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きみはプリンセスA

リーとネジは逃げようとするシカマルを捕まえ、今回の任務、テンテンの悩みなど一通り話しました。
そしてそんなテンテンに自分たち一体何が出来るのだろうかと相談しました。
任務から帰ったばかりであったシカマルはいつもより更に面倒そうに話を聞いていましたが、二人の熱意に観念したのか逃げることをやめ、そしてポケットに手を入れると、テラスの手すりに寄りかかり言いました。
「ったく、どこの女も変わんねぇな」
「心当たりがあるのか」
ネジが訊きました。
「ああ、こっちなんかいつもだよ。いのは昔っから、レディファーストだのなんだのって色々うるせーからな。女には気を遣うぜ……」
シカマルによると、いのは男たちが食事の好みを聞かずに食べ物屋に入ったり、髪型や服の変化に気付かなかったり、話を流したりすると怒るのだという。
だからあんたらの苦労も分かるよ、とシカマルは言いました。
でもリーもネジも、自分たちはそこまで苦労していないなぁと内心思いました。シカマルの話を聞く限り、テンテンはいのほどワガママではないからです。
「まあ、たまにはテンテンが望むことをしてやって、女っぽく扱ってやりゃいいんじゃねえか?テンテンもお前たちと一緒じゃ苦労すんだろうしな」
「ちょ、シカマルくん!それはどういう意味ですか!!」
そのまんまの意味なのですが、リーは分かってるのか、本当に分からないのか、シカマルに突っかかりました。
ネジはそれを冷静に止めさせ、それはそれは真剣な顔で「具体的に何をしてやればいい?」とシカマルの目をじっとみて言いました。
そうだなぁ…とシカマルは少し考えて、
「まぁ女心ってのを考えてみるんだな。俺にもよくわかんねーよ」
そう言ってテラスを後にしようと歩き出しました。女心など到底理解できるわけないリーは慌ててシカマルを呼び止め、せめて一つだけでも何かありませんか!とアドバイスを要求しました。
シカマルはため息をついて言いました。
「そうだなぁ、オレなら、荷物を持ってるやるとか……」
「荷物……?」
「めんどくせえけど、女に重いもの持たせるわけにいかねーだろ?」
そう言って少し笑ったシカマルが、リーにもネジにもとても魅力的に感じたのでした。

そして翌日。
リー、ネジ、テンテンは三人揃って休暇をもらったため、朝から演習場で修行をしました。
一通り修行をこなすと、リーは汗を拭いました。ネジは水を飲み、テンテンは散らばった忍具を拾い集めに行きました。
金属で出来ているクナイや手裏剣は何個か集まると重さを増します。時空間忍術を使用するテンテン、たくさんの忍具を巻物にしまってしまえば何てことはありませんが、しまうまでは一苦労です。
巻物と演習場を行ったり来たりしているテンテンを見て、ネジはリーに目配せをしました。それにリーは親指をビシッと立てて、「任せてください!」と合図しました。
これはナイスタイミング。今まさにシカマルの助言通り、“荷物を持ってやる”ことができると二人は気付いたのです。
テンテンがたくさんのクナイを腕いっぱいに抱え、何往復目か、巻物の方へ歩いていきました。リーはそんな彼女を追いかけて行き、爽やかな笑顔で言いました。
「テンテン、ぼくが持ちましょう!重いでしょう!!」
「さぁ!」と手を差し出すリー。
しかしテンテンは彼の行動に驚きを隠せず、目をぱちくりさせました。
「リー?どうしたの急に。いつも自分でやってるし大丈夫よ」
「いえ!たまには手伝わせてください!女性に重いものを持たせるわけにはいきませんから!!」
リーは昨日のシカマルの言葉を拝借し、そう言ってテンテンの腕からクナイを無理やり奪っていきました。後ろから「シカマルのマネでもしてんの〜?」とテンテンの言葉が飛んできたとき、図星のリーはすっ転びそうになりました。
テンテンは何が何だかよく分からないと言った表情でしたが、後のことをリーに任せるとネジのところへ歩いてきました。
彼の隣に腰を下ろすと、自分の水筒を手に取り喉を小さく鳴らして水を飲みました。ネジは何気なくその姿を見ていてあることに気付きました。
テンテンのトレードマークといえる、頭のお団子が崩れかかっていたのです。
ネジの視線に気づいたテンテンは、慌てて自分のお団子に手をあてました。
「あ、髪乱れてる?直さなきゃ」
そして髪を解き結い直そうとしました。
“たまにはテンテンが望むことをしてやって、あいつも女なんだから女っぽく扱ってやりゃいいんじゃねえか”
昨日のシカマルの言葉。
そしてテンテンも、
“わたしもあんな風に素敵な着物を着て、髪を結ってもらって、お化粧をして、忍たちに守られたいなあ”
と言っていた。
素敵な着物など着せてやることは出来ない。化粧なんて尚更だ。この中でできることと言ったら……
ネジは自分自身へ頷くと、髪を解いたテンテンに「俺が髪を結ってやる」と言いました。
「ええっ!ネジが?!」
テンテンはそれはそれは大きな声で言いました。それくらいネジの言動に驚いたのです。
「ネジ、出来るの?」
「わからん。でも出来ないことはないだろ、多分」
ネジはテンテンの肩を持って、ぐいと前を向かせ、自分は彼女の後ろへ膝立ちしました。
ゆっくり髪を梳かし、結って解き結っては解き、試行錯誤してようやくテンテンの頭に二つのお団子を作りました。
それはテンテンが自分でやるより何倍もの時間を掛かかりましたが、出来栄えの方はあまりよくありません。
出来上がったお団子からはピョンピョンと髪がはね、そのお団子はいつもより低めついており、しかも左右で少し位置が違いました。
ネジは申し訳なさそうにテンテンに手鏡を手渡しました。彼女は鏡を覗き、色んな角度からお団子を確認していましたが、どこから見てもそれは不恰好なのでした。
そこに忍具を集め終わったリーがやって来ました。
「おおお、まさかネジがテンテンの髪を結ってあげたのですか?!」
すごいです!とリーはネジの肩をばしばしと叩きました。「ぼくには絶対マネできません!」と大袈裟に褒めるのでまるで馬鹿にされてるようでした。それが気に障ったネジは無言でリーを小突きました。
「二人とも何だかよくわかんないけど、ありがとね」
テンテンは笑っていました。
どうやら二人のやったことは成功したようです。テンテンが笑顔なのがその証拠でした。
それからしばらく三人は他愛ないお喋りをしていました。そんなとき、突然火影の秘書業務に携わるイズモとコテツが少し慌てたやってきたのです。彼らは真っ先に三人の元へ向かってきました。
彼らの他に演習場で修行をしていた下忍たちが何事だろうと様子を伺っています。
「お前ら、休暇中のところ悪いが、ちょっと任務に出てくれるか」
そう言われた三人は、真剣な顔つきになりお互いに目配せをして頷きました。そしてネジが応えました。
「了解。すぐ行けます」