待ち人来たる


教室の暖房は、たまに効きすぎて顔が熱くなる。
それでもこんな寒い日は一日中暖房をつけててほしい。
誰もいない教室は、それだけで寒さが一段と増す。

あたしは一人、教室で待つ。
テニス部が終わるのを。
寒くて寒くて、手がかじかむ。

あたしはこんな一人ぼっちの教室が大嫌いだ。



―ガラッ…



「帰るぜよ」



人一人追加されただけで、無機質な教室が明るくなる。



「おそい仁王」

「早く帰るナリ」



あたしの荷物を持って急かす。
待たせておきながらなんて自分勝手な、と思うけど、

そう思ってるあたしを読んで、軽く笑ってる。



「寒くなってきたねぇ」

「じゃな」



校門を出て、二人でのろのろ歩く。

のろのろというか、あたしの歩くのが遅くて、
仁王はそのスピードに合わせてくれる。

仁王はおしゃべりってわけじゃなくて、
特に疲れてる帰り道はよく無言になる。

でもあたしの話はちゃんと聞いてくれるし、返事もしてくれる。

不満はないけど、多くは望めない。
そんなタイプ。
あたしもそれでよくて、付き合ってる。

部活も忙しくてクラスも違くて、あんま遊べなくて、
だから帰りはあたしが待つ。
そうでもしないと全然会えない。

それに対して仁王は何も言わない。
ごめんねは言わない。

待っててほしいのか、待ってないほうがいいのか、
会いたいのかどうか、
それすら言わない。

でもあたしが会いたいから、
待っていたいから待ってる。
待ってて文句を言われるわけでもない。

たまに自分のしてることが無意味に感じるけど、別にいい。

別にいいじゃろ?
仁王もそう言ってるふうに、感じる。



「マフラー忘れたんか?」



珍しく仁王が聞いてきた。
あたしのことには基本的に触れないのに。



「そう、忘れちゃって」

「寒いし風邪引かんように」

「バカは風邪引かないから大丈夫だもーん」

「ほーう。うらやましいの」



ククっと笑って、

自分のマフラーを外してあたしに差し出した。



「え、いいよ」

「遠慮しなさんな」



そう言ってあたしの首、

いや、首どころか顔にマフラーを巻き始めた。



「ちょっとぉ!」

「これで随分暖かくなったはずじゃ。安心」



目の部分を塞がれて仁王は見えないけど、
面白がって笑ってるのは間違いない。



「確かに暖かいかも」

「じゃろ?」



いつもの帰り道と違ってテンションの高い仁王がうれしくて、抱きついた。ミイラ男(女)のまま。

そしたら仁王もぎゅって、してくれた。

寒い一人ぼっちの教室は大嫌いだけど、
仁王といると暖かくて暖かくて、
こんな暖かい気持ちを感じられる冬は大好き。



「名前」

「んー?」

「嫌じゃなか?」



仁王がぽつりと呟いた。

何事も謝らないジャイアン仁王がひどく申し訳なさそうで、

何を言いたいのかすぐわかった。



「嫌って何が?何も嫌なことはないよ?」



とりあえずあまのじゃくなあたしは、
こーゆう言葉でしかフォローできません。

仁王の顔はわからないけど、
笑ってるように感じた。



「このマフラーじゃ」



そう言って、ぐるぐる巻いてあったマフラーを外す。



「ああ、寒くなっちゃった」

「マフラー巻いとったらキスもできんぜよ」



少し屈んで、キスしてくれた。

あたしのリップクリームが仁王について、ちょっと潤った。



「いつも待っててくれてありがとさん」



優しく笑いながらそう言ってくれて、マフラーもちゃんと首に巻いてくれた。

あたしの寂しさも見抜かれちゃって悔しいけど、

すべてのことに少しずつ優しい仁王があたしは大好きで、

今年の冬も、来年の冬も、

どんなに寒い日だって暖かい気持ちにさせてもらいたいなって思って、

仁王の左手を取って、歩き始めた。



『待ち人来る』END

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