変わらない想い
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江子さま 相互記念として
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長期の任務のため、しばらく里を離れていたネジ、シカマルそしていのの小隊が帰ってきた。彼らは休む間もなく、火影へ任務の報告へむかい、今ようやく長かった任務から解放されたところだった。
「ネジ、アンタ相変わらずだなぁ」
「ほんっと!変わんないわねー。付き合い悪いわよー」
シカマルは乾いた笑みを浮かべ、いのは口を尖らせてそう言った。
「悪いな、先約があるんだ」
ネジは特に表情を変えずそう言って、まっすぐテンテンが待つ部屋へ向かった。
「“変わらない”か」
シカマルといのを残し、二人には聞き取れないくらい小さい声で呟き、消え入るようなため息をつきながら賑やかな里の中へ消えていった。
ネジとテンテンは用事もないのにわざわざ何処かへ出掛けるということを嫌った。時々、たまにしか会えないからといって、やたら何処かに出かけようとする恋人たちが居るが、ネジとテンテンはそんな連中の気持ちが全く理解できなかった。
テンテンの部屋は建物の二階にあった。そして部屋には里の通りに面した大きな窓があり、それにぴったりつくようにベッドが置かれていて、ネジとテンテンはいつもベッドに寝転びながらお喋りをしたり、窓から顔を出したり、足を投げ出したりしながら通りを行き交う人々を観察したり、夕空や夜空を眺め、風を感じ、何より平和な里の様子を見ることを楽しんでいた。
この日ネジは任務明けで心身共に疲れ切っていた。
テンテンの家にたどり着くなり、早く横になりたい、ネジはそう思いつつ彼女の部屋を見上げた。すると例の窓からテンテンがこちらにむかって手を振っているのが見えた。
「ネジ、お疲れさーん!はやく上がってきなよ」
ネジは頷くと、急ぐこともなく階段を上って行った。そして部屋の扉をあけようかとドアノブに手を掛けようとしたところに、中からテンテンが飛び出してきた。
「おかえり〜!任務お疲れ様!」
自分に飛びついてくるテンテンをいつものように軽く受け止めると、ネジは小さく「ただいま」と言い、彼女を持ったままキッチンと部屋を横切り、まっすぐベッドに向かいそのまま寝転んでしまう。
窓際のふかふかなベッドはふんわりを二人を支えた。
「ネジ、疲れてるの?」
「任務上がりだからな、疲れてるよ」
テンテンはネジの頭をよしよしと撫でた。ネジをこんなふうに出来るのはこの里にはきっと私しかいないわね、そんなことを考えながら。
しかし、ネジはやはりかなり疲れているようで、テンテンを抱き寄せるとさっさと寝ようとしたが、テンテンはネジを易々と寝かせようとしかなかった。
テンテンはネジがここまで歩いてくる間にみせていた神妙な面持ちを見逃さなかった。そしてその原因が気になってしょうがなかったのだ。
「ネージー!寝ちゃだめー!」
テンテンの声に、目を閉じたまま眉間にシワを寄せて「なんだ」と、ネジ。
「どうしたの?疲れてるってだけじゃないでしょ?」
そう言うテンテンの声が突然弱々しくなったので、ネジは慌てて目をあけた。
「たしかにテンテンの言う通り、オレは何か考えていたな…」と、ネジは眠たい頭を無理に使って考えたが、どうにも思考は停止してしまう。
そしてネジは「なにもないさ」と再びごろりと寝がえりを打ってテンテンをあしらった。
寝てしまうネジに少しだけヘソを曲げたテンテンは頬をぷくっと膨らませながら、再び窓辺に戻った。ネジが帰ってくる前にそうしていたように、里の様子を観察するために。
昼下がりの里にはたくさんの人々が行き交った。売り子の声を聞いて何か掘り出し物はないか気にしたり、事件が発生しないかとテンテンは耳と目を凝らしていた。
「あ、シカマル、いの!」
しばらくすると、テンテンは道に良く知る友人二人を見つけ、呼び止めた。
シカマルといのはネジと同じ任務から先ほど帰宅したばかりで、どこかくたびれた顔をしていた。
「テンテンさん、こんにちはー。今から銭湯に汗を流しに行くのよー」
「ネジも誘ったんだけどな。帰っちまったんだ」
シカマルはガシガシと頭を掻きながら、面倒そうにテンテンに言った。
「あ、そうだったの?ネジ断ったんだ」
「何だか先約があるとか何とか言ってたぜ」
テンテンは何も知らないふりをして「ふうん」とシカマルの言葉に頷いていた。
しばらくして、夕日がまもなく沈もうとする頃にネジは目を覚ました。
目の前には彼につられて寝てしまったのか、テンテンが規則正しい寝息をたてて眠っていた。
ネジはテンテンの頭をポンポンと何度か優しく叩き、疲れでやけに重く感じる上体を起こした。
「あれ、ネジ起きたんだ」
「起こしたか。すまない」
テンテンはゴシゴシと目をこすりながら体を起こしたかと思うと、突然俊敏な動きでネジと対面するように座りなおった。
「?」
「ねぇ、なんでシカマルたちと銭湯行かなかったの?」
「銭湯?ああ、任務が終わったらここに来る約束をしていたから…」
「本当はシカマルたちと行きたかったんじゃないの?さっき何か考え事してたのって銭湯のことだったんじゃないの?」
「考え事?それは、銭湯のことではなくて……」
ジリジリとテンテンは睨みを利かせてネジを窓の方へ追い込んだ。
いくら自分との約束だったとはいえ、ネジが友人との関係を疎かにするのは、テンテンは嫌だった。
はて、なんだったか。考え事、考え事。
さっきは眠くて何も考えられなかったが、確かにオレは何かを考えながらここに向かっていたな。
テンテンは凄まじくするどい目つきでネジを睨んでいたが、ネジは至って冷静に思い出そうとして、そして思い出した。
「あれ、ネジ。急に眉間にシワ寄ってるよ」
「どうしたの?」とテンテンはネジの眉間に人差指を当てた。
「さては、銭湯ではなくて何か他に考え事をしていたのね」
「!」
「なによ、もう水臭いわねー。ほらほら言っちゃいなさいよ〜」
こうなるとテンテンは見逃してはくれないだろうと、諦めたネジは少し乱暴に窓枠に寄りかかると、テンテンの方は見ずに言った。
「銭湯を断ったら、シカマルたちに“変わらない”、“相変わらず”と言われたんだ」
「“変わらない”?ネジが?」
ネジはつまらなそうに何度か頷く。
「ネジ、変わりたいの?」
「いや、変わりたいわけではないが。ここ何年かお前とリーと共にいて、自分自身変わったような気がしていたから、なんというか“良い方”に。だから変わらないとか、相変わらずとか言われて、何だか腑に落ちなくてな…」
目を丸くして話をきいていたテンテンだったが、真面目腐って語るネジを見たら、突然ぷっと吹き出してしまった。
「なにがおかしいんだ」
「あはは、ごめんごめん。ネジ変わったな〜と思って。前はそんなこと言われても気にもしなかったでしょ。わたしはネジは変わったと思うよ、もちろん“良い方”に!シカマルたちはわたしとネジが約束してることを知らなかったし、まぁ…何年か前のネジだったら誘いは断っていただろうから、勘違いされても仕方ないわよ」
テンテンはフォローしつつも、お腹を抱え、ひいひい言っては目に涙まで浮かばせながら笑っていた。
「シカマルたちはこんな風にネジが悩むところを知らないから、わかんないのね。人前ではいつも以上にクールだもんね」
ネジは恥ずかしいような、でも苛々しているような複雑な表情して、また少しだけ顔を赤くして、テンテンの笑いが収まるのを待った。
それからテンテンはしばらくの間ずっと笑っていた。
彼女が落ち着くと、二人はいつものように並んで窓辺に座った。
「オレは人は変われるのだと知って、今となっては三年前の自分が全く別人のような気がするくらいだ。」
「そうだねー。きっと、人は一瞬一瞬生まれ変わることができるんだと思う。知らぬ間に今の自分と少し前の自分はもう別人なってるの。でも不思議、今も昔も全部おんなじわたしだし、ネジなんだわ」
二人は寄り添いながら、段々深まる夜空の青を見ていた。
やがて空にはチラチラを星が浮かんだ。
「オレはテンテンは今も昔もそんなに変わらないと思うがな」
「それは変わらないところがあるからよ」
ネジは彼女の言葉の意味が分からず、テンテンの顔を覗いた。
そしてテンテンはにっこり笑うと言った。
「今も昔もこれからも、ずっとネジが好きってところは変わらないわ」
やはりネジはこうして、この窓辺でテンテンと話すことが好きだと思った。同時にこれからもずっと、二人でこうして穏やかな時間を過ごしたいと思った。こう考える自分はやはり良い方に変わったと思った。
ネジは優しく微笑んだ。
「それはオレも同じだな」
そう言った彼の瞳には、一生変わらないであろうテンテンへの想いが映っていた。
おしまい
『おなかがすいた』様相互記念ということで書かせていただきました。
ようやくです。ほんとお待たせして申し訳ございません!!
そして、すみません、江子さん!
こんなものしか書けなくて…!お家でイチャつくというリクエスト頂いていたのですが、全然イチャイチャしていないという始末…!!ほんとすみません、糖度の低いものしか書けないし、内容も「?」って感じで…あああ、お許しくださいませ(>_<)
何より申し上げたいのは、このたびは相互して頂きありがとうございました!ということです!!これからもネジテンで一緒に盛り上がってください!よろしくお願い致します!
(以下 本文の言い訳など)
今回もテンテンのお部屋を捏造設定させて頂きました!
テンテンは二階とか三階の窓から頬杖ついて外を見ていそうではないですか?w
そしてわたしはネジテンはなんかインドアなデートが多そうな気がします。外に出るとしたら、森の中とか人気がなさそうなところとか行きそう。でもテンテンはデート人気スポットとか興味ありそうだから、たまにはネジも無理して付き合ってあげたりしてると◎
ここまで読んで下さりありがとうございました!