ふつうの生活
「この道でどこかに着くの?」
「そりゃ、着くだろ。道は道に繋がっているからな!」
「そんな曖昧はだめ!」
「なんで!」
「適当すぎ!普通もっと考えるでしょうが」
バドとコロナは魔法学校を出され、ドミナの町へ向かっていました。ただ道に迷ってしまって、そんなことも気にせずただ道に沿って歩いていく弟を姉は許せないのです。コロナにとって現状以上の困難にぶつかることは最も御免被ることですから。
「考えた末のこっちの道だ」
「普通あたしにも相談するでしょ」
「普通って何さ!普通の根拠!」
「普通は普通!根拠なし!」
二人は迷いました。どちらの主張が正しいのか、そもそも自分の主張の本質が曖昧なのではないか。
物事の根拠なんて一体どこにあるのかわかりません。根拠であったものが覆されることなんて今時決して不思議なことではありません。
「とにかく、今は町に着きたいの!こんな生活はいやなの!はやく普通の生活にもどりたいの!」
「・・・コロナ」
コロナは道端に転がる石ころを蹴飛ばしながらバドの前を歩いていきました。バドはそれをぼーっと眺め、「普通ってなんだよ」と、自分にだけ聞こえるくらいの声でふと浮かんだ疑問を口にしました。
それから何日過ぎたか、2人は日にちの感覚なんてなくしかけていたけれど、どうにかドミナに足を踏み入れることができました。
「やっと着いたわね。少しは普通の暮らしできるかな」
「こうなったらドミナを支配するしかあるまいよ!その後はファ・ディールを征服だ!」
「あたしたちの魔法で?できるかしら?」
「できる、かもしれない・・・だろ!」
「普通に無理でしょ」
コロナはやれやれと肩をすくめたけれど、バドはさっさと計画をたてました。
“かぼちゃのオバケ”
ドミナの町外れにかぼちゃのオバケが現れた、そうして噂は瞬く間に広がり、双子が気づいたときには“オバケ”は退治されていました。
「あわわ」
「お前ら何やってんだ?」
金髪に帽子のひとは双子にゲンコツをお見舞いして、静かに尋ねます。
コロナは慌てて名を名乗り、ひもじい日々を送ったことを語り出しました。
誰でもいい、いまの境遇から自分を救い出して欲しかったのです。
普通の生活がしたいのです。
「これから二人で生きることすら・・・」
「弟子にしてくだせぇ!!」
「あ?」
コロナの言葉はバドの大きい声で遮られました。
「アンタめちゃめちゃ強いじゃないっすか!俺も強くなりたいんだ!弟子入りさせてください!」
「バ、バド!!」
「コロナは黙ってろ。ね、いいでしょう?」
「・・・勝手にしろ」
こうして二人にはバドいわく師匠ができました。そして普通の生活が手に入りました。
いま、バドもコロナも嬉しいのです。
やっと普通の生活ができるから。
「コロナ、よかったな。普通の生活が手に入って」
おしまい
さて、普通ってなんでしょうね。