俺的恋愛論


3年に上がって同じクラス。隣の席になった有名人もというるさいこいつは、毎時間毎時間、わざわざ授業中に話しかけてくる。



「俺、物くれる子好みなんだよな」



そう言いながら、さっきの休み時間に女の子からもらったお菓子を頬張る。授業中だぞコラ。



「やっぱ俺のためにってゆうのがうれしいし」

「うそ。物が好きなんじゃなかったの?」

「ちっげーよ、バカにすんな。俺にだって恋愛論ぐらいあんだぞ」

「ふーん」



あたしの言葉に不満げな表情を示しながら、さらさらと黒板の字をノートに写していく。“daughtar”…娘のスペル間違ってるよ。



「で、ブンちゃんの恋愛論って?」

「んー、そうだな、いつの間にか好きになっちまってるんだ。恋ってのは」

「…ふーん」

「でもってそれは、相手がそう仕向けてんだ」



物をもらい続けると、いつの間にか好きになってしまうってことなんだろうか。そして与えるほうはそれを期待して。

あながち間違いではないかもと、思った。



「なぁなぁ」

「ん?」

「それ、くれ」



ブンちゃんはあたしの今まさに握ってるシャーペンを指差した。



「やだよ」

「いーじゃん。くれよ」

「あたし今使ってるもん」

「それ書きやすそうだからそれがいい。代わりに俺の貸すぜ」



何回断っても引き下がらないこの困ったボウヤに根負けしたあたしは、お気に入りだったシャカシャカのシャーペンを譲り渡した。まったく。

代わりには全然ならないけど、女の子顔負けの可愛い笑顔をもらった。



お昼。うるさいブンちゃんの大好きな時間がきた。



「今日は焼きそばパンが売り切れだったんだよなぁ」



そんなこと言いながら、本日二個目のパンを頬張る。ちなみに、弁当完食後。

あたしはまだ家から持ってきたお弁当を食べてる。



「なぁなぁ」

「ん?」

「それ、ちょーだい」



おねだりする目の先にあるのは、卵焼きでもハンバーグでもなく、あたしが握ってるお箸。ピンクのウサギの。



「ダメ」

「いーじゃん。それで食べるとうまそう」

「パンにお箸はいらないでしょ。てかこれなかったらあたしご飯食べれないもん」

「俺の箸貸してやるから。な」



またもや強引に奪われてしまった。なんだこのワガママなボウヤは。

でも、なんだかキラキラした笑顔で感謝されるから、それでいい気がしてきた。女の子がブンちゃんにプレゼントあげる気持ちがわかる。

それ以降もなんだかんだブンちゃんに奪われていった。ノートやら漫画やらタオルやらペンケースやら。

あたしの持ち物でブンちゃんのロッカーはいっぱいになりつつあった。出来ればあげたものなら使ってほしいのに。



「なぁなぁ」



しばらくたったある日。授業中。今度は何をおねだりされるのかな。



「俺、ずっと欲しかったんだけど」

「また?今度はなに?」

「いつになったらくれるんだよ」



おねだりする目には、あたしが映ってる。

黒板を見るはずの時間、あたしに捧げられるブンちゃんの目。



「そろそろ気付けよな。俺の好みは物くれるやつって言ったろ」



ったく鈍感だよなって言いながら、ようやくあたしから目線を外し前を向いたブンちゃんの耳は真っ赤だった。

可愛いもんだから、ふわふわな髪をぐしゃぐしゃした。また、あのキラキラした笑顔が見れて、
いつの間にかあたしもこの笑顔を待ってたことに気付いた。

きっとブンちゃん的には“俺の好み=あたし”を伝えたかったんだろう。強引だけど、でも、

ブンちゃんの恋愛論。
もらい続けた結果、
あたしも見事に恋に落ちてたんだ。



『俺的恋愛論』END

いつの間にか惚れさせちゃうのがブンちゃんです
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