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歯がゆい青春!(上)

それは森の中での朝修業の一場面。いつもと同じ場所にいつもの時間。
ただそこにはいつものメンバーの一人が欠けていた。
「あらネジ、リーは?」
「さあな」
いつもならば一番に来て修業を始めているはずのリーがいない。リーは訳あって、いまこの場に来ることが出来ないのである。
テンテンは到着するなり一足先に二人を待っていたネジに訊ねた。
しかしネジは相変わらず無愛想で、テンテンはそんな彼の態度にもすでに慣れていた。
「リーが遅刻なんて珍しいわね。そういえば、 寝坊すると朝から腕立て1000回する自分ルールきめたっていってたっけ」
「まったくリーには呆れるな。寝坊したうえにさらに腕立てに時間を取るやつがあるか。さぁ、先に始めるぞ」
朝修業は、リーとネジとテンテンで毎回順番に修業内容を決めて行っていた。
一昨日はリーの希望で、リーがネジとテンテンを同時に組手の相手をし、昨日はネジの希望で幻術の修業をした。リーは忍術が出来ないので、リーが幻術の的になり、リーは幻術返しに失敗した。
そして今日はテンテンの希望が通る日。そして希望はもちろん、忍具の修業!
「新しい忍具を試してみたいのよ」
テンテンがそう言うと、ネジは頷いた。
「オレが的になってやる。回避するだけでも修業になるからな。本気でやれよ」
テンテンは「ようし」と気合いを入れると、いくらか間合いを取り、掛け声とともに巻物から一斉に忍具を放った。
どれも正確にネジ目掛けて飛んでいく。
ネジの方もしばらくそれぞれの流れを見切り見事に回避していたが、その予想を遥かに超える数えきれないほどの忍具の中の一つのクナイが彼の肩を掠り、服に赤い血がじんわりと滲んだ。
「あ!ネジごめん!!」
「大丈夫だ、謝るな」
テンテンは巻物を放り投げ、慌ててネジのもとに駆け寄るが、ネジは片手でテンテンを止める。
重傷ではなかったが、次の任務がすでに決まっていた為大事をとって修業はここまでとなった。
二人は大きな木の下で、その大きな幹に寄りかかった。ネジは片膝を立てて座り、肩の傷を止血をする。テンテンはそれを心配そうに横から覗きこんでいた。
「大丈夫かな、血止まる?」
「止まるさ、気にしないで良い」
「痛くない?」
「平気だよ」
テンテンは申し訳なさそうに小さく呻く。それからしばらく彼の様子をみて止血が済んだのを確認すると、先ほど散らばったクナイを拾いにかかった。
すべて集め終わってネジの所に戻ると彼は少し微笑みながら「流石にアレだけのクナイを投げられたら避けきれないな」とすこしはにかんだ笑顔で言った。
「ネジが本気でやれなんていうからよ」
「まあな、でもテンテンは手加減なしだ」
「だから、ネジがー……」
テンテンが頬を膨らませて言いかけると、ネジが笑いながら「わかった」言葉を遮る。
そんなネジにテンテンも「もう!」と言うなり腰に手を当てて笑った。
テンテンは思った。
ネジは変わった。前よりも笑うようになった。
班結成当時からネジの志は高く、何事にも真面目であった。しかし同時に頭が硬いところがあり、クール以上に無愛想な性格をしていた。
しかし彼は中忍試験を機に変わったのだ。
性格が多少丸くなった。それからリーの馬鹿につきあったり、より口数が多くなった、そして何より、笑うようになったことがテンテンは嬉しかった。
「ネジが笑うと得した気分!」
ネジはテンテンのことを見て小さく笑った。
テンテンはネジの笑顔をみるたびに喜んだ。
彼女はネジが好きなのだ。
彼が抱える苦悩や重荷が少しでもなくなればとずっと思っていた。そして少しでも多くネジが笑ってくれたらと願っていた。
「結局、リー来なかったね」
「そうだな」
「風邪でもひいたかな。明日から任務なのにね」
二人は森を抜け、里の中を並んで歩いた。
そして別れ際、テンテンはもう一度ネジに肩の傷について詫びた。
「ほんとにごめんね。早く治してね」
「気にするな。もともとオレの実力不足が原因だ。ふがいない」
ネジがため息まじりに目を細めて「こんなことなら……」と言いかけたことに、テンテンは首を傾げる。
「ネジ?あの、」
「すまない、大丈夫だ」
ネジはテンテンの言葉を遮って行ってしまう。
テンテンはその後ろ姿をずっと見ていた。
「わたしが心配してるって分からないのかしら」
テンテンがそうつぶやくと、まるでそれが聞こえたかのようなタイミングでネジが振り返る。朝早い時間のまだ静かな里にネジの声が響く。
「テンテン、気をつけて帰れよ」
テンテンが慌てて返事をすると、ネジは目を伏せ、口元に笑顔を浮かべてまた歩いていった。テンテンはその後ろ姿をしばらく見送ってから帰路に就いた。