氷菓子

6月の梅雨が明けて7月も後半を過ぎると、もうすっかり夏の装いになる。

色鮮やかに咲いていた紫陽花は姿を隠し、代わりに向日葵が顔を見せる。

毎日暑い。

木陰に腰を下ろしてぼんやりと周りを見やる。

するとそこに尾浜勘右衛門の姿があった。

私服姿で手に何か持っている。

久々知兵助と一緒だ。

街へ遊びに行った帰りかな、と思った。

自然と目が彼を追う。

あの時から。

桜餅をあげたあの時から、私は彼を目で追っかけてしまうようになった。

あれからお礼にと尾浜勘右衛門から団子を貰ったり、あげたり、ちょっと話したりするようになった。

不思議だなと思う。

あの時は暖かな春風が吹いて、桜が咲いたように感じた彼の笑顔が
今は眩しい太陽のように感じる。

見ていると胸が熱くなる。

夏の陽気が心に入り込んでくるみたいだ。

変な感じ。

只でさえ夏は暑いのに、私だけ余計に暑い気がする。

最悪だ。

見なきゃいいだけなのだろうが、なんでだか見てしまう。追ってしまう。

久々知兵助は近くにいて暑くないのだろうか。

そんな事を思っていたら彼がこちらに気付いて近づいてきた。

「名前、暑そうだね」

「暑いよ、夏だもん」

「ふふふ、そんな名前さんに勘右衛門くんがとっておきのものをあげよう」

そう言うと手に持っている袋から、一粒大の氷を取り出した。

「氷?」

「あーんして、あげる」

言われるがままに口を開けると氷を放り込まれた。

急に冷たい物が入ってきたので体を強張らせていると「冷たくて美味しいでしょ?」と聞かれた。

「これね、砂糖水を凍らせたものなんだって。街で売ってたんだ」

試食したら美味しかったし、暑かったし買っちゃった。だって。

随分と可愛らしい物言いをするな、おい。

どう?と聞くから小さく頷いて「おいひい」と言った。
(何せ氷が大きいからちゃんと喋れない)

すると「良かった」と満足そうに言って太陽みたいな笑顔を撒き散らして彼は戻って行った。

彼が持っている氷はあっという間に溶けてしまうんじゃないだろうかと心配しながら彼を目で見送った。

口の中の氷があっという間に溶けていくのを感じた。

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