Race.10「ぼくらのきもち」

「切原、焦げてる!」

「げっ!」


今切原と二人でご飯作ってる。
あたしは帰ろうと思ったけど。さすがに二人ってのは気まずいから。

でも、切原の誕生日だし。
切原一人じゃかわいそうだし。
やっぱり、お祝いしたいし。
好きだから。一緒にいたい。

だから、残ることにした。
それでお腹も空いたのでご飯を作ることに。
野菜やら肉やら勝手に使ってますが、
松浦先輩め、人をはめるからですよ、フン。

チラッと横目で切原を見ると、
すげーなぁ、とか、うまそー、とか、チョロチョロ楽しそうに動いてて。
さっき、あたしが残るって言ったときも、すっごくうれしそうに喜んでた。

それを見てると非常に申し訳なくなる。
朝の、あの態度。


「なんか手伝うことない?」


切原は目をキラキラ輝かせながら聞いてきた。なんか役に立ちたいらしい。さっき焦がしたくせに。
そういえば、前に仁王先輩が言ってた。



『切原って、うさぎっぽくありません?』

『うさぎぃ?んな可愛くねー。あいつはイモリだ。』

『イモリ?ずいぶんとマニアックですね。』

『なんか両生類っぽいじゃん。』

『あー…………そーですか?』

『何言っとるんじゃ。赤也はうさぎでもイモリでもなか。』

『なんだよ?』

『犬。あいつの尻、しっぽあるぜよ。よく見てみんしゃい。振ってるから。』



「これ、掻き混ぜればいいんだな?」


見えました。仁王先輩。
切原のしっぽ。振ってる。
はしゃぐ姿がかわいくてかわいくて、
あたしは思わず、切原の頭を撫でた。


「な、なんだよ?」

「いや、うん。うん。」


やっぱ好きだよ切原。
切原は松浦先輩を好きでも。
切原もきっとあたしと同じぐらい、それ以上に報われない恋なわけで。
だから、
あたしもまだ、好きでいていいかな。


「亜季、こーゆうことは男にやるもんじゃねーから。」


切原は、頭を撫でていたあたしの右手を掴んだ。
そして今度は逆に、あたしの頭を撫でる。


「男がこうやって、……す、好きな女にやることだ。」


優しく、優しく、撫でる。

切原は、悪魔とか凶暴とか怖いイメージがあって。
でもあの日…、たぶん一緒に日直をやった日から、変わっていった。
バカで、子供っぽくて、すぐすねるし、バカだし、
優しくて、素直で、バカだけどたまにかっこよくて、バカでもかわいくもある、
そんな、素敵な男の子だって、知ることができて、
どんどん好きになっ………、

………あれ?今、なんて?


「切は……、」


切原の手が、あたしの頭から肩にすとんと下がったかと思うと、
勢いよく、抱きよせられた。
ぎゅーって、強く抱きしめられた。
ちょっと苦しいよ。


「きききき切原…、」

「…なんだよ。」

「な、なんで…?」

「好きだから。それ以外にあるかよ。」


好き?切原が?あたしを?
だって、だってだって、

“とろい、かな”

切原の好きな人は…あたしじゃなくて…、


「俺は、亜季が好き。」


これは夢?


「亜季は?俺のこと、好き?」


それとも、今朝見たあの告白シーンが夢?


「…話聞いてんの?」

「はっ。」


あたしの顔を覗き込む切原。
いけない、いけない。
あまりにびっくりでぼーっとしてしまったのです。

切原があたしを?


「返事、聞かせて。」


あたしを見つめる真っすぐな目は、けして冗談を言ってるようには見えず。
相変わらず、早く言えよって、急かされてるようで。


「一つ、聞きたいんだけど。」

「なに?」

「とろいって、誰?」


ここなんだよ、重要なのは。
あたしが聞いた話。
以前切原は松浦先輩をとろいって言ってて、
今朝、自分の好きな人はとろいって、はっきり言った。


「今日、切原が告白されてるの見た。」

「ぅげ!?あそこにいたのか!?」


いたというかついていったというか。
まぁ、それは内緒にしよう。


「そのときに、切原、好きな人はとろいって、言った。」

「っんだよ、先に俺の話聞いてたのか。恥ずかしー…、」

「それって松浦先輩?」

「はぁ!?」


切原は家中響き渡るぐらいの声で叫んだ。余程予想外だったらしい。
あたしだって、予想外だよ。さっきの告白。


「切原の好きな人って、」

「だからぁ!そのとろいやつってのが、お前だって。千夏さんじゃねぇ。つーかあの人意外とちゃっかりしてるぜ。」


さっきまで以上に真剣な切原にドキドキする。
切原の口から出る言葉にもドキドキしながら、
好きな人はあたしだって、松浦先輩じゃないってはっきり言ってくれたことがうれしい。
信じてもいいですか?


「…もしかしてお前、自分がとろいことに自覚ねーのかよ?」


それやばいぜって、ちょっと哀れむような目で見られる。
待て待て、そんな本気で同情しないでくださいな。


「いや、あたしはのろいだよ。」

「いやいや、変わんねえだろ。」

「いやいやいや、変わる。とろいは愛されててのろいは…、」

「いやいやいやいや、意味わかんねー…って、なんか焦げ臭くねぇ?」


そういえば。
ふと、自分が調理していたフライパンを見ると…、
焦げてる。見事に。
メインディッシュ(ハンバーグ)が…!


「ま、まぁ、食べられないこともないというか…、」


言い訳するあたしを余所に、切原はお皿にハンバーグをのせる。


「俺何でも食うよ。」


あんたの作ったやつならって、照れ臭そうに言った。
その切原の顔を見て、さっきの言葉が蘇る。


「と、とりあえず冷めないうちに食おうぜ!…そんで、」


切原はあたしの頭を優しくぽんぽんってした。
いつもの、二人でいるときの切原。
ときめいてる。あたし。


「食い終わったら、さっきの返事、聞かせて。」


せっかちで、きっと本当はすぐ返事欲しいくせに。
待っててくれるの?あたしのために?

答えは決まってるけど。
少しその言葉に甘えようかな。
あたしのためにらしくもなく我慢する切原。
かっこよすぎて。もうちょい見てたい。お腹も空いたし。


「「……。」」


しかし意外と気まずいですね。
見た目よりおいしいハンバーグをもりもり食べながら、あたしたちは今まで経験したことないぐらい、沈黙が続いた。

切原はたぶん、あたしの返事が気になってて。
あたしから言うべきかしら。
でもそれより…、


「…切原。」

「ん?」

「プレゼント気にならない?」


テーブルの上。先輩たちからの。
なんであたしが気になるかっていうと、
後日、切原に改めて渡すつもりだから。
今日もらったものとかぶらず、尚且つ上をいくものがいい。


「じゃあ見てみる?」


一番最初に手に取ったものは…、
本、ですね。


お薦めの一冊。赤也でも飽きずに読破できるはずだ。

柳蓮二より



一目見て切原は読まないだろうと確信した。柳先輩のデータに狂いが生じた瞬間。

切原が次に手に取ったのは…、
木彫りの人形みたいなもの。


「…わかった!こけしだよそれ!」

「あ、こけしか。ジャッカル先輩か。」


そういえばジャッカル先輩は手先が器用だって聞いた。何でも手作りだって。
うん、確かにこけし、うまい。

その後も次々と先輩たちからのプレゼントを開けていった。
切原は…、一応うれしそうだ。
でも、なんだかあたしは、このプレゼントたちになら勝てる気がしてきた。けど、


「あー!」


切原は、CDケースみたいなものを持って、叫んだ。
どうやらゲームのソフトらしい。


「やった!このゲーム、欲しかったんだよな〜!…ブン太先輩と千夏さんからだ!さっすが!」


切原はものすごい喜んでる。
やばい。強敵現る…!
しかも松浦先輩。
負けたくない…!


「…あ、切原、これまだ開けてないよね?」


端っこにあった、まだ手付かずの箱を切原に見せた。
小さな箱。お菓子?


「ん?それって………ぅわぁ!!」


切原はあたしの手から、その箱をすごい勢いで奪い去った。
なになに?何事!?


「なにそれ?」

「あー…、これは、えーっと…、何でもねぇよ!」

「気になる。」

「いや!すげーくだらないもんだし!……くそっ、やーっぱり仁王先輩からだ!あんのエロ詐欺師!」


どうやら仁王先輩からのらしい、お菓子の箱のようなものは、断固として見せてくれなかった。


「そ、それより!あんたは?」

「は?」

「プレゼント…、ないの?」


ちょっと期待したりしてたんだけどって、言われて、
あたし、ちゃんと用意してたよ、
切原のこと、お祝いするつもりだったよって、言いたくて。

でも現物は、あの場所に置き去りにしちゃったから。
今から取りにはいけないし、もうないかもしれない。

言っても意味ないけど。
すごく残念そうな顔をした切原を見て、すごくすごく、申し訳なくて。


「本当は、あったんだけど、」

「え?」

「校舎裏に、忘れてきちゃった。」


あんた、バカすぎ!とか、
鈍臭いにも程があるぜ、とか、言われると思ったんだけど。

切原は、何も言わずにチャリの鍵とこの家の鍵を掴んだ。
ついでにあたしの手も。引っ張られて、玄関へ。


「き、切原、どこに…、」

「どこ?校舎裏に決まってんだろ。」

「だってこんな時間…、」


切原は、靴を履くと、くるりと後ろを振り向いた。


「亜季が俺のために用意してくれたんだろ?そんなうれしいことあるかよ。俺がどれっだけ亜季からのプレゼント、楽しみにしてたと思ってんの?」


ちょっと期待しただけって言ってたくせに。
あたしは小さくごめんなさいと呟いて、靴を履いた。

もっと、切原みたく素直にならなきゃね。


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