seiken | ナノ



in the spring rainA


ある日の昼下がり、イムは自室の窓に目をやりました。
窓枠にシンプルな装飾を施してあるその四角い窓からやわらかい優しい光が差し込んでいましたが、イムがその窓覗くと、外はまるで絹のようにみえる雨が静かに降っていました。
雨が降っていても空は青く、丸い雲がいくつか浮いていて、その合間から優しい光がもれていました。

「ああ、お天気雨だ」

イムは空をじっと眺めていましたが、やがて窓を開け外に手を出しました。
イムの手は確かに雨に濡れていました。

「やっぱり降ってるわ。さっきまではふつうの雨だったのに。この晴れ間ってことはもうじき雨は上がるのかしら」

イムは素早く後ろを振り向くと、ベッドの脇で静かに佇むサボテンくんに言いました。

「この様子だときっと虹が見れるかもしれないわ。もう少ししたら庭に出てみようかな!」
「………………」

イムは少し顔を赤らめていいました。つぶらな瞳でこちらをじっと見るだけで何も返事をしないサボテンくんにとりあえずにっこりと笑いかけ、イスを窓のところまで持っていき「もう少し外をみよう」と言ってそこに腰掛けました。

「お天気雨ってきれい。特にうちの庭はお天気雨が似合うと思うの。このコロナがキレイに手入れしている庭が雨の雫に濡れて、その雫で濡れた庭がお日様に照らされていると、なんだかきらきらヴェールをかぶったみたいになってさ、お花たちが輝いて見えるでしょう」
「………………」

雨はまもなくやみました。
窓の外からふんわりと風に乗って雨上がりの匂いが運ばれてきました。
土と草が水に濡れたときのあの匂いです。

「やんだ!そして見て、虹がでてる!」

イムが指さす方の空にはたしかに虹が掛っていました。

「雨上がりって本当に最高だわ!私は雨上がりの庭も好きなの!いつもの庭とはまた違って、雨に濡れた花のいい香りがするのよ。それに“雨上がりの庭”って言葉も響きがきれい」

イムは立ちあがり、乱暴にイスを元の場所に戻して部屋を後にしようとしました。

「とにかく私はこういう理由で雨がすきなの!サボテンくんもわかってくれるでしょう、きみも雨がすきになった?」
「………………」
「ンー、いいのいいの、あなたが私の話をきいてくれていることはわかってるから。お返事はあとで日記にでもつけておいてね」

イムはそう言って部屋を出ていこうとしたら、サボテンくんは小さな口を開いて早口にいいました。

「べつにふつう」

イムはこれを聞くとため息をついて、「本当にあまのじゃくなんだから」と言って虹を見に庭に向かいました。そしてサボテンくんは部屋の窓から虹をみました。