落ち込む私

あのバスケット事件から約一週間。土曜日の今日も、またマサハルくんと会うことができた。数十分の短い時間とはいえ、一緒に登校してるみたいでほんと幸せ…!

そんなあたしに、一つの朗報が飛び込んできた。


「へぇ、来週文化祭なんだ!」

「ああ、土・日って二日間やるんじゃ。だから来週の土曜は違う時間の電車になっちまうけど」

「あ、全然大丈夫!教えてくれてありがとう!」


もちろん、別に約束をしてるわけではないし、マサハルくんがこの電車に乗ってなくてもおかしいことではない。心配はしちゃうかもしれないけど。
だから、こんな風にあらかじめ教えてくれるなんてありがたいし、すごくうれしい。

文化祭か…。そこであたしには再び名案が閃いた。


「わーすっごい人」

「ねー、さすが人気のイケパラ立海だよね!」


土曜日、授業が終わった直後、やってきました立海の文化祭。海原祭っていう名前らしい。もちろんあっちゃんも引き連れてやってきました。


「で、あの銀髪くんはどこにいんのよ?」

「待って、プログラムで確認するから」

「どこで出し物してるのか聞いておけばよかったのに」

「だってこっそり行ってびっくりさせたいじゃん。きっと喜んでくれるし!」

「へー、喜ぶんだ。あの銀髪が」


失礼な。あっちゃんはマサハルくんがとても煌びやかな銀髪というだけで、まるで未確認生物かのような印象を持ってるらしい。失礼な。

地図付きプログラムを順に探していった。あっちゃんも横から覗き込む。見つける手がかりは、まさにあたしが持ってるマサハルくん情報なわけだから、ここで愛が試される!…なんちゃって。


「とりあえず、マサハルくんはテニス部で3年B組なんだよね」

「へー…あ、テニス部のブース近いじゃん。先にこっち探せば?」

「だね!」


3年B組のブースよりテニス部のほうが近かったので、うちらは先にテニス部へと訪問することにした。マサハルくんいるといいなー…でもまたマルイくんとか切原くんとかがいて、ぎゃあぎゃあうるさかったらいやだな。柳くんとも話すことないし。

というわけで。テニス部のブースから2、3店舗離れた位置から、様子を窺うことにした。


「どう?いる?」

「いやー、ぱっと見は見当たらない…」

「じゃあクラスのほうかね。ぱっと見でもじっと見でもあの銀髪くんならすぐ見つかるでしょ」


確かにあっちゃんの言うことは最もだ。じゃあクラスに行くしか…。

ただ、正直なところ、クラスに行くにはちょっと勇気がいる。他校生もたくさんいるし、うちの生徒も近いせいか多い。だからうちらが特別浮くってことはないんだけど。

あのバスケ部のりえちゃんだったり、もっと仲良しの女子がいたり、見たくないものを見ちゃう気もして……。


「あれ?」


不意にあっちゃんが声をあげた。3年B組のブースまで行く途中。
視線の先には、マサハルくんがいた。


「いたじゃん、銀髪くん。行く手間省けたね」

「……」

「目立ちすぎじゃない?あの髪……って、すず?」


あっちゃんが見つけてくれたマサハルくんは、その通り目立ちすぎであたしもまもなく見つけてただろう。何かのお店に並んでて、一緒にいる人と笑って話してる。

一緒にいる人は、りえちゃんだ。


「話しかけに行かないの?」

「……」

「ねぇ、すずってば……げ」


りえちゃんと楽しそうに話してる、あの中に入っていけるはずがない。二人で文化祭回ってるのかな。まるでデートみたい。マサハルくんは彼女じゃないって言ってたけど、実際彼女並みに仲が良いんじゃないか。むしろ彼女手前のような関係なんじゃないのか。

そしてふと思った。あたしは今日、別にマサハルくんに呼ばれたわけじゃない。あたしがサプラーイズ!みたいな感覚で来ただけで。彼もきっと喜ぶだなんて、勝手に思ってたけど。
たとえばもし、マサハルくんがあたしに来てほしかったなら、先週のあの時点で誘われてたんじゃない?つまり何の話もなかったということは、あたしに来てほしいわけじゃなかった。それじゃ結局あたしの独りよがりで……。


「ねぇあっちゃん、あたしやっぱり帰ろうかなぁ!?」

「え、帰っちゃうんスか?」


あっちゃんがいるはずの、左側を向きながら声をかけると。ポカンとした顔の切原くんがいた。

……あれ?切原くん!?ついでにその隣にはマルイくんもいる!ソフトクリーム持ってる!おいしそう!思いがけない二人の登場に、驚きのあまり目玉が飛び出そうだった。そしてキョロキョロ見渡すも、あっちゃんの影はない。


「あっちゃんはどこ!?」

「ああ、お友達サンなら俺らの顔見てそそくさとどっか行ったっスけど」

「お前さぁ、せっかく来たんならちゃんとウチらの模擬店に顔出せよ」

「さっき遠巻きにテニス部のほう見てんの発見して、こっそり追いかけて来たんスよ!」


マルイくんはぶつくさ言いながらソフトクリームを口に運び、切原くんはきっと悪気なく無邪気に笑ってそう言った。ていうかあっちゃん、この二人の相手するのが面倒臭いからって逃げやがったな…!


「友達に置いてかれて暇してんだろい?今からテニス部んとこ行こうぜ!」

「俺らホットドッグ作ってるんス!ぜひ食ってくださいよ、サービスしますんで!」

「金は払えよ」

「丸井先輩ケチくせー」

「いいか赤也。サービスっつーのはな、通常料金は動かさず、オマケつけるか複数買い割引きでお得感出すかってことだ」

「うーん、どっちも一緒の気がするんスけど」

「違う違う。一回分の購入って価値を簡単に下げちゃダメってこと」

「余計ワカンネー」

「まぁそれはどうでもいっか。とりあえず行こうぜ」

「ういっス!」


相変わらず二人は好き勝手話してる…!このままじゃ強引に連れて行かれちゃう。

チラッとマサハルくんのほうを見ると、もう二人はいなくなってた。また別のお店に行っちゃったのかな。ほんとにまるでデートみたい。


「ん?どうしたんスか?」


二人は歩き出したものの、動かないあたしに不思議そうな目を向けた。いやいや、なんで行くことが当然みたいになってるのとツッコミたいけど。


「…もう帰ろうかなって、思って」


そう呟くと、珍しく二人は黙り込んだ。えーなんでっスか?とか、んなこと言ってないで早く行くぞ!とか、そんな感じのこと言われるかなーと思ったけど。

きっとあからさまに沈み込んだ空気のあたしに、二人は困って顔を見合わせた。そりゃ困るよね。この二人は社交性がおかしいぐらい高いからまるで十年来の友人並みに親しげに話してくるけど、そもそも友達っていうほどの関係でもないんだ。たまたま電車が一緒の男子のさらにその友達っていう遠いもんで……。


“十分、素敵なご縁だと思いますよ”


そのときふと、ヤギュウくんの言葉が頭の中に蘇った。ほぼ同時ぐらい、マルイくんが口を開いた。


「帰るって言っても、別に用事があるわけじゃねぇんだろ?」

「……」

「ならさ、ちょっと俺らに付き合えよ。ここじゃなくて外に」


外??あたしと切原くんの声が重なった。一体、どういう意味……。


「ここ抜け出して遊びに行こうぜ!」

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