ひなたぼっこ


「もーすっかり春だねぇ」

「んー」

「卒業式やだなぁ」

「んー」

「…話聞いてる?」

「んー」


ああ、まったく聞いてない。ぽかぽか陽のあたるお昼休みの屋上で、仁王はスマホの音楽を聴きながら目を瞑り横になっている。私の話は適当に流しつつ、とっとと寝ようとしている格好だ。
そしてその横に体育座りで、眩しさに目を細めながら青空観察をしている私。


(教室戻ろーっと)


どうせ仁王は相手してくれないし、それなら教室へ戻って友達と春休みの計画でも練っていたほうが有意義だ。

そう思って立ち上がりかけると、くいっとスカートの裾を引っ張られた。このまま立ち上がってしまうと、仁王にパンツ丸見えになっちゃう。まぁ、今仁王は目閉じたまんまだけど。


「ちょっと、やめてスカート捲り」

「捲るんならもっと豪快にするぜよ。バサーっと」

「じゃあなに」

「……」

「私いなくなったら寂しいから?」

「……」


こんな問いかけに無視されるこちらのほうが寂しいってもんだ。というより恥ずかしい。でもスカートの裾は離さないし動けない。まるで私と仁王の関係を表してるみたい。

仁王は常日頃ずるいんだ。私のこと何でもわかってて、意地悪する。


「ねー」

「……」

「仁王ー」

「……」

「仁王のお腹枕にして寝よっかなー」


パッと、閉じられていたはずの目が開いた。その目はまっすぐ私を捕らえ、少し驚きの色もある。
仁王が私のことを知ってるように、私だって仁王のことは知ってる。何を言ったら困るのかとか、どういうことに喜んでくれる、とか。まぁもっぱら、私が仁王の言葉や挙動に照れたり恥ずかしがったりすることに対し、喜びを感じるようだけど。

これはいつもの仕返しもとい反撃ができたかもしれない。そう思った瞬間。


「どうぞ?」


ぽんぽんと自分のお腹(きっと筋肉で硬い)を叩きながら余裕の笑顔。やれるもんならなとでも付け加えられた気がする。そんな挑発に感じた私は、負けじと有言実行。仁王のお腹を枕に横になった。ようやく、スカートから仁王の手が離れた。


「硬い。寝心地悪い」

「文句あるならいつでも起き上がっていいぜよ」

「……」

「あったかいのう」


ぽんぽんと今度は私の頭を撫でる仁王。細いけどしっかりした指先が私の髪の毛を梳いていく。…うん、あったかい。


「仁王ー」

「んー?」

「高校でもよろしくね」


そう言うと、髪を梳いていた手は今度はほっぺたを優しく包んだ。こちらこそ、と言われてるみたいでもっとあったかくなった。


「春休みどっか遊びに行きたいのう」

「行きたいねー。あ、私ディズニーランド行くよ」

「俺とは?」

「は?」

「どっか遊びに」


なんて返せばいいのか一瞬詰まると、ぎゅっとほっぺたがつねられた。痛くはない、けど。何黙ってる、もちろん行きたいって言え、なんて急かされてるようで笑ってしまった。


「楽しいとこ連れてってくれるならいいよ」

「俺といるならいつでも楽しいじゃろ」

「さぁどうでしょう……いたっ」


今度はちょっと強めにほっぺたをつねられた。今日は仁王より私のほうが意地悪しちゃってるかも。


「仁王ー」


頭を少し起こして仁王のほうを見ると、こっちを見てくれた。それが何だかうれしくて、ふへへと笑うと、変な笑い方じゃなと笑い返された。

また高校でも仁王とこうやってのんびり日向ぼっこしたいなぁ。


『ひなたぼっこ』END
元拍手(2017年3月)
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