02

次の日の昼休み。同じクラスのブン太とは休憩時間に一緒にいることも多いが、昼飯は別。俺は弁当か、食堂の焼肉定食を屋上に持ち込むのが好きだから。そうやって今日も一人で屋上ランチを楽しんでいた。

嫌いな野菜類を端に避けつつ、もうあと肉一切れってとき。ガチャっと、屋上の扉が開いた。


「……」

「あ、こんにちは」

「…ああ」


先日見た女子だった。今日も本を数冊とジョウロとシャベル、そして薬草でも入ってそうな袋を抱えてる。

知り合いとは言えない。かと言って同じ空間に二人きりでいるんだから、何にも言葉を交わさないのも変な空気になる。そうは思っても、俺からは何も出なかった。
ただ、その女子も俺に他の言葉をかけることもなく、無視…と言ったら聞こえは悪いがいないものとしてる様子だった。

スタスタ歩いて花壇の前に行き、薬草袋から何やら取り出して花壇に撒いてた。…肥料か何かか?
ここでジャッカルみたいなオープンなやつなら、それ何だ?って聞くんじゃろうけど。聞けないのは、俺の性格もそうだが、この女子の雰囲気も。

例えるならそう……進撃の巨人のミカサ?淡々と作業をこなす姿は冷たそうにも見えるが、凛としているようにも見えた。
花、好きなんか?いつも手入れしとるんか?そう聞いてみようか。


「ここ、きれいですよね」


俺が迷ってると、その女子が口を開いた。俺のほうは見ずに、花だけを見て。


「去年までちゃんと手入れされてたんですけど。急に手付かずになっちゃって」

「……」

「だから私が今、やってるんです」


俺も頻繁に屋上には来るが、俺並みに来るやつもいた。そいつは昼寝する俺の横で黙々と、花壇の手入れをしてた。たまに花に話しかけたりしてて、大丈夫かお前さんって思ったぐらい。

そうか、そのアイツが今いないのにこんなに花壇がきれいなのは、この子がやってるからなのか。


「…ありがとう」


何でかわからんけど口から出た。何で俺が、とかこの子には意味不明だろうし、そもそも俺には関係ないことなんじゃが。
ただありがとうって、思った。アイツが帰ってこれる場所は、テニスコート以外にもあるんだってほっとして。きっと図鑑も持ち出して、どうやって手入れするのか勉強までしてくれてる。


「いえ。私、花が好きなんで」


聞きたかったことを言ってくれて良かったのと、もう聞くことが出来なくなって残念だって思った。


「花に囲まれてお昼寝なんて、素敵ですよね」


こないだも今日もただの一瞬足りともニコリともしなかった、愛想がないヤツなんじゃと思ってただけに。
笑った横顔に目を奪われた。

ただ単に引き継ぎという意味でしかやってないはず。俺だって、アイツの代わりにアイツの好きな場所を守り続けてくれてることに感謝しただけなのに。
俺のためにやってくれてる?なんて思った。ああ、柳生が言ってた単純って、こういうこと?


「……2年?」


何とか絞り出すように質問すると、その女子が俺を見た。じっと見られるとやっぱり居心地悪くなって、視線はふいっと外した。


「そうです。3年生ですよね」

「ああ。3年、B組…」


金八センセーって脳内に虚しく響いた。クラスなんて言っても意味ないのに。


「私は2年D組です」


2年D組…ああ、赤也と同じクラスか。俺テニス部でな、赤也の先輩でー、アイツクラスで迷惑かけとらん?困ったやつじゃろ?…そう頭の中じゃ話すことも出来るのにのう。


「それでは」


何も言えず、どちらかと言えば大人しそうな子じゃき、気まずいんだろう。荷物を持って、立ち去ろうとした。
名前だけでも。せめて俺の自己紹介だけでも……。


「失礼します、仁王先輩」


さっきの笑った顔をまた見たいと思った。だから何とか顔を上げて見たけど、全然、無表情。そういう子なんかな、そう思った瞬間に呼ばれた名前。


「…なんで」


くるりと振り返り不思議そうな顔をした。それ以上に戸惑ってるのは俺。
頑張れ、俺。


「なんで、名前知っとるんじゃ」


この子もこの子で愛想ないが、俺も俺でずいぶん可愛げのない言い方になっちまった。これじゃ知ってることが不服みたいじゃ。そういうつもりじゃないのに。


「有名ですよ、先輩」

「テニス部だから?」

「はい。かっこいいって」


よく頑張った、俺。耐え切れない気もありながら、頑張って見続けた。

その結果、さっき以上に笑う顔を見れた。


「あ、私は青木って言います。それじゃあ」


まだ行かないで欲しかった。そう素直に思ったのに、これ以上の会話は無理だった。

かっこいい…かっこいい……かっこいい………。

俺の頭の中は、さっきの笑顔とかっこいいという単語、それでいっぱい。かっこいいぐらいなら老若男女言われ慣れとるっちゅうのに。

今日も春らしくポカポカ陽気。ベンチに寝そべると、その日差しと花の香りが俺にまとわりつき、体が浮き上がるようで晴れた空が近く感じる。いや、体が浮き上がったわけじゃない。
ああ、ハルが落ちてきたって、思った。

俺がこんなんじゃなければ、もうちょっと楽しく会話出来たんかな。あの子もまだここにいたんかな。
変わりたいって思った。

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