マイホームラブ3
しばらくすると、トトが居間に戻ってきました。居間では双子たちが少し難しそうな魔法書と睨み合いながらも、自らのノートにペンを走らせています。おそらく何か魔法書の内容を解読している最中なのです。しかしトトはそんなことはお構い無しにバドへ声を掛けます。
「おい、バド」
「ちょっと待って、あとちょっとなんだよ………」
「ちょっとって、どれくらいだ」
「あと3分………って、師匠!」
バドは驚きのあまり、握っていたペンを放り出して、イスから跳ね上がりました。コロナは黙々と勉強を続けています。
「師匠、何すか!さっきのことまだ怒っているの?」
「とにかく手が空いたら俺のところ来い」
「ひえ〜〜〜」
トトはそれだけ言うなり部屋を後にしました。バドは素っ頓狂な声を出してコロナにすがりましたが、お姉さんは弟を無視して、勉強を続けるのでした。
それから何分かして、双子の勉強会は終わり、バドはトトの部屋へ向かいました。その後ろ姿の元気のなさといったら!コロナはその背中を少し心配そうに見つめていました。
「師匠入るよ」
バドはトトがどれだけ気を悪くしていて、それ以上に憤慨しているのか想像するだけで気絶しそうでした。もし、マイホームから追い出されたらどうしよう。またコロナと路頭に迷うことになったらどうしよう。イムがどうにかトトを宥めてはくれないかな。そんなことが彼の頭の中をぐるぐると飛び交うのでした。
「来たか。座れよ。何か食べる?茶菓子があるぜ」
「へ?」
バドはトトの部屋のちょうど真ん中に置かれている小さい丸テーブルに案内されました。そのテーブルにはお菓子がいくつか並べてあり、どれも小分けにされていて、それらはお店で売られているものだとすぐにわかりました。
「どうして。これ買ってきてくれたの?」
バドは思いがけないおもてなしに少々困惑しながらも、「じゃ一個頂きます」なんて言いながら、師匠の顔色を伺いながらお菓子を一口食べました。
その様子を見たトトは言いました。
「食ったな」
そう言ったトトの表情は少し不気味に口元をあげていました。それに気づいたバドはもう大変。
「げっ、罠だ!罠だったんだ!」
そう叫ぶなり、「殺される〜」なんていいながら大慌てで部屋から逃げ出そうとしましたが、すぐにつかまりました。
「落ち着け、バカ!」
「まだ怒ってるんでしょう!オレが師匠たちのことに口出ししたこと!」
「違う、ちょっと聞きたいんだ」
「なにをさ」
「………イムのこと」
二人はお互いに沈黙して、そっとテーブルの席につきました。
つまり、トトはバドのいったことを意外と気にしてしまっていて、おまけに先ほどのイムの不可解な行動を目の当たりにしてから、弟子の言っていたこと(イムの心が遠ざかってしまった?)は強ち外れていないのではないか、なんて思い始めたのでした。
それにしても、トトはなんだか恥ずかしそうにしていて、バドもまだまだ子供なものですから、二人がうまく恋愛の話をするのは困難でした。とりあえず、バドはこれからもお菓子と交換にイムの情報をトトに運ぶことと、そして、このことは二人だけの秘密だと約束しました。ただ、これを決定するだけで小一時間はかかりました。それだけ二人にとって恋愛とは苦手なもののようです。
「男の約束、オレ守りますからね!」
「うるせー」
つづく