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「どうじゃ。いけそうか?」
「ふむ。問題なさそうだ」
「よっし」
雨で朝練が中止になった今日。学校の空き教室で、参謀に例のサルベージを依頼した。
「いきなりパソコンを持ってこいと言うから何事かと思ったが」
「うっかり消しちまって。参謀なら復元できるかと思ってのう」
「夜中にか?」
「消したのは夜中じゃなか。思い出したのが夜中で連絡を…」
「夜中にか」
「…起こしてスミマセンでした」
「ふっ、いいだろう」
案外根に持つタイプじゃな、参謀も。思い出したっちゅうか、言うのを忘れてて。夜中にひどい雨で目が覚めて、あー今日は朝練中止じゃなーと思って、じゃあせっかくだしと。
「じゃ、こっちのSDカードによろしく」
「了解。…しかし」
「ん?」
「こういったのがタイプというのは意外だな」
「なにが?」
保存諸々は参謀に任せるとして、俺は携帯で週間天気予報をチェックしていた。なんでかって、それはさっさと晴れてもらわんと困るから。雨だと屋上に行けない。青木さんに会えない。必ずしも屋上に来るわけじゃないが、会える確率が一番高いのが屋上っちゅうことで。
「いや。それよりも保存は終わったぞ」
「お、ありがとさん」
「フォルダ分けもしておいた」
「フォルダ分け?」
「“青木ひかりフォルダ”と“その他フォルダ”だ」
は?…そうマヌケな声を出しつつ、パソコンの画面を見た。参謀らしくアイコンはむちゃくちゃきれいに整理されとって、さっきまでデスクトップには頻繁に使ってるらしいもののショートカットのみだった。
でも今は他に新しいフォルダが二つほどあった。“青木ひかり”と“その他”という名前がついてるもの。
「…おい」
「何だ」
「消しんしゃい、それ」
「怒る点はそこか」
まぁいい、と参謀は笑いながら素直にそのフォルダを消した。そりゃそうじゃろ、俺が決死の覚悟で撮った写真を、いくらサルベージしてくれたからって他のやつにあげるなんて嫌じゃ。
…って、あーそうか。参謀の言ったことの意味が今さらわかった。青木さんの写真だけじゃとなんか不自然だと思って、その他の写真のサルベージ(正直いらんけど)も依頼したんじゃけど。さすが参謀。即気付いたっちゅうこと。
「残念だったな。その天気予報通り、これからしばらく雨だ」
「……」
「練習はもちろんあるが、雨だと困る理由が他にもある。そうだろう?」
写真だけじゃなく俺の思惑まで、もっと言えば携帯の画面まで把握しとるとは。怖いのう。
「いいことを教えてやろう」
「?」
なんとなく内容的に肯定はしづらいものの、そもそもすべて決定事項と決めてかかる参謀じゃき、否定もできんと思って黙っていたが。
ほんとにいいことだった。
「活動は月水金、大抵が17時から17時半までには解散」
「……」
「現在は新聞部からの依頼により、立海および他校のテニス部に関しての写真撮影のため、校内だけでなく校外活動もあるようだ」
あとはわかるな?とでも言いたげな参謀のドヤ顔。ちょっと腹立つ。
「…いつじゃ」
「“立海かわら版〜テニス部速報〜”の今年度第一報が発行される再来週に合わせて…そうだな、今週末か来週半ばの雨の合間を狙うだろう」
立海かわら版というのは、うちの新聞部が代々作ってる校内新聞で。なぜか一、二年前からテニス部だけの情報を扱ったテニス部速報なる番外シリーズが誕生した。俺は見たことないが噂じゃ本紙よりそのテニス部速報のほうが人気だとか。俺らレギュラーの詳細な個人データも載ってるとかなんとか。見たことないが。
つまり、そのかわら版に載せる写真を撮るために青木さんがうちの部活を見に来ると。
「当然、今後の試合も見に来る」
「関東大会?」
「そうだ。負けはいけないな」
また、ふふっとドヤ顔で笑いやがった。
でもたしかに参謀の言う通り。青木さんが来るのに負けはいけなさ過ぎる。普段の練習だって、カッコ悪いとこ見せられん。聞いておいてよかった。
たとえこれから雨が続いても、屋上で会えなくても。青木さんが俺を見にやってくる。その日が待ち遠しかった。
ついでにこの後、青木さんのクラス、つまり赤也のクラスの時間割りや、休み時間行きそうな場所も聞かせてもらった。参謀様々じゃな。