マイホームラブ
マイホームの午後。
イムの起床の時間です。
最近のイムはやたら寝坊助で、バドとコロナが昼食を取り終わってもまだ起きてこないことがあるのです。イムと一緒に寝ているコロナは、寝坊の訳を“夜に何かしているから”と読んではいますが、その“何か”が何であるかまでは未だ定かではないのです。
「コロナ、師匠まだ寝てるのか」
昼の食事を終えたバドが、何だか暇そうに言いました。現にイムというマイホームで唯一の話相手がいないから暇なのですが。
「マスター、最近夜更かししてるみたいなのよね。一体毎晩何をしてるのかな、何かを本を読んでいるみたいだけど………」
「変な本でも読んでいるのかな!」
「バーカ」
コロナは軽く受け流して、でも減らず口のバドは後に続けます。
「だってさ!最近、師匠たち予定が入れ違いですれ違いだぜ〜。全然会ってないじゃん!ケンカでもしたんじゃないかな〜。それに師匠たちって、あんまり会話したりしないし、でも女ってのはお喋りが好きだからさ、師匠は師匠で無口な感じだし、相性いいようで悪いっていうか…」
「ちょっ、ちょっと、バド、もうよしなさいよ」
一人でペラペラ喋るバドにコロナは慌てました。
「バド、さっさとイムを起こしてこい」
「し、師匠!!」
ちょうど今、トトが帰宅したのに気付いたからです。
「へ、へい!起こしてきます!」
「………いや、やっぱり俺がいくからいい。コロナ、あいつの飯を用意しておいてくれ」
「はいっ」
トトはそういうと静かに二階へあがっていきました。それを見届けたバドとコロナは顔を見合せて言いました。
「どうしよう!師匠を………」
「「怒らせたちゃった!」」
「イム、起きろ。もう昼だぞ」
そう言いながら、トトは寝室の戸を開けます。しかし、その返事は寝息によるもので、つまりイムは起きませんでした。トトは肩で息を吐き、ベッドの脇のテーブルにふと目をやりました。そこには分厚い図鑑が多くの付箋やマークでいっぱいになった状態で置かれていました。気になったトトは図鑑に手を伸ばします。
「植物図鑑か?」
「トト?」
「おっ」
名前を呼ぶ声に振り返るとイムがうつろな目でトトを見ています。急に目を覚ました彼女の様子にトトは少々驚いた様子を見せました。
「なんだよ、急に起きたのか」
「帰ってたんだ。どうしたの、何か用?」
「コロナもバドもお前が起きないって騒いでいたから見に来た。もう昼過ぎだぞ、いくら寝たら気が済むんだ」
「ええ!もう過ぎてる?おひるごはん〜」
イムはバタバタとベッドから飛び起き、ドレッサーから櫛をつかみ取り、髪を梳かしながら、トトに窓を開けるように頼みます。そして、先ほどテーブルに置いてあった植物図鑑を慌てて自分の用の棚にしまい込むと、「さぁ行きましょう」と寝室から出ようとしました。
「おいおい、どうしてその図鑑隠すんだ。何だよその植物図鑑は」
トトは何となく様子のおかしいイムの行動を怪訝に思ったのです。なぜなら、彼女は今まで植物に興味を持ったことなんてなかったし、何だか図鑑の存在を知られないように、わざわざ棚に隠すようにしまうところがますます怪しかったからです。
「か、かくしてなんか」
「隠してるだろ。なんで植物図鑑なんだよ」
「………別に、ちょっと見ているだけよ」
「あっそう」
なかなか話そうとしないイムに愛想を尽かしたのか、トトはあっさりと引き下がりました。物事にあまり執着しないのはトトの性格ですが、それはときに彼を冷たい人間だと思わせることもあるのでした。
「トト、怒った?」
イムは少々心配気味に聞きました。トトは顔だけ振り向かせ、「怒ったと思う?」と聞き返します。返事があるときのトトは怒っていない。それを知っているイムはちょっとだけ安心したようでした。
「よかった!怒ってないみたいね!」
「はやく飯を食え」
そして二人は一階に下りました。
つづく