苦しくない恋なんてない

「蓮二ー!」


今でもはっきりと思い出されるのはあの日。桜舞う中、大好きな人の元へと走っていた日。


「ごめんねー遅くなって!」

「いや、構わない」


卒業式から数日経った頃。高校は別々になってしまったけど、お互いきっと今まで通りの関係でいられると。

そう信じて止まなかった。不安を打ち消せるように信じたかった。


「…?どうしたの、蓮二」

「……」

「これからどこか、行くんじゃないの?」


大好きな人に呼び出されたんだから、私はいつも以上にオシャレをしていた。まだ中学卒業したばかりのくせに、慣れないメイクなんかして、グラグラなヒールなんか履いちゃって、でもすべては彼から魅力的に思われたいがためだった。

彼のためだと思ってた。そう求められてもいないのに、思い込もうとしていた。


「…黒川」

「……」

「大事な話があるんだ」


そこからの話は、当時の私にはすぐに受け入れられるものじゃなかった。嫌だよ私は蓮二のことが…、そんな声は思うばかりで口から出せず、彼に届くことはなかった。小声でも呟きでも、彼が私の言葉を聞き流したことなんてないのに。

だからこそ何も言えなかった。そして何も言わずに私は彼の前から立ち去った。
その日以来、私は彼と話すどころか顔さえ合わせていない。



「せーんぱい!ちゃんと飲んでます?」


目の前で赤也が手を振ってる。古い記憶が蘇って、お酒の手が止まってしまった私を気遣ってくれたみたい。


「飲んでる飲んでる!そろそろ新しいお酒いこっかなー」

「あ、でもさっきラストオーダー終わっちゃったっスよ!」

「え!いつの間に!?」

「まだまだ飲み足りないっスよね?」


ニヤリと笑った赤也は、二次会に行くことを提案してきた。近くには初めからずっとブン太もいて、その他にジャッカルや、私と仲が良かった女子部の子も混じってて、じゃあその辺のメンバーで行こうかっていう流れになった。

…ちなみになんで一個下の赤也がいるのかと言うと、やっぱり特別うちらの学年とは仲が良かったから、声をかけられたんだそう。
でも赤也がいてくれてよかった。この子のおかげもあって、今日はすごく楽しいから。

ふと、テーブルの対角線上を見つめる。そこには、柳がいた。
遅れて来た彼は、空いてた席…それがたまたま私の対角線上で、そこに座ったあと、移動することはなかった。


「あー俺は明日早いから、お先に帰るよ」

「俺も先に失礼する」

「そっスか、じゃあまた今度飲みましょ」


会計も終わりぞろぞろとみんな外へと出てきたとき、赤也が幸村や真田にも声をかけると、二人は行かずに帰ると言った。

となると、もう一人も当然。


「せっかくだが、俺ももう帰らないといけないんだ」

「えー!柳先輩もっスか!?」


幸村&真田が行かないんだからそれは納得。…だけど。

結局、一言も会話できなかった。柳が来る前の時点で、空いてる席はあそこだけだったから、きっとあそこに座るんだろうなと思ってた。…まぁそのあと赤也が到着して、赤也はわざわざ椅子持ってこっちに来たけどね。おかげで狭かった。でも、相変わらず赤也はかわいいなーって思った。

柳がわざわざ私のところに来るなんて、そんなことはあり得なかった。
ジムなんか通って、かわいくきれいになった私を見てほしい、なんて、くだらない幻想だった。バカバカしい。


「さー!もっともっと飲むよー!」

「お前とんでもねー酒豪になったな」

「だって久しぶりにみんなと会えて楽しいんだもん!」

「まーな、雪菜はマジで生死不明だったもんな」

「なにそれ!」


確かに、ここにいるほとんどの人と中学卒業以来の再会だったから、そう思われても仕方がない。

ただ、ほんとに楽しかったのはほんと。今日を境に、ブン太や赤也たちとまた交流できたらなーなんて思った。

そしてこのままここにいたって柳と話せるわけでもないし。さぁ早く二次会へ行こうって、ブン太や赤也を引っ張った。そのとき。


「黒川」


一歩足を踏み出すと、後ろから呼ばれた。
ずっと前から中学生のときから、こんな風に落ち着いた声だったね。


「久しぶりだな。今日、少し話せればと思っていたんだが」

「…あ、う…うん」

「また今度の機会に」


最後の最後でもわざわざ話しかけに来てくれた。きっと気まずいだろうに来てくれた。
だから、笑ってまたねとでも言えたらよかったのに。この人の言葉を額面通りにだけ受け取ればいいのに。

柳は結論しか話さない。私が何をどうこう言っても変わらない人だから。


「…あの、二次会…行かない?」

「ああ、お先に失礼する」

「…あ、そう」


え、私と話したかったの?なんてちょっとでも期待しちゃって、踏み込んじゃって、結局落胆する。昔から変わらない、学習能力がないんだな。

そしてこのあと暴飲暴食するのも大人になってからお決まりのコースだ。私の戦いは二次会からである。


「さぁ、早く行こー!」

「あ!待ってくださいよ雪菜先輩!」


そして赤也やブン太たちと、その戦いが始まり、私はいつも通り燃え尽きたのであった。…ジムは退会しよっと。

戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -