美味しいごはん
勘右衛門とは一緒にいることが多い。
半同棲とでも云うのだろうか。
お互い別々に家を借りているけれど、どちらの家にもお互いのものが置いてある。
大概どちらかがどちらかの家に泊まって私達は生活している。
だからいつもご飯を作る時は二人分だ。
大抵は私が作るのだが、たまに勘右衛門も作る。
正直、勘右衛門の方が料理は上手いと思う。
だけどなんだ、男の人っていうのは変にこだわるものなのか?
こだわって手間暇掛けて作ってくれるのは嬉しいし美味しいけれど、余った材料で適当にご飯を作るというのをしないのだ。
毎日買い物に行く時間も凝った料理を作る時間も、忙しい現代人にはない。
時々スーパーに行って良さそうなものをまとめて買う。
そのため私が適当にご飯を作ることが多い。
今月はもう終わろうという頃合いだが、お互いに忙しいのもあって私が簡単に作ったものや外で食べてくるという事ばかりだった。
「ねぇ勘右衛門、美味しいごはんが食べたい」
今日はお互い、久しぶりに時間ができてゆっくりと過ごしていた。
私がそう言うと勘右衛門はわかったと言って立ち上がった。
「買い物行こうか」
そういえば二人でゆっくりスーパーで買い物をするのも久しぶりだった。
買い物から帰ると勘右衛門は買ってきたものを私に預け、エプロンを取って戻ってきた。
「それ、私のじゃん」
「うん、名前作って」
そう言って私にエプロンを着せようとする。
勘右衛門作ってくれないの?私は作らないよ?と言うと、
「でも名前、美味しいごはんが食べたいって言っただろ?俺は名前が作ってくれたごはんが一番美味しいと思うんだ」
そんな風に言われて悪い気はしないが、でも私は勘右衛門が作ってくれたごはんの方が美味しいと思うし、何より勘右衛門の味が食べたかった。
私がどうしようかなと悩んでいると、それを察した勘右衛門が「じゃぁ一緒に作ろうか」と言ってくれた。
今までは“私の味”と“勘右衛門の味”しかなかった食卓に、新しく“二人の味が”加わった。
それはとても美味しくて幸せの味がした。
[しおりを挟む]