お汁粉
野外授業が終わったらもう夜だった。
忍術学園に着くとくのいち達がお汁粉を炊き出していた。
「お疲れ様でーす、くのいち教室から夜遅くまで頑張ってた忍たまのみなさんにお汁粉のサービスです!」
食堂ももう閉まって、夕食を食いっぱぐれた俺たちへの労いなのかもしれないが、如何せんくのいちからの差し入れというのが俺たちを戸惑わせた。
腹は減っているが何を盛られているのかわかったもんじゃない。
そう訝しんでいると、くのいち達の中に見知った顔を見付けた。
名前だ。
名前は俺と同い年のくのたまで、まぁいろいろと仲良くさせて貰っている。
こういう時はちょっと俺が頼めば、何か裏があるのかどうなのか簡単に教えてくれる。
「名前、このお汁粉ってさ…」
「なに、勘右衛門?」
「えーっと…その、何か入ってたりする?」
「小豆?」
「そうじゃなくてさ、その…毒とか」
「さぁ?食べてみればわかるんじゃない?」
はい、と言って名前が俺に持っていたお汁粉を手渡す。
「あのさ、名前。今度お団子奢るからさ…」
これ、食べても大丈夫なのか?と恐る恐る聞いてみる。
すると少し考えた風にしてから、作ってるのは食堂のおばちゃんだよ、と答えた。
ほら、俺が聞けば簡単に教えてくれる!
良かった!!
「先生方に頼まれたの。おばちゃん一人でみんなに配るのも大変だし、可愛い女の子から貰ったら忍たま達も嬉しいんじゃないかって」
可愛い女の子?先生方も変な気を遣わないでいいのに。
確かに可愛い女の子から差し入れを貰ったら嬉しい。
でも相手は”女の子”じゃなくて”くのいち”だ。
いくら可愛くてもくのいちからの差し入れなんて…。
でもそうか、おばちゃんのお汁粉なら安心だな。
安心した俺は名前に「ありがとう」とお礼を言い、温かいお汁粉を啜った。
甘くて温かいお汁粉は疲れた身体に染み渡って、疲れを溶かしてくれるように思えた。
…が、ん?
「!?…ブホォ!がはっ…」
「作ってくれたのは食堂のおばちゃんだけど、配ってるのはくのたまなんだよね」
変な味を感じ慌ててお汁粉を吐き出す俺を見ながら名前は更に続けた。
「忍たまに渡す前に“隠し味”を入れるかどうかはその子次第」
― 私のお汁粉には何か入っていたかしら? ―
少し食らってしまっただけなのに、吐き気が止まらない。
地面に片膝をついて吐き下している俺を見下ろしながら、 にっこりと微笑む彼女は流石くのいちと言わざるを得ない。
「あ、お団子楽しみにしてるね!」
こんな苦いお汁粉、産まれて初めてだ。
[しおりを挟む]