ガムレター


あーイライラする。



「ジャッカル、ガム持ってねぇ?」

「持ってねーよ」



あーイライラする。今日はガム忘れた。それだけで練習に集中できないっつーのに、朝すっげー嫌なもん見ちまったからな。

名前と、他の男が学校一緒にくるとこ。

付き合ってんのか?すげーショック。もうすぐクリスマスなのに。

クリスマスどっか誘おうと思ってたのに…、



「クソッ!」



俺は廊下のごみ箱を蹴飛ばして教室に入ってった。

その様子を見てみんな俺の不機嫌さを理解したらしく、誰も寄ってこねえ。いつも朝一番で挨拶するあいつでさえ。

そうこうするうちに授業が始まった。

あーイライラする。ガムはねーし、朝のことは頭から離れねーし。授業なんかやってられっか!



―ポコッ



「ん?」



俺の頭になんか、当たった。周りをキョロキョロ見渡すと、名前と目が合った。それだけでドキッとするなんて情けないけど。あいつは俺の足元を指す。

見ると、小さく折り畳んだ紙が落ちてて。広げて見た。



『いらいらブンブン(`ε´)なに怒ってんの?? 名前より』



なに怒ってんのじゃねーよ、あの鈍感女。

俺はすぐにぐしゃぐしゃと返事を書いて投げてやった。



『ガムがねー』



3秒もたってないぐらいに、また俺の頭に何かヒットした。
見たら、ガムだった。グリーンアップルの。俺の好きな甘いやつ。

開けてすぐ口に含むと、甘ったるいグリーンアップルの味が口いっぱい広がって。

美味くて、風船もうまく膨らんでんのに、でも俺の気持ちは晴れない。

そうだろうよ。だってこのイライラは、ガムがなかったせいじゃねーもん。



『さんきゅー』



とりあえずお礼の返事だけ書いてまた投げた。

あいつの鈍さと、想いを伝えられなかった自分への苛立ちへ。俺はため息をついて、机に突っ伏してふて寝した。



―ポコッ



また頭に当たった。ったく、今度は何だよ。
折り畳んだ紙を見る。



『返事は?』



は?返事?

俺が意味不明な顔してたら、連投で、紙が頭に飛んできた。

つーかわざわざ頭に当てることねーだろい。



『ガム!ちゃんとみろい!』



ガム…?

すぐにピンときて、慌てて、さっきぐしゃぐしゃにしてポケットに突っ込んだガムの包み紙を広げた。

ピンクの文字で書いてあった。





『クリスマス、あたしとデートしません?』





「マジで!?」



思わず、立ち上がって叫んだ俺。

クラス中、もちろん先生も含め俺に大注目。



「…や、なんでもないっす。寝ぼけてました…」



俺のアホな言い訳に、あいつが吹き出したと同時にクラス中、大爆笑。恥ずかしすぎる!

おかげで先生に怒られ、次回の宿題を黒板に書くよう課せられた。

ちくしょー、名前のせいだ!

でも……、



『かわいいカッコしてこいよ』



内心ガッツポーズしながら、
そんな可愛くねーことを書いて投げた。

俺のイライラはなくなり、告白予定日も決まった。
今日は忙しい日だったぜ。



『ガムレター』END

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