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マイホームラブ6

翌朝、バドは昨晩のことを伝えるべくトトのところを訪れました。

ところで、マイホームの人々にとって、朝は一日の中で一番忙しい時間でした。というのも、みんなそれぞれ自分のやることを朝の時間に済ませているからです。

マイホームの朝は空が明るくなったと同時に始まります。
トトは朝になると、ペット小屋でラビチュンの世話をします。バドは書斎にいって、書庫の整理と、貸出中の本をチェックしたり(書斎はマイホームの図書室なのです)、昼下がりのコロナとの勉強会で使う書物を用意したりします。バドは書斎が大好きで、本を管理することには真面目でした。一方コロナは趣味のガーデニングを楽しみます。自分の育てたお花に朝露があるか探したり、次に使う花壇の整備などをします。しかし彼女は食事の支度も任されているので、バドほどゆっくりする時間はありません。そしてイムはというと、最近は朝起きることはありませんが、普段はコロナのガーデニングを覗いたり、果樹園に行き、トレントとお喋りしたりして過ごしていました。彼女が一番自由な時間を持っていました。

このように、朝の時間帯はみんな自分の時間を所有しているのです。
そしてバドはこの時間ならば、こっそりとトトに昨日の報告ができると思いました。
バドは夜明けとともにペット小屋を訪れ、トトが来るのを待ちました。ラビチュンはトトよりもバドが先に小屋に来たことに少し驚きましたが、朝は少し冷え込むのでトトが来る間バドとラビチュンは身を寄せ合いました。そしてしばらくして、トトがやってきました。

「師匠、遅いよ。何時間待たせる気なの」
「挨拶を先にしろ、バカ者」
「おはようございます!」

トトは小声で「おはよう」というと、ラビチュンを放牧させました。ラビチュンは喜んで外へ出ていきます。それに続いてバドも小屋から飛び出し、トトに笑いかけました。

「おれ、昨日師匠と二人きりのときに秘密を聞きだしたんです。でもそれがしょうもないことなんで、きっと聞いたら呆れちゃうと思うな。けど、もしこの問題を師匠が師匠のために解決しちゃったもんなら、マイホームは救われるってもんだよ」

バドはこのようにペラペラと昨晩イムから聞き出したことをトトに伝えました。それを聞いたトトは「そんなことか」と呆れました。男の彼らにとって、どんなに珍しい花だろうが、香水だろうが興味はそそられないようです。

「これで男の約束は守れたよね!でもこの話コロナには話さないって約束もしてきたんだ、男の約束ではないけどさ、師匠もきちんと守ってね」

最後にバドは自分の師匠にしっかりと念を押すと、書斎にいくと言ってその場を去りました。トトは特に表情を変えずに、後の朝の時間をラビチュンと過ごしました。

やがて朝食の時間になりました。最近では珍しくイムが起きてきました。
テーブルに食器を並べながら、コロナが眠そうなイムに言葉を掛けます。

「マスター、おはようございます。今日は早いんですね」
「おはよう。昨日はすぐ寝ちゃったの」

トトとバドも自分の席に着いたら、食事の始まりです。この日の朝食は、お喋りなイムとバドが久々にそろったので、賑やかなものになりました。

コロナは相変わらずバドに少しだけ食事のサービスをしていました。おそらく、今日も弟はトトに呼び出されるのだろうと思っているのです。しかしバドは何も気づくことなく、イムをお喋りをしながら食事を続けています。そんな光景を無言でコロナは見つめていましたが、ふと思いついたように口を開きました。

「マスター、あのお花まだありますよね?」

コロナはじっとイムを見つめて言いました。

「お花、種をとっておきたいから、一度返してほしいんですけど」

イムはパンを手に持って固まりました。まさか香水どころか、花を返して欲しいといわれるなんて!イムはそんなことつゆにも思っていなかったですし、想像すらしていませんでした。また、実は事情を知っているバドとトトも少し動揺していましたが、コロナは二人のことは見ていませんでした。

「コロナ、一度あげたものを返せってのはおかしいだろ」
「あんたはだまってて」

固まっているイムに代わりバドは苦し紛れに一言添えましたが、コロナは話を続けました。

「あのお花珍しい品種でしょ。香水がもし失敗したらまた作るの大変でしょうから、念のためもうちょっと植えておこうと思うの」
「そ、そうなのね。種がほしいのね」
「だめですか」
「いえいえ、全然だめじゃないわよ。大丈夫、大丈夫…」

イムは自分に言い聞かせるように言葉を繰り返しました。
その様子を見るバドとトトはおそらく同じ気持ちだったことでしょう。
バドは何となく静まった食卓の空気を動そうとしました。けれども、「早く食べちゃおうよ」そんなことしか言えませんでした。


つづく