あわてんぼうのサンタさん


寒い。マジで寒い。
地球温暖化説間違ってんじゃねーの?



「走れソリよ〜ふんふーん〜♪」



鼻歌歌いながら、おバカな後輩は着替えてる。
俺はもちろん、ストーブの前。
寒いの大嫌いなんだよ。



「ブン太先輩行かないんすか?」

「まだ時間あんじゃん。俺まだここにいる」

「へーい。じゃ俺先に行ってますね。ふんふん〜♪」



文字通りウキウキな足取りで赤也は朝練に向かった。

よくそんな元気出るよな。
俺はもう、今朝は正直テニス捨ててもいいと思ったぜ。

あー寒い。



「はよ」



仁王がやってきた。
眠そうな顔して。顔だけやたら整ってるから人形みたいだな。



「おーっす」

「なんじゃ、またブンちゃんはストーブ独占か?」

「人聞き悪いことゆーなよ。人より寒がりなんだよ、俺は」

「へぇ。ブン太はこたつで丸くなる〜やね」



軽く歌いながら仁王は着替え始めた。同時に、部室の外から赤也のバカ笑いが聞こえてきた。



「赤也のやつ、張り切っとるの」

「ああ、明日クリスマス会だし。夜はサンタさんが来るからだろ」

「…まだ信じとるんか?」

「疑うことなく」



純粋とゆーかバカとゆーか。
うちのチビたちと同レベル。
俺なんか今やサンタの立場だぜ。こっそり夜中にあいつらの枕元にプレゼント置いてさ。



「ブン太まだ行かんの?」

「あと5分」

「じゃ、先行くかの」



そう言って仁王は外に出ていった。
と、思ったら、また戻ってきた。



「なんだよ」

「忘れとった。もう一人、サンタさん信じとるやつおるぜよ」



仁王が“サンタさん”って言うと気持ち悪いな。…じゃなくて、



「あー、名前?」

「どーする」

「どーするも何も、去年と同じ」



去年、俺たちはみんなでクリスマス会をやった。会場はマネージャーの名前んち。

部活後、騒ぐだけ騒いで、飲んで食って食いまくって。

俺はいち早く寝た、けど、
夜中に仁王に起こされた。

名前と赤也の枕元にプレゼント置くぞーって。

クリスマス会の途中でプレゼント渡さなかったのはこのためかって、名前も赤也もマジ喜んでたし、こんときは仁王の機転に感謝した。



「今年もあいつらが寝たら枕元にプレゼント置く方向で」

「今日買いに行くんかの?」

「おー。あんま金ねーけど」

「俺は多少。しかし問題があるんじゃが」

「なにが?」

「赤也の欲しいもの、Wiiらしいぜよ」

「はっ、却下」



んな高いもん買えるか!
あいつには縮毛矯正剤でもやっときゃいんだよ!



「もっと問題があるんじゃが」

「なんだよ?」

「名前の欲しいもの、“彼氏”だって」

「彼氏ぃ!?」



とんでもねー難問だな!
つーかプレゼントじゃねーし!

っかしーな、前聞いたときはピンクの文字盤の時計って言ってたのに。

ふと気付いたら、仁王がニヤニヤ笑ってやがる。
こーゆうときの仁王はマジろくでもねーこと考えてるからな。



「あいつの夢壊さんためにも、俺頑張るぜよ」



は?あいつ今何言いました?



「受け取ってくれるといいんじゃがのー」



鼻歌混じりに部室を出ていった。音楽嫌いなくせに。

窓の外を見ると、
名前が仁王と楽しそうにしゃべってる…!(はやっ!)

あいつ、嫌がらせにかけてはマジ天才的だからなって、
バカなこと考えてる場合じゃねぇ!

俺は部室を飛び出した。

うっかりジャージを部室に忘れて半袖のまま。寒くて寒くて。

真田には、遅いぞ丸井!って怒鳴られたけど特に耳に入ってこなかった。

そんな必死な俺を、仁王はニヤニヤしながらちらりと見る。



“お先に”



今ぜってー口パクでそう言ったろい!



「ちょっと待て仁王ー!!」





ああそうだ、この時は焦って興奮してたから、仁王の策略とも気付かずに、みんなの前で告っちまったんだっけ。
結果は…、ご想像にお任せします。

とりあえず名前は、クリスマスに本当の、一番欲しかったもの、手に入れたみたいだぜ。

ピンクの文字盤の時計。
寒がりではやとちりのアホな彼氏がプレゼントしたってよ。



『あわてんぼうのサンタさん』END

メリクリ★
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