seiken | ナノ



世界に発狂

お城には雪の国にしか咲かない真っ白な花が視界いっぱいに咲き乱れるようなガーデン、近くの森には可愛い小鳥がさえずって、もちろんお城の中には大好きな人たちがいつでもあたしの帰りを待っているの。
なんて、そんなふうに思っていたのに。
でもちがった。
あたしは自分自身に騙されていた。
結局、この世界を作ったのは女神で、あたしが期待するあの世界に暮らすのはまた別の誰か。
つまり私の世界は別にあったのよ。そう世界はいくつでもあるもんだったのだ。人それぞれ、自分の世界で生きているの。
「あー、もう!うらむわよー!」
「なになに、どうしたの」
「うるさいわね!あんたなんか呼んでないの!デュラン、デュラン呼んで!」
「なんだよー!せっかく心配してやったのに」
あたしのこれでもかというくらいの人生の不満に対する苛立ちの声。それは大きな怒号となり、それを聞き、面白がって駆けつけてきたのはホークアイだった。苛立ちは、ときに悲しみをともに連れてくる。そんなときは大好きな人に会いたくなるでしょ。だからあたしはデュランを呼んだ。それ以外の男、とりわけお調子者のホークには全く会いたくなかった。
「どうしてあたしの人生めちゃくちゃなのかしら」
「なんだよ、アンジェラ。そんなに頭に血ぃ上らせて」
「あ、デュラン」
今、あたしたちは旅をしていて、仲間たちにはもちろん、どの街でも信じられないような不幸をみてきた。でも自分の境遇を考えると、この世界で生きる殆どの人が幸せにみえてしまう。
そんなときに必ず思うことがある。
「なんであたしだけ、あたしだって………」
「幸せになりてーってか」
デュランはボサボサの髪をガシガシと掻きながらあたしのとなりに腰を下ろした。
そして瞼を伸ばして、目を半分くらいにして、わざとらしくつまらなそうな表情をして、あたしを見た。
「誰かがワガママいってみー?」
「………?」
「倍悲しむ奴が増えるから」
ああ、そのセリフ、
なんて説得力がないのかしら。
「私の幸せが皆の幸せに繋がらないっていうの」
「さあな」
あたしはそんな言葉が欲しいんじゃないんだ。
「お前王女なんだろ。国民の幸せを願わねーのかよ」
「はっ、愚問よ!愚問!そんなこと願うと思う」
あたしはワガママお姫様よ。
と心で付け加える。
「おれはー、思うよ」
「は?」
「お前はそんな冷たい奴じゃねぇよ」
デュランは顔を背けてそう言った。彼の表情は見れなかったけど、仕草とかで少しだけ照れてるように感じた。
やっぱり、デュランはいい男!
「もー!すきっ!」
「あぁ!?」
そしてあたしは思い出したのだ。
「あたし、デュランがいれば幸せだったんだったわ!」
「ほー」
女神がつくる大きな世界を変えるのって大変だけど、ちっちゃい自分が生きる世界はすぐに変わるの。
なんでもいい、幸せが幸せを願うための力になる。
だからきっと、みんなに必ず大切な何かがあるんだ。そしてあたしには彼がいる!
「こんな幸せな気持ち、ついでに皆を幸せにしてあげたいって余裕も生まれちゃう」
「おぉ」
でもやっぱり、
「目指すは一番の幸せよ!あたしの世界がナンバーワンよ!」
なんたって、あたしは“アルテナ王国史上もっともわがまま王女”なんだから!



世界は好きな人で廻ってる
20080213
20120820(改!)