seiken | ナノ



恋をうたう

半人半馬の愛を歌う詩人、ギルバート。彼は恋をすることに毎日必死でした。
「ねぇギルバート。あなたは好きな人はいないの」
一緒にいたあるセイレーンが彼に聞きます。
「いるよ、リュミヌーっていう、鳥乙女なんだ」
「あら、だから同じセイレーンの私とこんなに仲良しなのね」
ふふっと彼女は鈴の音のようなかわいい声で笑いました。
「まぁね〜。そうだ聞いて、僕のハニ〜は真赤な薔薇が欲しいって言うんだ」
「あら、どうしてなの?」
セイレーンは目を丸くします。
「薔薇はこの季節には咲かない。彼女は僕を試してるのさ!それでもぼくが真赤な薔薇を手に入れハニ〜に渡せば……!もう彼女のハートは僕のモノってわけさ〜」
ギルバートは目を閉じながら、幸せそうに言いました。
夜が来て、セイレーンは家に帰りました。
「まさか彼に好きな人がいたなんて。予想外だったから悲しい」
セイレーンはギルバートに恋をしていたのです。
ギルバートの変な恋の歌。
しかしその歌にはいつも彼の素直な気持ちがこもっている。
セイレーンは自ら、彼が歌っている所に近寄って行き、知り合いになったのでした。女性から声を掛けられることがあまりないギルバートにとって、セイレーンはなんだか特別な女性となりました。
「私彼が好きだわ。好きな人には幸せになって欲しいもの。薔薇を探しに行きましょう」
そう決心し彼女は夜の森へ飛んでいきました。
もう朝が来ようとしていました。でも薔薇は見つかりません。
「見つからないわ。少し眠りましょう。そして起きたらガイアの所へ行きましょう」
そして、セイレーンは数時間眠った後にすぐ街道へ向かいました。そしてガイアにこう聞くのでした。
「ガイアさん、私真赤な薔薇を今すぐに欲しいの。いったいどこで手に入るかしら。わかりますか」
「セイレーンさん、こんにちは。あなたは恋をしているね、切ない恋だ。心が痛むだけでは済まない。それでも大丈夫だね」
ガイアは微笑みました。セイレーンの恋を応援しているように。
「痛いのは嫌。けど薔薇を彼にあげたいの」
「あなたの決意は堅いようだ。いいだろう。森にある、薔薇の木に話を聞きなさい。その木は薔薇を手に入れる術を知っているだろう」
「ありがとう」
セイレーンは喜んでガイアにお礼を言って去って行きました。
セイレーンが向かったその森には、それはそれは美しい薔薇を咲かせる木があるのです。
「きっとこの木だわ。こんにちは、薔薇の木さん。私に赤い薔薇を咲かせて下さい」
「はい、咲かせてみせましょう。しかし代償が必要です」
「私の歌でいかがかしら?」
木うなずき、静かに言いました。
「いいでしょう。あなたの歌で美しい薔薇を咲かせ、そしてあなたの血で薔薇を真紅に染めましょう」
「血も必要なのですか」
「血はおろか、その命も必要です」
「………」
セイレーンはだまってしまいました。

「お〜い、セイレーンさん」
ギルバートはいつものようにセイレーンに会いに来ていました。
しかし彼女はいませんでした。
ギルバートは心配になりました。だって二人はもう何か月も毎日のように、昼間はポルポタの海の砂浜でおしゃべりをしていたのに、彼女がいないからです。
「なぜいないんだろう。そういえば僕は彼女の名前を知らない。あぁ、名前を呼びたくても呼べないなんて!とても寂しいよ〜」
ギルバートは気付きました。
リュミヌーは確かに彼に安らぎを与えました。しかし、セイレーンはリュミヌーとはまた違った安らぎを与えてくれていたのです。
気付けばすぐに女性に恋をしてしまう。
ギルバートは恋は知っていましたが、愛を知りませんでした。
「こんなに寂しいと思うのは初めてだ。新しい出会いなんていらない。セイレーンさん、きみにもう一度会いたい」
ギルバートはセイレーンを探しに行きました。
セイレーンはついに覚悟を決めました。
真赤な薔薇を咲かせるのに、自分の血が必要なんて考えもしていませんでしたから、時間が随分たっていました。
「私の命をあげましょう。でも薔薇の木さん、お願いがあるのです。私が死んでしまいましたら、どうか半人半馬の詩人に伝えてほしいの。あなたが好きだったと」
「わかりました。伝えましょう。では私の枝を胸に当てて下さい。そして、もうじき夜がくる。月が夜空に出てきたら、歌を歌い下さい。枝はそれを合図に血を吸い出すでしょう」
セイレーンはうなづき枝を胸に持って行きました。
そして、夜はすぐにやってきました。
彼女は死の恐怖に怯えながらも、歌を歌い始めます。
枝が胸に刺さりました。しかし、彼女はギルバートを思い、痛みを耐え、歌を続けます。
「しかしまだ足りません。これでは薔薇は咲きません」
薔薇の木が言います。
「ギルバートのために!」
セイレーンはそう叫ぶと、今までで一番きれいに歌を歌いあげました。
「咲きました!薔薇が咲きましたよ!」
薔薇の木がそう言った時、その木の枝に大きくて真赤な薔薇が咲いていました。
しかしその時にはセイレーンは血を吸い取られ力尽き、言葉を返すことが出来ませんでした。
しばらくして、ようやくギルバートがセイレーンの居場所をつき止め、やってきました。
「セイレーンさん、なにがあったのさ〜!いったいどうして!」
セイレーンは蚊の鳴くような声でやっと言いました。
「あなたに幸せになって欲しくて。さあ薔薇をもらって下さいな」
「君がいない僕の人生に幸せなんて訪れないやしないさ〜。だって君の大切さに気付いてしまったんだから」
ギルバートは大きな涙をこぼしながら言いました。
「まあ。ならこの薔薇は誰にもあげないで。あなたが一生持っていて下さい。私はそれだけで満たされるわ」
「僕も一緒に行くよ〜、行かせておくれ〜」
「いいえ、あなたはあなたらしく新たな愛を探し求めて下さいな。そして幸せをみつけて下さい。それが私の望みなのです」
ギルバートはその言葉に胸を打たれました。そしてセイレーンは彼の手を握り、静かに目を閉じました。しばらくして、薔薇の木はギルバートに言いました。
「彼女はあなたを愛していたそうです。しかし、今、彼女を抱きしめても痛みは深くなる。さあ、お行きなさい。彼女の願い通り、愛を探しなさい。」
森を離れても、港町についても、ギルバートの目からは美しい涙がたくさん流れていました。
愛することとは、とても胸が痛くなるのだと、彼は愛の痛みを知りました。愛しいものを愛することを知りました。
この薔薇を大切にしよう。
これからの出会いを大切にしよう。
そしてこの今の気持ちを大切にしよう。
彼は貫けることだけを誓いました。
そして、ギルバートはまた新しく恋を探すのです。


おしまい


オスカー・ワイルドのパクリです(笑)
切ない!やりきれない!そんなお話はやっぱり煮え切らない思いになります。