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いまはまだ、青春の途中@

「大変です!二人とも〜!!」
屋上のドアが開かれるのと同時に放たれた大きな声。屋上にいた者たちが一斉にドアの方振り返り、見た。
今に始まったことではないがリーの大声は本当に大きい。しかし本人に自覚がないため改善の兆しは全くない。
「ちょっとリー! うるさいから!」
 昼休みを悠々と過ごしていたテンテンが騒がしいリーを叱る。そして彼の勢いに驚いている周りの生徒たちに「すみません〜」と気を遣いながら、リーをネジの待つ自分たちの定位置に引っ張っていった。

 木ノ葉学園に通う、リー、ネジ、テンテンの三人は昼休みをいつも屋上で過ごしていた。
 各自自前のお弁当や購買で買ってきたものを他愛ないお喋りをしながら食べる。中学生の頃から今高校二年までずっと同じクラスの三人は、これまでずっと同じように昼休みを過ごしてきた。
 木ノ葉学園に入学したての頃、上級生に気を遣い、屋上の中でもあまり日の当たらない隅っこの場所で三人固まっていた。日当たりも悪く、湿っぽい場所だと初めのうちは思っていたが、毎日過ごすうちに不思議と慣れて行くもので、夏は涼しい上に、冬は風を避けられる場所だと気づいたころには三人ともすっかりこの場所が好きになっていた。ぁから二年生になった今でも、他の生徒たちが日当たりの良いベンチを求めても、彼らは人気の場所には目もくれず、入学当初と変わらずこの屋上の隅っこに陣取っている。
 ネジは相変わらず静かに食事をしつつ、リーとテンテン、二人の話に耳を傾けていた。今しがた来たばかりのリーも早速自分の弁当を開いた。
「で、何が大変なのよ?」
 テンテンがサンドイッチを頬張りながらリーに訊く。日替わりで販売される購買で人気のサンドイッチをテンテンは好んでよく買っていた。
「さっきそこでサイくんに会ったんです! カカシ先生から職員室に呼び出されていたようで!」
「サイが?」テンテンが首を傾げる。あの大人しいサイが一体何をして呼び出されるというのだろうか。
「……はい。どうやら進路のことで呼び出されたようで……」
 もぐもぐと話の途中途中でお弁当の米をかきこみながら、リーは話を続ける。リーの弁当は自前の大きめの二段弁当。やけに米が多く入っている弁当だ。リーの所属するサッカー部は夜まで練習が続くこともあり、昼にどれだけエネルギーを補給しておくかが重要なのだとリーは言う。そんな彼はたまに好物のレトルトカレーを持参し、お弁当に掛けて食べ始めるので周囲を驚かせた。
「ああ、進路。進路希望用紙配られたもんね。今週末までに提出だよね」
「サイくんは、“美大志望”と書いて提出したそうなんですけど、カカシ先生に“特進理系コース”にしたらどうかと言われたそうで……」
特進だなんてすごいですよね! と、リー。テンテンも特進とかやばくない?! と目をリーくらい円くして驚いていた。特進コースというのは、特別進学コースの略である。それはもう学年上位の優秀者たちのみで編成されたクラスで、名門私立大学進学を目指し日々勉学に励むのである。
「わたしにとっては、特進は夢のまた夢ね〜。別に大学もそこまで高望みしてないけど……」
 テンテンが紙パックのジュースを片手に呟くように言った。それまでじっと二人の会話を見守っていたネジは既に平らげた弁当箱をさっと袋に包み終えると、片膝を立てて座り直した。ちなみにネジの弁当は購買に売っている弁当で、そこまで食に興味のない彼は、いつもテンテンに選んでもらっていた。今日は鮭と卵焼きなどが入った和風弁当だった。
「それで? それの何が大変なんだ」
「あ、そうでした! それでサイくんに言われたんです! 学年で希望用紙出していないのはあとボクたちだけらしいのです!!」
「嘘でしょ、みんなもう提出したの? 期限は今週末なのに」
 口に手を当てて驚くテンテンに、ネジがため息を吐いた。
「今週末と言っても、今日は木曜だぞ。提出期限は明日だ」
「えええーー! 明日ですか! すっかり忘れていました!! しかも今日は部活があります!! 進路など考えてる暇ありませんよ!僕は一体どうしたら……!!」
 口から食べ物を飛ばし、大騒ぎするリーを「汚いでしょ!」とテンテンは一喝。それから、たかが進路希望を提出するだけだ。この先の人生がこれで完全に決まるわけではないのだから、そんなに悩むことはない。テンテンは笑いながらそう言った。
「でも、せっかくだから来年も同じクラスになりたいよね。そしたら中高6年間ずっとおんなじクラスじゃない?」
「そうですね! 高2に上がるときも、僕たちは“文系コース”に希望を出して、文系は6クラスある中で三人とも同じクラスになったんですよね。これぞ奇跡です!」
 来年は高校最後のクラス替え。せっかくだから同じクラスになれるように進路希望を出したい。そして三年生になっても変わらずこうして三人で昼休みを過ごしたい、テンテンはそんな風に思っていた。
しかし来年は受験がある。進路希望はそれぞれの志望大学や就職先によって、学力でクラスが振り分けられる。
 サイは自分の夢に向かって進路希望を提出したようだが、優秀なサイの学力を考えると学校の実績をあげたい先生たちは別の道を薦めたりもする。クラス替えで仲良しグループが散り散りなるのを恐れたクラスの女子の中には、互いに進路を詮索し合う者もいた。彼女たちは仲間内で一番学力の低い者に合わせて、皆同じ希望を提出するのだ。彼女たちを見ていると、高校生活をエンジョイするためには未来の自分の目標を捨てることに何ら問題を感じていないようだった。
 自分たちはなにを選ぶんだろう。この進路の選択でどんな道へ進むのだろう。そして、わたしたち三人はどうなるんだろう。テンテンは期待と、どこか不安が入り混じる不思議な感覚を覚えた。
「自分たちの希望がそのまま通るとも限らないからな。己の実力を知り、道を選ばなければならないな」
 それまで黙っていたネジが冷静に言った。だから進路はちゃんと考えた方がいい。彼は相変わらず冷めた表情で、楽しそうに未来を語る二人に容赦無く告げた。
「これだから生徒会長は。真面目すぎるわよ。ね、リー」
 ネジはそう言うテンテンを横目に飲み干したペットボトルをゴミ箱へ捨てに立ち上がった。
「いえ、テンテン。ネジのいうことも一理あります!僕は放課後、部活に励まなくてはならないので、残りの午後の授業中に進路を考えようと思います!!」
リーは食べ終わった弁当箱を片付けながら、これまた大きな声でそう言った。
しかし昼休みも終盤になると、屋上では皆、お喋りやボール遊びなどが盛り上がりたいへん騒がしい。リーの大声も生徒たちの笑い声の中へ消えて言った。
呑気なリーに「リー、次のリーディング当たるでしょ」とテンテン。
すっかり忘れていたリーは慌ててネジにノートを要求した。
リーとテンテンは訳や要点がきっちりお書き込まれているノートに目を輝かせ騒いでいたが、ネジは屋上からの景色を静かに眺めていた。
それっきり三人は進路の話などせず、この日の昼休みもいつも通り穏やかに過ぎていくのだった。