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マイホームラブ4

バドが居間に戻ってくる頃、陽はもう傾き始めて、カーテン越しに西日がゆらゆらと指していました。その優しい光の中でコロナがキッチンで夕食の支度に取り掛かっていました。バドが居間に戻ってきたことなんて知らんぷりしていますが、本当は気づいていたし、すごく心配していたのです。バドは存在を主張するようにわざとらしく「ふう」とため息をつきながら、キッチンに近いところの椅子に腰かけます。

「バド、怒られてきた?」
「まあね。でもすぐ許してもらえたよ」
「そのわりに結構長く話してたみたいだけど。何話してたの?」

コロナはお鍋に切った野菜を放りながら、尋ねました。

「え、べ、べつになにも」
「何?聞こえない」

お喋りなバドは突然のコロナの問いかけに、危うく先ほどの男の約束を話してしまいそうになりました。なので少し動揺してしまいましたが、幸いその声はお鍋の音やら何かにかき消されたようでコロナには届きませんでした。

「ちょっと叱られただけだよ!というかコロナには関係ないだろ!夕食できたら教えろよな!」

余計なことを口走る前に退散しよう、バドはそう思い荒い言葉を吐き出して書斎に逃げていきました。そんな様子を見たコロナは少し心配しました。

「(いつもならば、誰も気にしていないことでもべらべらと喋るバドが何も話さないなんて。とりわけ、今回はこっちからわざわざ聞いてあげたのに何も話さないなんて!絶対おかしい!何かあったに違いない!バドはプライドが高いから、自分に都合が悪いことは話さないはず。ということは、きっとマスターにかなりショックなことを言われたんだ。それか相当のお説教だったに違いないわ。)」

コロナは哀れな弟のために一つのため息をこぼすと再び夕食の支度に取り掛かるのでした。

やがて、空はだんだんと暗くなり始め、空にはまんまるの月が顔を出し始めました。月はたくさんの星たちを一緒に空へ引き上げて、チラチラと夜を照らしました。その月の光がマイホームの夕食の合図なのです。やがてそれぞれがそれぞれの場所から居間に集まり始めました。

バドはどっしりとした大きな本を片手に、書斎から現れます。
トトはペット牧場からラビチュンに与えて空になったエサ箱を片手に現れます。
イムは二階から髪を二つに結い、いかにも部屋にこもっていた様子で、でも花の良い匂いをプンプンさせながらやってきました。

「なんだ、この匂い」
「うへ〜、都会のマダムの匂いだ」

男の二人は慣れない匂いに鼻を曲げました。でもコロナはイムに「いい感じですね」と声をかけながら、食事を運びます。女の子はいい香りには興味があるからです。

「でしょ!香水をつくっているの!それで、さっきこぼしてしまったから、今日は二階がちょっと臭いかもしれない。変な匂いではないんだけど、ちょっと香りが強いっていうかなんていうか」

イムのまとまらない内容にバドは「大体想像つくから大丈夫だよ」と遮り、食事を急かしました。
夕食は、野菜のスープがメインで一人ひとりのプレートに鶏肉のソテー、ポテトなどがのっていました。でもどうしてでしょう。いつもは均等なプレートが今日は違うのです。

「ちょっとー!コロナー!」

イムがコロナを呼びました。

「なんですか」
「ちょっとバドのお肉大きいんじゃないのー?それにパンだってあたしのよりもバターが多くついてる!気がする!」

イムは不満そうに言いましたが、「でもコロナが作ってくれてるんだから文句はいわないもん」と何だか矛盾してことを言いながら食事を再開しました。
バドはバドで自分のプレートをほかのものと比べてみました。

「たしかに大きいかも」

これはコロナの計らいでした。いつも怒られてばかりの弟を気遣ったのです。面と向かって優しくするのは、気恥ずかしいからちょっとサービスしたのですが、まさかあの鈍感なイムにきづかれてしまうとは。コロナはそんなこと全く予想していなかったものだから、すごく驚いたし、内心すごく恥ずかしくなりました。

「あー、肉が大きくてラッキーだった!」

バドは素直に喜んで、パクパクごはんを食べました。コロナの気遣いに何にも気づかないバドに、コロナは安堵しましたが、少しくらい気づいてもいいのではないか。このように煮え切らない思いで、自分も食事を始めました。


つづく