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マイホームラブ7

きまずい朝食が過ぎると、イムは大慌てでバドを自分の部屋に引っ張って行きました。

「ちょっとバド、聞いた?種、種が必要になっちゃった!なぜわたしは嘘なんてついてしまったのだろう!種なんてあるわけないのに!もう逃げようがないわ、私はいつになったらコロナを喜ばせてあげられるのかしら」

部屋の中をうろうろと歩きまわり、ああでもない、こうでもないと色々な言い訳を考えているイムを見て、バドはため息をつきました。

「ねぇ、一体どうしてコロナのために香水なんか作ってるの?前もコロナの為に庭にベンチを作ろうとして失敗してなかった?」

バドは少々口を曲げて、イムにそう訊きました。

「なにいってるの!それはあまりに愚問だわ、バド!それはコロナがかわいいからに決まっているでしょう!」

バドは今まで不思議に思っていました。なぜ、イムは日夜コロナのために香水なんぞ夢中でつくっているのかと。思えば、イムはいつもコロナの為に新しい服やらリボン、または花壇などを与えていました。バドはそれはコロナへの気遣い(コロナは両親をなくしてから度々心が大きく右に左と揺れることがあったのです)かと思っていました。とにかく、バドはイムのコロナへの愛がそんなに大きかったとは想像もしていなかったのです。

「コロナがそんなに可愛いの?なんで」
「コロナは私の妹のような、子供のような、かわいい存在なのよ。もちろんアンタも可愛いわよ、バドのこともだーい好き」

イムは丸椅子に腰かけていたバドの手を引いて力一杯抱き締めました。そしておでこに、これまた力一杯口づけしました。
バドは少し迷惑そうに抱かれていましたが、内心は自分たち双子が主人に愛されていることが分かってとても嬉しかったのです。両親のいない双子たちはいつも両親からもらっていたような本当の愛がほしいと思っていました。

「ねぇ、イム、コロナは香水も洋服も、もちろん種もいらないと思うよ。コロナのこともこうやって抱きしめてやってよ。あいつも喜ぶと思うんだ」

バドはイムの腕の中で、じっと主人を見つめていいました。イムはふっと笑うと、「あいつ“も”ってことは、バドも嬉しいってことね」とバドをからかったので、マイホームのエルフの男の子は大きな耳を真っ赤にしました。

二人がイムの部屋でしばらくふざけていると、部屋がノックされました。イムは「きっとトトだわ」といって恐る恐る扉をあけると、そこにはトトとコロナがいました。

「ト、トトトト、コロナ!」
「“トトとコロナ”だろ」

物凄い慌てようのイムをトトは適当にあしらうと、ずかずか部屋に入ってくるなり言いました。

「コロナに全部話した。お前が香水作りに失敗して、花も全部無駄にしたこと」

イムはそれを聞いてみどりの大きな目を落っことしてしまいそうなほどに見開き、トトの言葉を頭の中で何度も何度も確かめました。それくらい信じられないことを聞いた気がしました。しばらく固まっていたイムは少しずつ理性を取り戻してきて、そして恐る恐るトトの隣に小さくなって立っている少女を見ていました。

「コロナ、そうなの…。わたし香水作りに失敗して、花を全部無駄にしたの…。ごめんね、嘘言って…。せっかくあなたが育てた大事なお花だったのに。でもいまお花について調べてるのよ、きっとまた種をみつけてくるから…」

バドはすべてを打ち明けるイムを見て「あちゃー」と天を仰ぎ、片手で顔を覆いました。「ていうかトト、なんでコロナに言っちゃったのさ〜」と一人でつぶやき、イムとトトを交互にみました。なぜトトは男の約束を破ったのか!それより自分がイムの秘密をトトにもらしたことが見つかって、怒られる?と心配もしましたが、イムはまったくそれどころではない様子でした。

トトは相変わらず顔色も声色も何一つ変えることなく続けました。

「コロナ、イムもイムなりにお前の為に頑張っているってことわかるだろ?」
「もちろんです。あの、じつは種がほしいなんていうのも嘘なの。そう言えば、マスターも香水づくりをやめて、また一緒に夜寝るまでお喋りしたり、昼もみんなでお茶する時間ができるとおもったの」

コロナはもじもじとスカートの裾をいじりながら、イムの顔をちらちら見ていいました。それを聞いたイムは先ほどの滑稽な顔からだんだんと落ち着きを取り戻し、ただ少し頬が紅潮していましたが、晴れやかな表情でコロナを見ました。

「そうだったのね…!わたし、コロナは私と話すことなんか好きでないと思ってたのよ。お庭いじりとか、おしゃれしているの方が好きだと思っていたの」
「そんなことありません。でもマスターがいつもバドと仲良しだから、すこしだけやきもち焼いていたのかも」

コロナがそう言ったあと少し恥じらって笑ったのがとても可愛かったので、イムは思わずコロナを抱きしめて、コロナの頬に何度も何度もキスをしました。そして片方の腕を伸ばすと、この光景をにこにこと見ていたバドを引っ張って双子を丸ごと腕の中にしまい込みました。イムの腕の中から小さな双子たちの喜びの悲鳴が聞こえました。


「私もう部屋に閉じこもったりしないわ。今日からずっとあんたたち双子と一緒にいるからね!」
「これで、こいつらの心配もなくなったってわけだな」

トトが「ふん」と鼻で笑って言いました。でもそこに生意気なバドがすかさず、「トトもイムに嫌われたのかと思って心配してたんだよ」と放ったので、トトは赤面し、イムは「まぁ!」と笑うと今度は双子を自由にして、トトに飛びつくのでした。そしてトトは飛びついてきたイムを右手に抱え、左手で双子たちを抱き寄せました。その足元にはいつの間にか部屋に忍び込んだラビチュンがみんなの足元にぴったりとくっついて居たことも記しておきましょう。


このようにマイホームは嘘いつわりのない真実の愛に包まれており、この家に暮らす者はそれぞれがそれぞれの愛によって幸福になるのでした。

それから、イム付箋だらけの植物図鑑を処分し、夜はコロナが寝るまで二人は楽しいお喋りをすることにしました。バドはトトに「約束を破った!」と少しばかり膨れていましたが、主人二人の愛を証明できたこと、またトトを安心させられたことに大いに喜びを感じていました。コロナはこの日の夕食はみんなの好物をそれぞれ作りました。でもやっぱり弟の好物を一番多めに調理しました。トトはイムの為に遠い町から無駄にしてしまった例の珍しい花の種を調達してきました。イムはみんなのためにも今度こそ花を大事にすることでしょう。

サボテンくんは、いつもこのマイホームの住人を静かにじっと見ていました。そしてある日、隙をみて日記をかきました。
いつだったか、イムがサボテンくんの日記を覗いたことがありました、そこには「幸せそうな日常、これぞラブオブマイホーム!」とみみずのような文字書いてあるのをみつけました。イムはその日記に感嘆しましたが、「サボテンくん、いいこというじゃん!でもこれからはもうちょっと字の練習しなくちゃね」と愛有る皮肉を言ったために、サボテンくんは少しだけ顔をしかめたようにみえました。


おしまい

これでマイホームラブはおしまいです。
行き当たりばったりで書いてしまって、すみませんでした・・・
色々な捏造を重ねるにつれ、マイホームというランドに更なる愛着がわきました。
と、とにかく…一番平和で穏やかな空気に包まれる場所、それがマイホームなのであった。
よし。しめた…!←

ここまで読んで下さり本当にありがとうございました!
また次のお話もよろしくお願いしまーす!