LastRace「さよならだいすきなひとたち」

拝啓、立海大附属中学テニス部三年生へ


「珍しく遅刻しなかったね。おはよ。」

「へへっ!うぃっす!」


いつもの待ち合わせ場所。
亜季と学校へ行く。
こうやって朝一緒に学校行くの、何回目かな。
毎日行きたいのは山々だけど、俺はしょっちゅう遅刻。
でも今日は、遅れなかったぜ。遅れたくなかった。


「卒業式かぁ。あんま実感ないな。」

「なんだかんだあの人たち、毎日部活来てたもんな。」


そう、今日は先輩たちの卒業式。
明日から、先輩たちは高等部の練習に加わる。
俺の、こなきゃいいって思ってた日。


「赤也、色紙全部集まった?」

「おう。後書いてねーのは俺だけだな。」

「まだ書いてないの!?」

「あとで書くって!レギュラーの分だけだし。」


正直、なんて書きゃいーか、わかりません。色紙なんて、照れ臭いし。カッコいいこと書いたって、きもいっしょ?


「早くしねーと遅刻だ!」

「あ、待ってー!」


相変わらずのろのろ歩くこいつの手を引いて、走りだす。
俺に似てきたせいか、こいつも少ーし素早くなった気がする。少しだけな。

教室着いて、HRでプログラムを渡される。
俺たちは校歌とか、いかにも卒業式っぽい門出の歌を歌うだけで。
他は、先輩たちが一人一人卒業証書を受け取るのを見たり、偉い人の退屈な話を聞いたり。…寝る自信がある。

そんな退屈なはずの卒業式は、静かに始まった。
クラス別に入場。


とりあえず、返り討ち覚悟で、言いたいこと言わせてもらいますよ。


最初は、真田副部長と柳生先輩のクラス。二人そろって父兄みたいだな。千夏さんに高山サンもいた。

次は…、おいおい、卒業式ぐらいおとなしくなれよ。
銀髪長髪の仁王先輩に、真っ赤な髪のブン太先輩。先生たちからため息が聞こえた気もする。

その次のクラスにも先輩がいた。幸村部長。
女子のちょっとした歓声が聞こえた。人気だよな、ほんと。

二クラスあけて、柳先輩。背の高い柳先輩は、優等生ルックスなのに目立つ。

さらに二クラスあけて、ジャッカル先輩。俺と目が合って、軽く笑ってくれた。


あんたらほんっと嫌な先輩たちだったっス。俺何回もキレたし、早く引退しねーかなって何回も思った。


「卒業証書、授与。」


始まった。一番長くて一番退屈なとこ。


「真田弦一郎。」


発声練習してきた?って疑いたくなるほどの立派な返事が響いた。


真田副部長。俺、あんたのこといまだに苦手っス。厳しいし、すーぐ怒るし、殴るし説教するしで。

でも、強いって、どーゆうことなのか。本当の意味を教えてくれた。そんで俺の成長を、誰よりも望んでくれた。



「柳生比呂士。」


相変わらずきっちりした服装。実は仁王先輩で、いきなり変なことしだしたらウケんだけどなー。


柳生先輩はいつも小言ばーっかり。紳士ってなんだよってぐらい、小煩くてうざくて、マジで姑みたい。

でも、絶対に信じてくれた。誰が何と言おうと俺の力を。たとえ負けてたって、最後まで俺の勝利を信じてくれてた。



「仁王雅治。」


今絶対プリッて返事した!少し騒つく会場。


仁王先輩、あんたには完敗。騙されまくりはめられまくり。バカにするように笑うとこ、マジ嫌いっス。

でも、からかう振りして俺のこといつも気にかけてくれてたの、知ってた。性格悪いくせに優しいんスよね。



「丸井ブン太。」


思った通り、ガム噛んでる。緊張してるな、さては。


ブン太先輩に告ぐ。今まで俺から奪った飯及びお菓子、返してください。俺ら今まで何回喧嘩したっけ?

でも、俺がこのテニス部を楽しいと思うようになった始まりは、あんたっスよ。毎日毎日楽しかった。



「幸村精市。」


また女子から歓声が。少し泣き声も聞こえた。


幸村部長は怖かったっス。一番優しそうなのに。微笑みながらの激励は真田副部長の制裁数倍の恐怖。

でも、誰よりも尊敬してます。幸村部長以上の部長、いねーから。あんたの誇りを、俺は受け継ぐ。



「柳蓮二。」


目……、残念!あと少しで開きそうだったのに。


柳先輩のどこまで調べてんだってぐらいのデータ。すでにストーカーの域っスよ。おせっかいだし話もなげーし。

でも、俺の相談には何でものってくれた。愚痴も自慢もいつだって聞いてくれた。そんでただ甘やかすんじゃなくて、俺のための言葉をくれた。



「ジャッカル桑原。」


就職したはずの親父さんも来てる。店はどーした?まさか…。


ジャッカル先輩。俺、あんたに迷惑かけたこと謝りませんよ。てか、先輩なんだから逆に叱れよ、だらしねぇの。

でも、礼は言わせて。どうも世話んなりました。たぶんまだまだ迷惑かけるっス。いつか美味いコーヒーおごりますから。



寝る気満々だった卒業式。あれこれ考えてたら、いつの間にか終わってた。
卒業生だけでなく、二年の女子もちらほら泣いてて。
エスカレーター式の学校にしちゃ感動的な卒業式だった気がする。


俺、あんたらにまだまだたっくさん言いたいことあるっス。


「先輩!」


外で、花のアーチを三年生たちがくぐった後、
俺はテニス部で集まってるとこに亜季と向かった。

亜季は、先輩たちの顔見た瞬間、ぐしゃぐしゃに泣いた。
同じく号泣の千夏さんや高山サンと抱き合ってる。
たった一年の別れなのに、泣きすぎだって。


「よぉ、赤也!お前絶対寝てたろ?」

「当たり前っスよ。退屈すぎて退屈すぎて。」

「ククッ、可愛らしく泣いてみんしゃい。」

「絶ーっ対嫌っス!」


どいつもこいつもテニスの腕はバケモン揃い。性格だって、みんなして俺のことガキ扱いワカメ呼ばわり。気に食わねぇ。


「赤也。お前は明日から俺たちがいなくてもしっかりちゃんと…、」

「ハイハイ、わかってますって!」

「もちろん、負けは許さないからね。」

「うっ…、……はい。」


今は敵わなくたって、いつか絶対、倒してみせますから。


「俺もようやく赤也から解放されるぜ!」

「ジャッカル先輩!それどーゆう意味っスか!」

「切原くん、後輩たちの手本となるように頑張ってください。」

「俺が…、」

「後輩たちの手本になれるわけない、とお前は言う。だろ?」

「うっ…、……はい。」

「早速たるんどる!赤也!」


こんな調子で、勝つ日がくんのか微妙だけど。でも、やっぱり俺の夢は、先輩たちに追いつくことだから。だから、


いつもの先輩たちの笑顔が、次第に揺れ始めて。

真ん前にいたブン太先輩があんぐり口開けたのが、ぼやけた視界で唯一確認できた。


「おま…!泣いてんの!?」


でかい声で叫ぶなよ。恥ずかしいじゃん。相変わらず空気読めねーの。


「素直なやつじゃの。よしよし。」


俺の頭をわしゃわしゃと仁王先輩が撫でた。
瞬間、ボロボロ流れてきた。
知らないうちに我慢してたんだ。


だから、ほんとは、めちゃくちゃ寂しいんス。いつも一緒だった先輩たちが、いなくなんの。俺一人置いてかれんの。


「バカやろ!俺だって寂しいんだぞ!」


なんか知らねーけど、ブン太先輩も泣き始めた。気持ち悪いからやめてよ。


嫌な先輩ばっかだけど、


「な、涙など、精神修行が足りん!」


そーゆう副部長こそ、声震えてますよ。


先輩たちは、俺の、自慢の先輩っス。強くて、プライド高くて、ちょっと意地悪な。


「はい、赤也。ハンカチ。」


ニッコリ笑ってハンカチをくれた幸村部長も、いつもの余裕はどこへやら。泣きそーじゃん。


だから待っててください。俺のこと。高校で。


「よっし!打ち上げいこーぜ!」


ブン太先輩に肩組まれて、みんなで移動した。
途中、何人もの女子たちに、先輩たちはネクタイやら写真やらを頼まれてた。さすがにネクタイは全員断ってたけど。みんな約束した相手いるみたいだし。…真田副部長もかよ。

どさくさ紛れに俺のネクタイも拉致られそうだった。これは亜季のもんだっつの。(予定。)


一年後、俺今よりずーっと強くなってます。


「今日は朝まで騒ごうな!」

「赤也、途中寝たら顔に落書きするぜよ。」


先輩たちも、負けずに強くなってくださいよ。


「はっ、上等っス!負けねぇ!」


そしたらそん時こそ、このメンバーで、全国制覇しましょうね。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「うぃっす!亜季。」

「あれ?赤也今日も早いね。」

「だってこれから毎日一緒に学校行くって約束しただろ?」

「いつまで続くかなー。」

「約束破るのは性に合わん!だからよ。」

「あははっ、制裁は真似しないようにね。」


今日も、亜季と一緒に、登下校。
先輩たちはいなくても、俺は一人じゃない。
亜季がいて、新しい仲間たちがいる。
俺はそいつらと、立海大附属中をまた王者にしてみせるっス。


「赤也、」

「ん?」

「手、つなご。」


亜季が左手を出す。
ブレザーの袖から、チラッと見えた黒と赤のリストバンド。

付き合って半年近く経った今でも恥ずかしがる亜季に、最高の愛しい気持ちを感じて。


「手と言わずにキスしよーぜ。」


テニスで汗かいて、授業であくびして、
亜季との変わらない甘い時間で、ドキドキする。

それが俺の、日常。
当たり前の毎日だけど、絶対失いたくない毎日。

一年後はなんか違うのかな。
高校と中学って、違うのかな。
変わってもいい。変わらなくてもいい。
ただ、テニスと、あの人たちがいて、
それと、傍でこいつが笑っててくれたら。

そんな幸せな毎日がこれからもずっと、
ずっとずーっと、続きますように。


卒業おめでとうございます!常勝立海大!

ウワサのエース・切原赤也より


ちなみに色紙には、最後のやつしか書いてないっス。
あんな臭いこと書けるかっての。

Rabbit×Race is end.Thank you.
2008.3.10


| →
[戻る]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -