宛先不明のラブレター
突然、こんな手紙を書いてごめんなさい。
びっくりしたよね。
でもね、今日は言いたいこといっぱい言いたいんだ。
言いたいことっていうか、思い出話かな。
初めて会ったのは一年生の春。隣の席になって初めて話したときのことは今でも覚えてます。
夏。具合の悪い振りして部活を抜け出しテニスコートまで行きました。
秋。運動会のリレーで他のクラスのアンカーをごぼう抜きする足に目を奪われました。
冬。一生懸命作ったチョコレートは渡せませんでした。
自惚れかもしれないけど、
あたしは誰よりも近くで見てきた。
誰よりもそばにいたよ。
楽しかった。本当に楽しかった。
毎日がドキドキとへこみの連続でした。
優しくされる度に舞い上がって。
もしかして…。ううん、違う。
でももしかすると…。そんなわけない。
やっぱり、もしかして…ってね。
期待し思い続けた三年目のクリスマス。
「…何してんの?」
夕方の暗くなりかけた教室にて。あたしは顔をあと少しで机にくっつくぐらい近づけていた異様な光景。それを見て、ブン太は異様な顔をした。ぱちんっと、ガムが割れた。
「手紙書いてんの」
「誰に?」
「神様」
「は?」
そうです。冒頭の文章は神様宛ての手紙。あたしはぜひ神様に文句を言いたかった。
「お前、そんなあやしくなるまで思いつめんなよ」
あやしい…誰が?
あたしは神様に渡す手紙を書いてるだけだもん。
ブン太はあたしの前の席に横向きに座った。そして彼曰く“あやしい手紙”を覗き込む。
「字ヘタじゃねぇ?」
ヘタに書いてるつもりはないのよ。でもさっきから手が震えてまっすぐ書けないの。
「で、なんで神様宛てのラブレターなわけ?」
「ラブレターじゃないもん。呪いの手紙」
「“あなたが好きです”って書いてあんのに?」
そんな言葉はどこにも書いてない。ブン太は視力が悪いのか、頭が悪いのか。多分後者だ。
「文句言ってやろうと思って」
「神様に?」
「うん。なんて仕打ちしてくれてんだって。あたしの三年間返せって」
「あいつに、彼女できたから?」
言わないでよ。それを。
さっき見ちゃったんだから。二人で手つないで帰るところを。
友達だったら…そうだね、きゃーオメデトーとか、二人ってお似合いだネとか、言うべきなんだろうけど。
あたしは言ってやらないもん。意地でも言わない。
だって二人で幸せになってほしいなんてこれっぽっちも思ってない。早く別れちゃえばいいとか思ってる。
あたしが、誰よりもそばにいたのに。
彼女なんかよりもずっと前から好きだったのに。
「ブン太早く帰りなよ」
「お前帰んないの?」
「あたしはこの呪いの手紙の続き書かなきゃ」
どこまで書いたかな。…次は本題だな。“彼女作りやがってばかやろー”…、
「なぁ」
「ん?」
「その呪いの手紙さ、完成したら俺にちょうだい」
ぱちん。またガムが割れた。
いきなり何言いだすんだ。こんな手紙、もらったってしょうがないでしょ。
「だめだよ。神様宛てだもん」
「渡すの?」
「え?」
「それ、本人に渡すのかって」
本人に?
渡すつもりは、なかった。
でも、じゃあなんでこんな未練じみた手紙書いてるのかって話よね。
「渡さねーだろ?だから俺にくれよ」
「だからなん…」
「神様宛てじゃなくて、俺宛てにしてくれ」
この呪いの文書を?あたしの三年間の恨み辛み一心に受けたこの手紙を?
受けとめるの?
「…ブン太呪われるよ」
「おう、しっかり呪え」
「呪われていいから“大好きです”って最後付け足せ」
「は?だってこれブン太…」
「いーから。あと、ばかやろーは消せ」
END
ブンちゃんラブ的な
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