ほんわかイチャ編   - 2017誕生日記念A -
※@〜Bに繋がりはありません


「ブン太」

「んー?」

「一大事だよ」


今週からぐんと気温が上がり、ようやく春らしい春になってきた。とはいえ、まだ日陰は寒いし、朝晩も冷える。でもまさか、エアコンなんて使う時期でもない。他の暖房機器も同じく、だけど。

我が家には、もはやリビングの主と化した最強アイテムがある。そう、こたつだ。


「どうしたよ?」


隣の面で、胸から下をこたつに突っ込み寝転がるブン太は、うつ伏せから仰向けにゴロンと回った。その手には3DSが握られている。

大きいわけではない長方形のこたつは、私が長辺、ブン太が短辺に位置を取るというルールがある。ブン太は短辺でないと、寝転がったときに足が外に出てしまうからだ。「足が長いからなー」とは言うけど、例え出たとしても足首までだろうという反論は胸にしまってある。ついでに私が寝転がると足がぶつかるからという理由で、「お前は座ってろ」と言われている。ひどくないですか?


「次の日曜、こたつ片付けるって」


それまでゲーム画面から一切目を離さなかったブン太が、ようやく私を見た。そして勢いよく起き上がる。


「なんで!」

「これがあるから君たちいつも寝っ転がってるって、お母さんが」


ジュースを飲みつつ答え、ちらっとブン太を横目で見ると、ため息を吐きつつこたつに伏せていた。

ブン太は一応彼氏で……いや一応ってなんだ、ちゃんと彼氏なんだけどね。うちのお母さんにも相当気に入られてて(イケメンだからね)、お菓子やらご飯やらゲームやらたくさん提供するもんだから、うちでのデートも多い。

家デートって友達に言うと大抵が、「おやおやおや〜?」って下世話な目を向けるけど、親がいることも多いし、たとえ今日みたいに二人っきりだとしても何もない。ブン太は何もしてこない。

もともと普通の友達で、よく一緒に遊ぶし、趣味とかも合うし、楽だし、「じゃあ付き合おっか」みたいな色気もロマンスも何もないスタートだったのだ。
そしてそれが交際半年の今も続き、ロマンス皆無の熟年夫婦のようだ。


「こたつでお菓子食べつつゲームしながらうとうとすんのが最高なんだよな」

「また来年までお預けだね」


現役立海テニス部レギュラーとは思えない発言に笑いながら、今言った自分の言葉に、ハッとした。来年までって。来年もブン太は私と付き合ってるんだろうか。
でもそんなネガティブな気持ちは、ブン太に一掃された。


「来年じゃねーだろい。次出すのは10月!」

「あ、そっか」

「その頃には付き合って1年だから、このこたつでお祝いしようぜ」


どんだけこたつが好きなのか、引っかかるけど。言ってくれたことは素直にうれしかった。


「来週からブン太、うちに来ないとか言い出すんじゃないかと思ったよ」

「それはねーけど、お菓子くれなくなったら迷う」

「え!」

「へへっ、うっそー」


絶対嘘じゃない、ガチだったよ今のトーン。軽くショックだった私をよそに、ブン太はまたゲームの続きを始めた。背中を丸めて、画面に夢中だ。


「なんのゲームやってるの?」

「新しいポケモン」

「へぇ、買ったんだ?」

「ちょっと早い誕生日祝いでな」

「おお、よかったじゃん。かわいいね、そのポケモン」


そう言えばもうすぐブン太の誕生日だった。うーん、何をあげよう。普通カップルだったらきっと何週間も前から何を渡すか考えるもんだろうけど。私とブン太だからなぁ。


「いい匂い」


ほんの10センチか20センチの距離で、ブン太の声が耳に響く。画面を横からのぞき見るために近寄りすぎたとようやく気づいた。


「ご、ごめん」

「なに、ごめんって」


軽く吹き出して笑ったブン太は、慌てて離れようとした私の腕を掴んだ。


「シャンプー?香水?」

「シャンプー…かなぁ、香水は、つけてないから…」

「ふーん」


ブン太は私の耳元に顔を寄せて、匂いを嗅いでいる。くすぐったい。いや、それよりもなんだろうこの感覚。ドキドキする。びっくりしたから?ブン太とはそんなふうになったことないって、ついさっきまで思ってたばかりだから。

腕を掴んでいた手は私の腰に回し、逆の手は3DSを畳むという器用なことをやったブン太は、顔をのぞき込んで窺うように笑った。


「くすぐったそうだな。いや?」


急にドキドキしてきちゃってなかなか目は合わせられなかったけど、ぶんぶんと首を振ることはできた。またブン太は笑った。

そしてブン太の唇が私のおでこからこめかみ、耳、ほっぺたと順に触れていく。ドキドキして、体の芯から熱くて、もうこたつなんて10月どころか一生いらない気がした。ブン太と一緒にいる限り。


「ブン太のほうがいい匂いなんだけど」

「そうか?」


今度は私がブン太のおでこやほっぺたに唇を触れさせると、照れくさそうに笑った。

突然降ってきたロマンスに胸いっぱいな中、ブン太も「なんかもうこたついらねーな」って暑がっていたのを見て、ほんわか幸せ気分だった。


END
2017誕生日記念拍手A
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