ねこじゃらし


コート上の詐欺師。中学生の時点で変なあだ名のついた俺は、別に犯罪者でもない善良な男子高校生だ。と、思っちょる。

いつから何でそんなふうに言われるようになったのかはわからんけど、“悪魔をも騙せる男”とか、ずいぶんと物騒なフレーズもあったりする。

でも俺は意識しとるわけじゃなくて。人を騙すのも楽しいからやっとるだけで。至って俺は普通の男だ。と、思っちょる。

周りからはクールに見られることもあるが、それは単に感情を表に曝け出さないからであって、心の中じゃ全力で喜んでたりもする。つまり、だ。

俺だって、自分の誕生日がすごーく楽しみなんじゃ。



「…は?」

「だから、4日遊べないや。ごめん」



名前から突き付けられたこの一言。ナニナニ、ドウユウコト?

最初訳わからんかった。だって4日だろ?何の日かわかっちょるよな?



「ほら、来週クラスでクリスマス会じゃん?あたしとブン太が幹事だから買い出し行かなきゃだけど、もうテスト期間かぶっちゃうからさ」

「別に4日に行くことないじゃろ」

「だからその日しか空いてないんだって」



いや、お前さんは4日こそ空いてないじゃろ。言い掛けたのに出てこんかった。ただびっくりしすぎとる俺。



「ブン太と二人で買い出しなんか?」

「うん」

「俺も行く」

「え、無理」

「…なんで」

「だってお楽しみ企画があるから。いくら仁王でもそれは内緒だもん」



だからっておい。彼氏の誕生日に他の男と二人で出かけるやつがおる?



「と、ゆうわけだから。ごめんね。埋め合わせするから!」

「おい…!」



そのまま名前は去っていった。あ、ちなみに今部活中。名前はマネージャー。その部活中にいきなり呼び出されて、これ。

呆然としすぎて、しばらく動けんかった。

まあな、確かに。俺らも付き合いは長い。最初の頃は物凄くイチャイチャしとった。でも最近それがなくなってる気がする。慣れてきたわけだ。いい意味でも悪い意味でも。

しかも、あいつの前じゃ割と…てかだいぶかっこつけな俺は、誕生日ごときに浮かれた態度を出さなかった。それはあいつからかっこよく見られたかっただけなのに。だから、あいつは俺がここまでへこんでるなんてことは思いもよらんじゃろ。裏目に出ちまった。

しまいにはイライラしてきた。



「仁王先輩!」



赤也に話し掛けられたけど無視。俺は今相当機嫌が悪い。誰とも話したくない。近寄んな。

ほらな、こんなふうに、クールクール言われる俺は、内心かなりガキ。



「仁王先輩ってば!」

「…なんじゃ」

「いきなりなんスけど、4日、暇してないっスか?」



ほんとにいきなりだな。しかもタイムリー。たった今、愛しの彼女にどたキャンされたところじゃ。



「なんかあるんか?」

「へっへ〜!実は、合コンがあるんスよ!」



合コン?懐かしい響き。最近まったく行ってなか。

前は嫌いじゃなかった。その場かぎりの身のない会話をするのも気に入った子と次は二人でデートするのも。名前と付き合ってからはそんなものにかける時間の余裕も気持ちの余裕もなかったがな。



「行きましょうよ、仁王先輩!」

「あー…」

「仁王先輩のファンだってゆうものすごぉぉぉく可愛い子、来ますから!」



それは別にどうでもよかった。ただ、あいつへの当て付けになるんかなとか、もしかしたらどたキャンをどたキャンでやっぱり俺と遊べることになるかもとか。そこら辺で迷った。

でも内心、さっきからめちゃくちゃイラついてた俺は、結局首を縦に振る。



「よっし!じゃあ当日、授業終わったら部室集合で!」



4日はもともと部活がなかった。テスト前だから。だからこそデートできると思っとったのに。



それからは特に誕生日についての話はなかった。でも俺の中じゃ今度お前を裏切って合コン行くぞって変に優越感があった。

でもどこかで止めてほしくて。KYな赤也からうっかり聞いて怒ってほしくて。合コンなんて行かないで!って拗ねてほしくて。

どこかむなしい期待。



そんな期待を嘲笑うかのように、俺の誕生日はあっさりやってきた。

朝、赤也からのお誕生日メールに付け足されてあった言葉。



“HR終わったら連絡くださいっス!”



あー、ついにこの日がやってきちまったな。結局名前とはあれ以来誕生日について会話もないし。さすがに今日の0時にはメールきたけど。それだけで飛び跳ねそうになったりもう許そうかなとか思っちゃった自分は置いといて。

ほんとに合コンなんて行っていいんかな。あいつ知ったら傷つくかも。最近はそうでもないが、昔はえらいヤキモチ妬きじゃったし。俺が告白される度にケンカ。何回も泣かせたし、何回も別れ話になった。

それでも、愛されてるって、俺はうれしかった。あいつもきっと、そうだったんだと思う。

なのに最近は…、
何が変わったのかはわからんけど。



思えば最近、好きって言ってない気がする。最初は緊張しすぎて言えないことが何度もあったのに。

思えば最近、頭を撫でてない気がする。触れることすらドキドキしてるくせに余裕ぶってる顔してたのに。

思えば最近、お前ばかりで名前を呼んでない気がする。初めて名前を呼ぶようになった日はうれしくて眠れなかったのに。



あー、ダメダメじゃな、俺。こんなんじゃあいつも冷めちまうよな。

でも、嫌だ。嫌なんじゃ。

俺はいつまでもあいつが好き。だから、やっぱり今日は一緒にいたい。

ブン太と出かけようが、何時に帰ってこようが、たった5分でもいい。会いたい。…やっぱ5分は短い。せめて30分。

あいつの名前を呼んで、頭を撫でながら、好きって、言う。



俺は、帰りのHRが終わった直後、赤也に連絡もせずに部室へ向かった。連絡なんてしとる場合じゃなか。

名前もブン太もなぜかHR前からいなくて。そんなに急いで出かけたのかと思うと、泣きたくなったけど。



─ガチャ!



勢いよく部室を開ける。走りながら言い訳を考えとって、勢いにのったまま言おうと思ったから。

でも、部室に入った途端、勢いは途切れた。

名前が一人。

脚立に登って天井からカラフルな輪っかの飾り付けをしてた。



「おっそいよ!仁王来ちゃうじゃん!って………あれ!?」



脚立に乗ったまま振り返った名前は、俺を見てびっくりしたようで、落下しそうだった。



「に、仁王!?なんで!?」



その驚きようは半端なかった。でもそれは俺も同じ。

机の上にはお菓子やジュースが溢れてて。

そばにはおしゃれなラッピングがされた袋がいくつか転がってて。



「あ、えーっと!これは…!」



正面の棚にぶらさがってる垂れ幕には、



“HAPPY BIRTHDAY マサハルくん”



俺だ。



「ごめん!あのさ、今日遊べないって言ったけど」



名前は気まずそうに脚立を降りて、俺の目の前に立つ。



「実はサプライズで仁王の誕生日会やろうって、思って」

「……」

「赤也とかブン太にも協力してもらって」

「……」

「あ、今ね、ブン太とジャッカルが家庭科室でケーキ焼いて………!」



久しぶりな気がする。名前を強く抱きしめるのは。

鼻に届くシャンプーの匂いとか柔らかい肩周りとか顔を埋めるのにぴったりな首元とか。

久しぶりな気がした。



「仁王ー?」

「…はい」

「泣いてる?」

「…やばい」



やばいぜよ。つらかった分、うれしさが込み上げてきて。



「名前」

「うん」

「好いとうよ」

「あたしだって」



よしよしと、腰に回されてた手はいつの間にか俺の頭に。



「そんなに感動した?」

「うん。遊べないって言われてショックだったんよ」

「そーかそーか。ごめんね?」

「冷めたのかと思った」

「あははっ、そんなことないよー」



いつまでもぐずつく俺に、名前は優しく頭を撫でてくれた。

おかしい。予定では俺が頭を撫でるはず。

でもまぁ、いいか。



「お待ちどーさまぁ!ケーキできたぜって……うぉい!」



背中越しに、ブン太の声が聞こえた。

でも俺は、名前の首元に顔を伏せたまま、抱きついたまま、振り返らなかった。

耳に、名前の苦笑らしい吐息が降り掛かる。



「ごめん、サプライズ失敗!」

「なんだよー!」

「まぁ、仁王なら即ばれそうな気したけどな」



ジャッカルはそう言ったけど、ばれてなかったぜよ。まったく見抜けんかった。だからサプライズ大成功。ちょっとフライングだけど。

でもそれは言わない。だって俺、クールじゃし、詐欺師じゃし。

しばらく名前に包まれて、幸せを堪能させてもらった。



「いつまでくっついてんだよ」



ブン太の呆れた声も無視。

てかブン太のせいもあるじゃろ。あとで覚えとけよ。



その後、和やかに激しく行われた俺の誕生日会。



「そーいや仁王先輩!」

「ん?」

「こないだ言ってた仁王先輩のファンの子がくる合コン、また今度ってことで!」



赤也のKYな発言により、最悪なタイミングで俺の合コン参加意思が名前にばれ、

久しぶりに夜、ケンカした。



『ねこじゃらし』END


仁王はぴば☆可愛くて振り回されちゃう感じの仁王。
高校設定にする必要はなかったが、合コンネタがあったので高校生にしました
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