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しあわせの秘訣

(チェルさまへ 相互記念として)
「あ〜なんかいい事ねぇかなぁ〜」
午前の仕事が一段落して、さて昼ごはんにするかと大きく伸びをしたピートの口からこう言葉がこぼれた。
家で一足先に昼食の支度をしていたクレアはピートのぼやきを聞いて、家から顔を出した。
「今回は収穫もイマイチだったし、出荷額あんまり期待できないだろうし。ミルクはまぁ良いとして…あ〜!羊毛刈りミスったんだった!」
「まぁまぁ、ピート。出荷できなかった小さいお芋はこうして美味しく頂けばいいじゃない?」
頬を膨らましているピートにクレアは出来たてホクホクのポテトサラダを手にして、ピートを食卓に着かせた。
「まぁ、小さくてもうまいはうまいんだけどさ。でもこんな赤字続きじゃ奥さんを幸せにしてあげらんないからさ」
ピートはニッと笑ってクレアに目配せをすると「いただきまーす」と手を合わせてポテトサラダと雑貨屋で買ってきたパンを交互に口に放り込んでいく。クレアはそんな陽気な夫の姿を微笑ましく見ていた。
「思うんだけどさ、ピートって優しいよね」
「なんだよ、突然」
「お金のこととか、いい事ないかなとかいつもの文句言ってるけど、それって全部牧場のこととかわたしのこと心配してるからなんだよね。うん、優しい旦那さんなのよねー」
「よせやい、お前もさっさと食えよ」
クレアの言葉に少々赤くなったピートは話を切り上げようとするが、クレアは「でも、」と話を続けた。
「でもね、ピート。わたしはもう十分幸せなのよ」
クレアは牧場を始めた頃よりも倍近く広くなった自分たちの家を椅子に座ったままぐるりと眺めながら、最近新調したブナ材の大きな食卓テーブル、そしてピートと色違いで使っているコットンのランチマットを指の先で優しく撫でた。
「家にあるものはぜんぶお気に入り。このテーブルもランチマットもカップもお皿もスプーンも、欲しいものだけを少しずつ集めたわ。それに自分たちで素材から作ったおいしいものを食べられるし、何より毎日好きな人と一緒に生活できているのよ」
最後にクレアは嬉しそうに一回息をついて、
「それに、ずっと憧れてた牧場のお仕事をしているって時点でこれ以上幸せなことってないと思う」
と言った。
ピートはここまで食事の手を止めてクレアの言葉に聞き入っていたが、ハッと我に返ると残っていたパンの塊を口に押し込み、カップの中のコーヒーを一気に流し込んだ。
「つまりおれもお前に選ばれた男なわけだ」
「そ、あなたもわたしのお気に入り。というのは冗談で、わたしの全ての選択がちゃんと幸せに繋がったの」
「お前は案外慎重なんだよなぁ」
「結婚も間違いじゃなかったでしょ?」
「だから、よせって。照れるやい」
ピートは自分の鼻の頭を右の人差し指を触ると、背もたれに寄りかかって頭をガシガシと掻いた。そして彼はふと気がついた。座っている椅子はこの家に当初からあったもので、テーブルとは違う素材で出来ていた。その上もう何年も使っているので、木は表面がだいぶ日に焼けてしまっていた。
彼はこれをみて、まだまだ二人が幸せになるための選択は終わっていないと思った。今の二人が幸せでも、明日の二人はまたさらに幸せになれるのだとそんな気がした。
周りものが全てお気に入りのものであれば、人は幸せを感じるのだ。だから、シンプルに無駄なものを省く、幸せへの道は、ただ好きなものだけを選ぶことでたどり着ける。
「次は椅子を買いにいこう。気に入るものが見つかるまで探し続けよう」
ピートは言った。これが、まるで幸せになるための秘訣であるかのように。
「あ〜、どっかにいい“椅子”ねぇいかな〜」
そう言って、ピートは午後の仕事に出かけて行くのだった。



相互記念ということで、ピークレ書かせて頂きました。チェルさん、内容が粗末で大変申し訳ありません。ピークレへの愛だけはきちんとトッピング致しましたので、お許しください(>_<)
そしてこれからもよろしくお願いします!!

ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました〜!