甘い罰
「ね、赤也見て見て、丸井先輩だよ」
「あー、本当だ」
「丸井先輩ってサッカーもできるんだね。さすが」
「食うことと運動しか取柄ねーからな」
「仁王先輩もいるよ」
「同じクラスだし」
「仁王先輩って何やっても絵になるよね〜」
「性格悪いよ、あの人」
「……」
「……」
昼休み、屋上から校庭を覗くとテニス部の先輩たちがサッカーしてるのが見えた。
だからその話をしてるだけなのに、ずいぶん機嫌悪い。
「先輩たちって、モテるよね?」
「知らね」
「カッコいいもんね〜!」
「そーかぁ?」
「彼女いるのかなぁ?」
「複数いるだろ」
やっぱり不機嫌。まぁ、理由は何となくわかるけど。
「こないだね、雨降ったとき、あたし傘なかったら丸井先輩が貸してくれたの。優しいよねー」
「…丸井先輩はバカだから雨に濡れても風引かねーんだよ。優しいっつーかバカなんだよ」
「一昨日はね、職員室から資料運ぶとき荷物大変そうだからって、仁王先輩が持ってくれたの。紳士だわー仁王先輩」
「……そ、それは柳生先輩だろ。絶対そうだ。そうに決まってるっ。あの人が紳士なわけがない!」
だんだん慌ててきた。もう少し。
「先輩たちの彼女になる人、うらやましいな〜」
「…!」
その言葉に赤也は反論もせずにただ、あたしを後ろからぎゅって抱きしめた。
力強くて、痛い。苦しい。
「赤也、苦しーい」
「やだ」
「もうちょっと緩めて」
「やだ!」
駄々をこねるように、やだを連発して、あたしをキツく抱きしめたまま離さない。まるでおもちゃを離さない子どもみたいだ。
あたしの肩にもたれる頭。耳にかかる息に、
お前は俺のもんだ!
全身へと伝わってくる。
可愛いんだから、赤也は。
「ごめん、赤也。意地悪しちゃった」
「…へ?」
「えへへ。ヤキモチ赤也、可愛いっ」
「わ、わざとかよ?きったねー!」
徐々に赤也の腕が緩んできた。
それを見てあたしはくるりと反転する。
見上げれば、泣きそうな、でもホッとしたような顔。ちょっとやりすぎたか。
「ごめんごめん」
真っ黒なくせ毛をぐしゃぐしゃ撫でる。赤也は自分の髪を触ること、あたしにしか許可してない。
「ふざけんな!バカ!バーカ!」
「ごめんってー」
「許さねー!」
「じゃあどうしたら許してくれる?」
赤也はあたしをフェンスに押しつけた。勢いで、ガシャンと音がする。
「一生俺だけを見てくれんなら、許す」
溶けるような甘いキスをされて、息つく暇もなく苦しむあたしは、
大好きな人を騙した罰にしては最高だなと、頭の中で思った。
たぶんまたあたしは繰り返すけどね。
だって赤也、可愛いから。
こんな罰なら大歓迎。
『甘い罰』END
ヤキモチ赤也ラブリー同盟、入ります?
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