後ショックから立ち直ったリーは積極的にテンテンに会話を持ちかけ、彼女もだんだん自分の気持ちに素直になり始めた。やがてはテンテンからリーに問いかけた。
リーはサクラのどこか好きなのか、熱烈アピールして恥ずかしくないのか、いつからテンテンの気持ちに気が付いたのか、ネジは自分の気持ちに迷惑するのではないかなど、リーとはいつも一緒にいるのにはじめて話すことばかりだとテンテンは思った。
「とにかく!ボクはサクラさんのすべてがす、す、す……」
「でもサクラはサスケが好きなんでしょう?」
サクラについて熱弁を奮う言葉を遮るように、さらりと言いのけられたテンテンの台詞によってリーはベンチの背もたれにぐにゃりともたれる結果になる。
「サスケくんが、うらやましいです……」
テンテンは「そうね」とだけ言う。
リーは横目でテンテンを見る。
「ネジは誰が好きなんでしょうね」
「さあー?」
「ボクはテ…」
「あたしのことは良いの!あんたは自分の恋路でも考えてなさい!」
テンテンはネジが好きであったが、彼に誰か想うひとがいるとか、自分のことを好きになってほしいとか、そんなことを考えないようにしていた。
恋愛によって、期待したり、悲しくなったり
することは自分にも相手にも迷惑になると思っていたからだった。それでも心の片隅では期待してしまうときもあった。
「テンテン、ボクはこれから修業なので失礼します!」
「え、随分突然じゃない」
「テンテン、」
リーは椅子から降り、まだ座ったままのテンテンの視線と合うように屈んだ。
「きみは、相手がネジだからなにか遠慮してるのでしょうか。ボクは、むしろ相手がネジだからこそもっと積極的にいっていいと思いますよ!!もっとポジティブに考えてください!きっとうまく行きますから!」
そう言ったリーがあまりに良い人に感じられたテンテンはどこか悔しくて、思わず口を尖らせた。
そして、リーはテンテンが頷く前にさっさと立ち去ってしまった。
リーはなかなか決まった自分自身に満足し、満面の笑みを浮かべていた。彼を見送るテンテンはリーの背しか見えなかったが、その背中はリーの顔が浮かべている表情を十分に語っていた。