storyteller:Nioh&you



朝から、なんだか甘ったるい匂いが漂ってた。そのおかげで、あたしのお腹は鳴りっぱなしだった。



「仁王くん、これ…、お誕生日おめでとう!」

「ありがとう」



どうやら今日は、仁王の誕生日らしい。一応知ってたけど。
休み時間ごとに入れ代わり立ち代わり、教室を訪れる女子たち。



「仁王!そのケーキくってええ!?」

「どうぞ。でもお前さんもいい加減にしとかんと腹壊すぜよ」



休み時間の度にはるか向こうの席からやってきて仁王に群がるブン太。

こんな風に、素直にプレゼントを渡せるのをうらやましいと思いつつ、
食っても食っても食い足りないブン太に呆れつつ。
特に何もせず過ごす、あたし。



「ほんと、テニス部は人気者だね」

「男前揃いじゃからのう」



こんなことが言いたいんじゃないんだけど…。おめでとうって、言いたいんだけど…。
でも皮肉たっぷりのあたしの言葉もサラっと躱す仁王を見て、笑ってしまう。



「じゃあな、仁王に佐奈!」



ずいぶんと満足気な笑顔でブン太は席へ帰っていった。



「いーの?せっかく女の子たちが心を込めてプレゼントしたやつ、あんな食いしん坊にあげちゃって」

「捨てるよりはマシじゃろ」

「あんたいつか罰当たるわよ」

「上等。頼んでもらっとるわけじゃないし」



うわー性格わるっ、
と思いつつも、自分の誕生日にも女の子のプレゼントにも浮かれない、
いつもの仁王節に、また笑った。



「そういやどっかのケチなお嬢さんはなーんもくれんのう」

「悪い、金欠」

「ま、もらっても色気ないもんじゃろし、いらんから」

「じゃあいうな」



同じテニス部でもあり、隣の席なだけに、こんなやり取りはいつものこと。
他の女子よりは仲はいいけど、それだけで特別だなんて、別に思ってない。

ただ、お互いのムカつくことだったりキツイ冗談だったりははっきり言い合える仲。だからか、なんか素直におめでとうを言うのは恥ずかしい。
そんなふうに考えちゃって…。



「佐奈」

「ん?」



呼ばれて横を向いた瞬間に、口に何かぎゅっと押し込まれた。

ちょっとドキっとする。



「…んー、んまい。チョコ」

「俺甘いもん苦手じゃ」

「そっか。おいしいのに」



あたしのその言葉に、仁王はまたあたしの口にチョコを入れた。楽しそうに笑ってる。

神様。仏様。…ついでに幸村様(ボソッ)
今日だけは罰当たりなあたしを許してね。
おめでとうは言えないあたしだけど、なんか彼がせめて楽しんでくれたらって思うから。



「んまいんまい」

「まだまだあるぜよ。ほれ」



食べ終わらない内に、今度はクッキーを入れてきた。

…っと、そろそろ周りの目が怖いわね。
あれだけ食いまくったブン太も、まだ物欲しそうに、こっちを見てた。



「うん、これもうまい。てゆーか自分で食べれるからそのままちょーだい」

「タダで食えると思いなさんな。ほれ」

「あんたも変わってるね」

「だってお前さんの食べる姿が動物みたいでのう」

「…どーゆう意味よ」

「可愛いってこと」

「…ッごほっごほっ!」



さりげなくとんでもない仁王の言葉にあたしはむせ返る。
そのあたしを見て仁王はクッと意地悪そうに笑った。

顔が赤かったからだろう。



「…な、なにいって…」

「ほら、食べんしゃい」



なおもあたしにお菓子を食べさせようとする仁王。
100%おもしろがってる顔。
傍目には整ったお顔。

なるほど、こーゆうのに女の子はやられちゃうわけね。…悪くないとは思うけど。



「もういらない」



あたしはぷいっと前を向いた。
そろそろ授業始まるし。
こんな気まぐれのちょっかいに一々反応してらんないわ。



「佐奈ちゃーん」



何回か仁王は呼んできたけど、とりあえず無視した。

そしてようやく、授業開始のチャイムが鳴った。
本日最後の、6時間目の授業が始まる。

そしてそれは、ほぼ同時に。



「佐奈」



スッと立ち上がった仁王があたしの目の前に来たかと思うと、

あっという間だった。



―チュッ



「…………え?」

「あっま。チョコ、口についとったんか」



いたずらっぽく笑う仁王。
息すら忘れて固まるあたし。

頭が真っ白になる中でとりあえずあたしは、
叫ぶことと、仁王をぶん殴ることだけはしておいた。

この、あたしと仁王が公然キスをしたことは、
テニス部のみならず、一日で全校中に知れ渡った。

さすが人気者です。嫌味です。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「佐奈ー」

「…」

「おーい、無視しなさんなー」

「…」

「はぁ…」



あれから一週間経っても、
相変わらず今日も佐奈には無視されっぱなし。

あれからって?
俺の誕生日に起きた公然キッス事件ナリ。

グーで殴られた顔の腫れは引いてきたというのに、
一向に佐奈は許す気配なし。

ピンチじゃ。



「はぁ……」

「仁王最近元気ねーじゃん」



昼休み。
こっそり職員室からお借りした鍵で屋上ランチを楽しむ俺とブン太。



「ちょっと、辛いことがあってのう…、実はな…」

「原因はわかってるからあえて聞かねーけど元気だせって」

「いや、そこ優しく聞いてやるのが友達じゃろ、親友じゃろ、仲間じゃろ」

「え、だって、誰がどー聞いても120%お前が悪いだろぃ」



確かに。
それは認めるが…、やっぱり俺が悪い?



「なんでそんなことしたんだよ」

「…好きだから?」

「いや、疑問系の意味がわかんねー」

「俺、前から佐奈のこと好いとったんよ」

「うん、知ってるけど」

「で、あっちもその気な雰囲気あったじゃろ」

「それは知らねーけど」

「でも誕生日にプレゼントも祝いの言葉もくれなくてのう」

「まぁあいつ素直じゃねーし」

「それでちょっとぐらい祝ってほしいと思って」

「キスしたってか?」

「プリッ」

「仁王クン、その方程式間違ってまーす」



ブン太はそう言いながら、俺の弁当のエビフライをさらって食った。
さらばメインディッシュ。
腹は減ってなかったが、ちょっと惜しかった。



「普通にプレゼントくれーって言やよかったのによ」

「そんな厚かましいことできん。一応仄めかしたけど」

「お前も素直じゃねーな。だからっていきなりキスはねーだろぃ」

「言うより早く伝わるじゃろ」

「それが間違ってんだって」

「何が?どこが?」

「順番違うだろぃ。お前、好きってあいつに言ってたのか?」



ううむ、俺の記憶にはない。
というか、恥ずかしくてそんなん言う気もなかった。



「キスで好きってことにはならん?」

「一応なるけど、女子はそーゆう儀式的なもんが好きなんだよ」

「面倒臭い」

「なら一生無視されてな」



いや、それは耐えられない。

正直、ここ数日無視されただけで辛くて辛くて。



「恋患いじゃな」

「アホなこと言ってねーでさっさと告れよ」



そう、喝を入れたブン太はゴロンと寝転がった。
もうすぐ次の授業が始まるが、
うちのクラスは次、体育。
俺もブン太の横に寝転がる。



「お前も行かねーの?」

「面倒臭い」

「マラソンだもんな。走るのは部活だけで十分だっつの。つーかさすがにもうここは寒いな。部室行かね?」

「鍵は赤也が持っとるぜよ」

「じゃああいつも呼ぼうぜ」



そう言って勢いよく起き上がったブン太は、携帯で赤也に電話し始めた。
俺はこのぐらいの寒さも割と好きなんじゃが。
ぼーっと、低い空を見ながら考える。

さっき、ブン太に言われたこと。
正直、面倒だし、好きとか言わんでもわかれって思うが。
無視されるこの辛さ。
限界じゃな。



「おー、じゃ待ってるぜ」

「……ブン太」

「ん?」



電話を切ったブン太がこっちを向く。



「俺、次佐奈に会ったら告白するぜよ」

「ああ、そーしろ。がんばれよ!」



にかっと笑ってブイサインをもらった。
それ見て、急にやる気が出たんじゃな。

しばらくして、赤也が屋上にやってきた。



「さっみー!よくこんなとこで寝られるっスね。あ、ちわっす仁王先輩」



俺は目をつぶったまま、手だけ軽く上げた。



「あれ、てゆーか先輩たち今体育じゃないんスか?」

「面倒なんだよマラソンだから」

「へぇ。今あそこ、トラック走ってんの先輩たちのクラスですよね?佐奈先輩がいる」



俺は勢いよく跳び起きた。
その行動に、二人とも若干驚いとった。

俺は校庭にいる自分のクラスの女子をつぶさに見る。
その中から、目当てのやつは一瞬で見つかった。



「ブン太」

「ん?」

「告白するぜよ」

「「は?」」



俺の言葉に、状況の読めない赤也はもちろん、ブン太も意味不明といった表情を見せた。
そんな二人にはお構いなしに、

俺の、想いを、ぶつけちゃる。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「佐奈ーー!!!」



もう、聞き飽きているほどの声。
でもこんな大きな声は、部活以外で初めて聞いた。
だから振り向かないわけにもいかず、
というより、びっくりしてしまって思わず、といったほうが正しいのかな。
走っていた足を止め、授業中にはありえない方からの声に、目、耳、体を向けた。周りのみんなもあたし同様に見ていて、
一瞬、静まったけど、声の主を確認するや、ざわつき始めた。

予想通りの人物で、
また何やらかすのか、ちょっとハラハラ、
でもそれ以上にドキドキした。
遠くではっきりは見えないけど、
真剣そのものの、仁王がいたから。



「遅くなってすまん。俺、お前さんに言いたいことがある」



いつの間にか静まり返ったみんなが固唾を呑んで見守る。
次の言葉を、あたしは待つ。



「俺は佐奈が好きじゃ。本気で惚れとる」



歓声と悲鳴と先生の怒声が校庭中に響き渡る中、
急速にあたしの顔は熱くなり、心臓はバクハツ寸前。
いつも気障な仁王が必死すぎで、いつもの数倍かっこよく見えた。
その一生懸命さが胸に響いて、なんでか、目の前がぼやけた。

そして、戸惑いまくっているあたしを見てか、
横からブン太と赤也が顔を出した。
一緒にいたのね。ニヤニヤ笑って面白がってる。



「先輩、返事はー!?」

「勿体振ってんじゃねーよ!」



こいつら授業はどーしたのよ。

正直、あたしの心の中は、いろんな想いが交差してた。

いきなりキスされるし、まったく反省してるそぶりもなく話しかけてくるし、
今だって、人の状況なんてお構いなしにでっかい声で告白するし、ほんと非常識なやつ。
そもそも普段から憎たらしいし、嘘つきだし騙されてばっかだし、
でも……。

仁王を無視してたのは腹立ってた以上に。
なんか……仁王の顔見るだけでドキドキが止まらなかったから。
そして一日中、授業中もご飯のときもお風呂のときも寝る前も、ずーっと頭の中に仁王がいた。
でも恥ずかしくてしゃべれなくて、あたしこそ辛かった。

あーあたし、もしかして仁王のこと……って、思った。

あたしは二、三回深呼吸して、次に大きく息を吸い込む。
あたしも素直に伝えよう。今の仁王のように。



「無視しまくってごめんっ!あたし…」



校庭中、静まる。あたしの声だけが響く。
こんなでかい声で告白された人なんてなかなかいないよね。
最高の舞台だわ。



「あたし、仁王が……!」



と、一世一代の告白の返事。
それをしようとしたところ。あたしたちにとってそれはそれはとても素敵なその瞬間。

見上げるその先の、屋上の3人は、
騒ぎに駆け付けた男性教師5名に連行された。





「マジでバカ!」

「そんなこと言いなさんな。愛しとるよ、佐奈」

「うるさい!なんであたしまで走らされなきゃいけないの!?」

「愛に障害は付き物じゃな」

「ふざけんな!」



当然のことながら真田にもこの件は伝わり、
被害者のあたしまで、校庭を走らされることとなった。



「お前はまだいいじゃねーか、いいことあったんだしよ!俺なんか全然関係ねー数学の補習あるんだぜ?」

「それは自分の成績が悪いからでしょ!」

「うっ…」

「つーかあんたらみんな自業自得じゃないっスか。俺なんてわがままブン太に鍵持ってこいって言われて持ってったらこれっスよ!」

「誰がわがままブン太だ!」

「あたしは自業自得じゃない!」

「赤也ずいぶんえらなったのう?」



三人の先輩からボコボコに詰られ、しゅんとしてしまった赤也。
肯定はしなかったけど、確かに赤也はかわいそうっちゃかわいそう。



「ま、とりあえず仲直りもできたし、めでたしめでたしじゃな」



こんな事態を引き起こした原因のお気楽な発言に…、



「「「お前が言うな!!!」」」



みんなのツッコミがこだました。

プラス10周させられたものの、
ちょっと、ううん、かなり幸せな気持ちでいっぱいでした。

いや、赤也には申し訳ない。
あたしのせいではないけどね。



END

詐欺師が絶対やらないシリーズ。昔のをリメイク。

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