イタズラしちゃうぞ


「トリックオアトリート!」



満面の笑みで両手のひらを差し出された。うん、確かに俺はその台詞使いまくっていっぱいお菓子もらった。いつももらえるけど、ハロウィンだからって託けていーっぱいもらった。女子やジャッカルだけじゃなくて幸村君とか柳とかヒロシからももらった。仁王ですら弁当の煮豆をくれた。甘いだけでお菓子じゃねぇけど。



「残念、もう全部食っちゃった」



そう言うと笑顔が一変、すっげー悲しそうな顔になった。でもこいつもいっぱいもらってたじゃねぇか。俺にはくれなかった赤也や真田からももらってたじゃねぇか。仁王にはガルボなんてちょい高級チョコもらってただろ。みんなしてこいつには甘いんだよな。



「もう食べたの?早いよ食いしん坊」

「食いしん坊言うな。てかハロウィンなんて昨日じゃん。一日もありゃ楽勝だって」



そう、ハロウィンは昨日。お菓子を一夜越しさせるほど俺は甘くない。



「どうせお前も全部食ったんだろい?」

「まだいっぱい残してあるもんね」

「じゃあいらねーじゃん」

「ブン太からはまだもらってない」



どんだけ食い意地張ってんだって。俺に言われたくねーか。
てゆうか俺ももらってないし、たぶんこいつは誰にもやってない。人には催促するくせに自分はあげないタイプだ。…俺に言われたくねーか。



「あ」

「?」

「まだあった。ケーキ」

「ケーキ!?」

「ああ。自分で買ったやつなんだけどさ。一人で食おうと思ったけど、一緒に食うか?」

「やったー!」



バンザイして喜ぶ名前を見て、あー俺もこいつには甘いなと思った。



放課後、一緒にうちにやってきた。



「お待たせ」



俺の部屋のテーブルど真ん中に、ホールケーキとお茶を置いた。



「お皿は?」

「ホールケーキはそのまんま食うのが美味いんだって」



そう言いながら、俺がフォークをケーキに突き刺したのを見て、名前も同じように刺して食べ始めた。



「おいしい!」

「だろぃ?この店じゃ一番人気なんだぜ」

「あ、こないだ雑誌に載ってたよね。さっすがブン太。食い気は皇帝」

「食い気はって何だよ」



もぐもぐ食べながら、俺と名前のフォークは反対方向から中心に向かってくる。



「ねぇ」

「んー?」

「お菓子いくつもらったの?昨日」



いくつ?数えてねーけど…。さてはこいつ、数で俺に張り合おうとしてんな。



「まぁ、テニス部ではワカメとふけ顔以外、あとは女子からいっぱい」

「そんなにいっぱい?」

「ああ。学校中の女子からな」



これで勝てんだろ。だいぶ盛ったけど。
そう勝ち誇った顔で名前を見ると、フォークを置いていきなりごろんと横になった。



「どーした?」

「もういらない」



不機嫌そうに口を尖らせて、俺に背を向けた。



「眠いの?」

「…そーだよ」

「もう帰るか?」

「やっぱ眠くない」



なんだそれ。意味不明。急に怒るってどーゆうことだよ。
でもどうせいつもの気まぐれだろと、俺はマイペースに食い進めた。よっしゃ、あと少しで半分!

ってところで、ふと、こいつの足がテーブルの下で俺の足に当たった。てか、1.5人用の小さいテーブルなんだけど、俺がラストスパートに気合い入れようと体勢を変えたついでに当たっちまった。

この感触は太もも?
こーゆうバカなこと考えちまったせいで、すぐ遠ざければよかったものの、そのまま俺(の足)は、名前(の足)に触れたままだった。名前も何も言わない。

おいおい、いーのかよ?と思いつつ、やっぱりまだハロウィンが抜け切れてない俺は、イタズラ心からこいつの足の下に自分の足を滑り込ませた。それでも何も言わない。

それがさらに俺のイタズラ心(そろそろ下心ってつっこまれるな)を高めて、もう片方の足で上から挟み、こいつの足に絡ませることにした。…やっぱり何も言わない。

まさかマジで寝てんじゃねーの、と思って上から顔を覗き込むと、名前は目をギュッと瞑ってた。顔もちょっと赤く感じた。
なんだかそれがOKサインな気がして──、



「まだお前からお菓子もらってねーけど?」



耳に唇がつきそうなぐらい近くで囁くと、名前はびくっと反応した。耳が弱点ね、了解。



「お前さー、無防備過ぎだろぃ。俺だって男だし、前からお前のことす──…」



き、を言う前に近くにあったクッションが俺の頭にヒットした。痛くねーけどなんかイタイ。



「ブン太のバカ!」



起き上がり、絡ませてあったはずの足をゲシゲシ蹴られた。



「わかったって。悪かった」

「バカ!アホ!ハゲ!」

「ハゲはジャッカルだ。つーかバカも赤也だ」

「バカバカバカ!」

「もーわかったっての」



俺は笑いながら、小さな子どもみたいにわめき散らす名前の頭を優しく撫でた。



「ジョーダン」



だからそんな顔すんな。泣きそうじゃんか。
俺のが泣きそうだし。自信あったのによー。へこんだ。まだ早かったかー。



「今暴れたから腹減ったんじゃね?ほら、お前の分、半分残して…」

「持ってきたもん」

「は?」



名前は自分の鞄からピンクの箱を出して俺に渡した。



「なに、これ」

「ケーキだよハゲ」

「ハゲは将来の真田だろって…」



勢いよくラッピングを剥がし箱を開けると、小さいけどなんだか可愛いらしいケーキが入ってた。



「昨日ブン太いーっぱいもらってたから渡せなかったけど。でもこれでイタズラされないもんね」



初めての手作りだから喜びなさいと、照れたように笑う名前を見て、もう一回、さっきの続きをやりたくなった。



「残念、これはイタズラじゃねーんだ」

「は?」

「本気」



『イタズラしちゃうぞ』END

もちろん合意の上ですぞ!ハッピーハロウィン★
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