いつかの僕らへ


「おはよ、赤也」

「…うぃーっス」



新学期始まって一週間ちょっと。久しぶりに赤也と会った。クラスも部活も違うからあんま会う機会もなくて。今日はたまたま下駄箱で見かけて声をかけてみた。



「久しぶりだよね。夏休みどうだった?」

「別に、普通に部活やって普通に遊んでた」



…そうですか。と呟くと、会話は終了した。
なんだか赤也が冷たくなった気がする。まぁ久々に会ったわけなんだけど、夏休み前は会ったら立ち話は当たり前。去年は同じクラスだったし大会前じゃなければ他の友達と一緒に遊んだりもしてた。
会ってなかったせいか急に距離感。



「よう、名前」



後ろから、クラスの男子に挨拶をされた。けっこう仲良しな男子。



「おはよー」

「今日の数学、宿題やった?」

「できる範囲ではやったけど、自信ないなぁ」

「だよなー。問4とかマジ無理だろ」

「あれねー、あたしもわかんなかった」

「じゃさ、他んとこ答え合わせしようぜ」

「うん、しようしよう」



あたしとその男子が宿題について話してると、赤也は何も言わずにその場を去っていった。話についていけないってせいもあるし、実は赤也はこの男子が嫌いってゆうのもある。ちょっと前に言ってた。「なんかあいつ丸井先輩に似ててやだ」って。確かに赤っぽい髪色に、宿題は周りから写させてもらってたり、よくガムも噛んでたりする。それじゃあ丸井先輩が嫌いなのかって思ったけど、そうじゃなくて、丸井先輩を真似してるみたいだからやだって意味だと、後で聞いて知った。



「赤也、待って」



とりあえず今の微妙な距離感は嫌だなと思ったから、クラスの男子とはバイバイして赤也を追ってった。
プラス、そういえば全国大会お疲れって、言ってなかったから。



「なんか用?」



うわ、怖い。距離感がどうのの前に、不機嫌ってゆうか、もしかしてあたし嫌われてる?って思ってしまって。特に大事な用もなかったから気まずくなってしまった。



「えーっと…、全国大会お疲れさま!」

「ああ」

「準優勝だよね、おめでとう!」

「全然めでたくねーし」



しまった、地雷だったかと後悔しても遅くて、赤也はさらに不機嫌度を増していた。
あーどうしよう、なんか…なんか他の話題…!と悶え中(もちろん心の中でね)、赤也はじっとあたしを見ていた。てか睨んでた。
なんも用ないならもう行くけど、と言われるわけでもなく、黙って去っていくでもなく。逆にそれでさらにあたしは追い込まれちゃう。

なんかないかなー…昨日のテレビ、なんか面白いのあったっけ?最近のニュースとか…いや、赤也はニュースなんか知らないだろうし。とりあえず部活ネタは避けたほうが無難だろうし…。



「なぁ」

「は、はい?」



ここで、俺もう行くからって言われたら悲しいけどちょっと助かるかもなんて思ったけど。



「アンタ、夏休み何してたの?」

「へ?」



何って、たぶん普通の中学生らしい夏休みだったと思うけど。お祭り行ったりプール行ったり…あ、もしかして日焼けしちゃったのがばれた?変だって思ってる?
と、どんどんあたしはマイナス思考のスパイラルへ。



「…えっと、普通に遊んでたよ、部活もあんまなかったし。おばあちゃん家も行ったり」

「ふーん。忙しかったわけ?」



そんなに忙しくもなかった。一日中家にいた日もあったし。赤也に比べたら全然。



「…そーでもないけど」

「遊んだって、クラスのやつ?」

「うん、クラスの子とか、部活とか」

「クラスって、さっきのやつ?」

「そうそう。プール一緒に行ったよ」



また地雷を踏んだと気づいた。だって赤也の盛大な舌打ちが聞こえたから。そんなに嫌いなのか。



「ま、まぁでもそれだけしか…」

「俺、試合あったんだけど」



知ってるし、前後の話とまったく噛み合ってないから意味不明。でも赤也は怒ってる。そしてあんま弾んでないあたしとの会話を終了させるつもりでもないことだけはわかった。



「そ、そうだね、試合お疲れさま!」

「さっき聞いた」



だめだ、この赤也の不機嫌をどーしても直せない。ここでじゃあね〜って流れをぶった切って去るわけにもいかず、
あたしは意を決して、疑問をぶちまける。



「…な、なんか機嫌悪くない?」



スルーすればよかったけど、そんなことできない。なんとなく。
でもあたしのこの言葉は、赤也を爆発させるには十分だったらしい。



「俺が練習に試合に必死だったってゆーのに、アンタがのん気にあんなやつなんかと遊んでるからだろ!一回も練習見にこねーし、試合も応援こねーし!くるって約束したじゃねーかよ!」



言い切ったところで赤也は心底気まずそうな顔をした。自分でも言いすぎだと思ったんだろう。
おまけにあたしは赤也に怒鳴られて、ちょっと泣きそうだった。

そういえば約束、してたかも。でも言い訳をさせてもらえばあたしの中では約束ってものでもなくて。「練習とか試合みにこいよ!」って確かに赤也に言われて、「うん、行く行く!」って、その場のノリで答えた。
でも赤也にとっては約束だったわけだ。



「ご、ごめんね」

「…や、別に」



完全に気まずくなった挙げ句、チャイムも鳴ってしまって、あたしと赤也は無言で別れた。

ああ、なんでこうなったんだろ。あたし試合見に行かなかったんだろ。後悔ばかりした。あとで謝りにいったほうがいいのかな。でもさらにこじれそうで怖い。

泣きそうで泣かない、でももやもやして。赤也とよくバカみたいな話で盛り上がったり、遊びにいったりしたときのことばかりを考えて、一日を過ごしていった。



放課後、部活もないあたしは一人とぼとぼ帰っていった。結局どうしようばかりで何もせず、下駄箱でため息をついたところだった。



「名前」



テニス部のジャージに着替えた赤也が現れた。
どきっとして、気まずいのに早速こないでよ、なんて思ったりしたけど、せっかくまた会えたしちゃんと謝らなくちゃと思った。



「朝は、…悪かった」



目を逸らしながら、小さな声で赤也が謝ってきた。意外だったけど、きっと赤也もわざわざ部活抜け出してまで来てくれたんだとうれしさがあった。



「いや、あたしこそ…!」

「俺、けっこう毎日待ってた。今日はアンタが来るかもって」



聞き取れるか取れないかぐらいの声でそう呟いた。ああそうなんだ、あたしがちっとも行かなかったから、赤也は不機嫌だったんだ。毎日頑張ってたのに、あたしのこと待っててくれたのに。



「なのに男となんか遊んでんなよ。…って、悪い、また変なこと言って」

「う、ううん…」



なんか…なんか気まずいけど気まずいの意味が違う雰囲気。
この空気、3m離れた赤也とあたし。

胸がドキドキしてきた。
やっと目を合わせてくれた赤也の真剣な顔がそれを加速させる。



「アンタ今、好きなやついんの?」

「え…?」

「聞こえなかった?」

「いや!…えーっと……」



好きなやつ。もし昨日、他の友達に聞かれたらいないって答えてたかもしれない。
でも今、いないって言えない。だっていないわけじゃない気がしてきたから。



「いなかったらでいいんだけど」

「う、うん」



流れ的に次の言葉は予想できた。そして期待した。



「俺と、付き合ってくれ」



赤也の真っ直ぐな目とその気持ち。あたしの心もそこに向かってるって気付いた。






「…ってゆう感じでさ。あー、あの時の赤也、可愛かったなぁ」

「……」

「気づいてた?赤也、そわそわして顔赤かったんだよ?」

「……」

「あー、あの時はよかったなー」



今日は俺の誕生日。
俺ん家でお祝いのケーキを食べた後、昔懐かし中学の卒アルを引っ張りだしてきた名前は、しみじみとそのときのことを語った。てか俺ですら忘れてた卒アルの場所をなんで知ってんだよって感じだけど。
初めて聞いた。こいつがそんときどう思ってたのか。

でも俺もすっげー覚えてる。死ぬほど緊張したし、なんでこいつにあんな嫌な態度ばっかとっちまうんだってすっげー自分にイライラしてたし。



「そんな昔のことなんか覚えてねーよ」

「ひどい!うちらの甘酸っぱい青春を!」

「甘酸っぱいだぁ?こっちはお前が変な丸井先輩もどき男と仲良くしてるからすっげームカついてたんだぞ!」

「覚えてんじゃん」

「うっ…」



思い出に浸れて満足いったのか、卒アルを閉じて名前は俺が寝そべってるベッドに入り込んできた。



「ヤキモチ妬いてたんだ?」



からかうように笑われて否定したい気持ちいっぱいだったけど、実際そうだったし。
何より、ぴったり俺にくっついてくる名前に負けた。



「好きだったんだからしょーがねぇじゃん」

「だった!?過去形!?」



こいつは…あげ足とんなって。あんときの話してたんじゃねーのかよ。



「今も好きに決まってるだろ」



過去形がショックだったのか、ちょっと俺から離れた名前を抱き寄せて、おでこにキスをした。

うれしそうに笑ったこいつは、あんときと変わらず俺をドキドキさせる。



「赤也、お誕生日おめでとう。また来年もお祝いし──…」



うれしすぎる言葉を途中で塞いで、こいつと過ごす三回目の誕生日をたーっぷり満喫した。



『いつかの僕らへ』END

赤也はぴば☆
裏設定で16歳の誕生日、前半は赤也14歳誕生日前の思い出話
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