純情ホリック A


「お前ってほんと好みわかりやすいのな」


連休前のある朝、練習後に部室にて、とある女子の話題が出た流れでブン太にそう言われた。
その流れをさらに詳しく言うとこうだ。部室内には俺らレギュラー数人、練習着から制服へと着替えていたところ。


「さっきの女子、島村さんって言うんだけどかわいいよな」


練習が終わったあとにぐるっと外周を走るのがレギュラーだけのメニュー。その走りを終えたあと、部室へ向かうまでの間に友達や顔見知りのやつ数名に会い、その中に島村さんという女子もいた。


「丸井先輩たちに挨拶してた人?たしかにかわいかったっスね」

「そうそう、同じクラスでさ。な、仁王。かわいいよな?」

「んー……そうかのう」


よいしょと制服の下を履くところで話を振られたもんだから、ブン太のほうは見ずに答えた。
だから、ブン太が「ありえねー!」って顔をしてることに気づくのが遅れた。


「え、じゃあ誰がかわいいと思ってんの?うちのクラスで」

「うちのクラスなら、んー……高垣」

「なるほどな。んじゃ他のクラスもいれたら?何人か挙げてみろよ」

「ついでに2年も含めてくださいっス!」


2年なんてテニス部でもなきゃ顔も名前も知らんけど。とりあえず2、3人、かわいいと思える人名を挙げた。


「あとはー…渋谷さんだったか?A組の柳生の隣の席の子、かわいいぜよ」


着替え終わり部室備え付けの鏡で髪を整える柳生にも投げかけるように言うと、「そうですね」と本心なのか気を使ってなのか、曖昧な返事が返ってきた。


「お前って」

「ん?」

「ほんと好みわかりやすいのな」


さっきブン太の好みを否定したから仕返しに貶されると思ったが。ブン太はうっすら笑いながら、いや、冷やかしながらそう言ってきた。


「なんじゃ、わかりやすいって」

「だいたい似たような感じってこと」

「…そうか?」

「ああ。なんなら好きな芸能人も当てられるぜ」


そう言って得意気にブン太は何人かの女性芸能人を挙げたが、その通り俺はウンウンと頷くしかないぐらい、ぴたりと当てられた。ちなみに横から赤也も何人か挙げてきたが、それはかすりもしなかった。


「わかりやすいですよ、仁王君は」


登校時と寸分違わず(練習中も別に乱れとらんかったが)ようやく納得いく形になったんだろう。満足そうな柳生は、聞いてもいないのにそう追い討ちをかけてきた。

初めて聞いた。というかその前に、初めて知った。自分ではまったくわからんが、他から見ると似たようなタイプでわかりやすいんか。


「そうじゃ忘れとった、名字もかわいかった」


名字は今年同じクラスになった女子で、俺から見ると一言で言うとお人好しそうなやつ。担任や部活の顧問から雑用を押し付けられたりしてるらしく、昼休みや放課後に、教室ではない場所でばったり出くわすことが何度かあった。立ち話をする間柄でもないから軽く挨拶するだけではあるが。

5回目に会ったのは三日前の昼休み、職員室前の階段で。すれ違い様に、「いつも大変じゃな」って言うと、「ありがとう」と笑いながら階段を踏み外していた。

そのときの様子を思い浮かべ、なんだかかわいかったのうと思った。


「名字?」


俺の発言に、さもピンとこないといった表情を見せるブン太。


「や、かわいいけどさ。ちょっとタイプ違うんじゃね?」

「名字さんですか。昨年同じ委員会でしたが、確かに先程挙げられた女性たちとは少し異なる気もしますね」

「俺知らねー人っス。写メないんスか?仁王先輩」


赤也はほっといて。ブン太と柳生は、意外だなと口を揃える。そんなに俺のタイプとは違うんか。まぁ自分じゃそもそも気づいてなかった“わかりやすい好み”じゃし、それと違うからってどうということもないが。


「つまりー、よくわかんないんスけど、名字サンが本命ってことになるんスかね!」


よくわからんなら口を出すなと言いたいところ。なんでそういう理論になるのかこそわからん。


「アホらしいぜよ」


そう吐き捨て一人で部室を出ていった。
その直後だった。同じく一人で下駄箱に向かう名字に出くわしたのは。バッチリ目も合う。

途端にドキンと心臓が速くなった。さっき話題に出していたからか。何となくでも「かわいい」なんて口にしたからか。バカ也に「本命だ」なんてバカみたいな指摘をされたからか。
その顔を見て、「やっぱりかわいい」と一瞬頭に浮かんだからか。


「あ、おは…」


かけられかけた声をスルーし、顔を背け、まっすぐ前を見て足速に進んだ。これは紛うことなき無視だった。悪いことをしたと罪悪感が半端ない。

ただ、振り返って挨拶をするのもその他の話題を投げかけるのも無理。なぜかはわからんけど無理だと、それだけははっきりわかる。速すぎる心臓も何もかも情けない。

その日から名字とは、挨拶も話もうまくできず目が合っては逸らすことになり。
そのくせ話しかけらるとうれしい俺は、
「ほら、やっぱりかわいいじゃろ」なんて思いながら顔を見つめる変なやつになった。


END
元拍手。title by 箱庭
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