storyteller:you



「最近柳生の様子がおかしい?」



昼休み、そそくさとお昼ご飯を食べてさぁ昼寝だと机にうつ伏せになったところ、仁王に首根っこ捕まれ屋上まで連れて行かれた。

眠かったのに、貴重な睡眠時間なのに、暖房の効いた教室がよかったなんでこんな寒い日に屋上なのよと散々文句を言いつつ着いたら、すでにブン太と赤也がいた。
さあ役者が揃ったなと言わんばかりに仁王の口から出たのが、冒頭の件。



「変って、俺からすりゃ元から柳生先輩は他の先輩方同様に変人っスけどね」

「そうだよね。周りの変人奇人に隠れてるけど柳生もズバ抜けた変人だよね」

「佐奈先輩は変人筆頭っス」

「はぁ?あたしが?どこが?」

「その額につけたまんまのアイマスクとか左耳に入れっぱなしの耳栓とか」

「これから寝るところだったんだもん、教室うるさいんだもん、片耳外しとけば聞こえるしいいでしょ」

「ハイハイ、お前らそこまでにしろぃ。とりあえず仁王の話聞こうぜ」



らしくもない、ブン太があたしと赤也を窘めた。言葉とは真逆で顔はどちらかというと緩んでる。たぶん先に仁王からおおよその事情は聞いてるんだな。

あたしと赤也、ブン太も仁王の顔を見た。ちなみに4人で丸くなってる。寒いせいか仁王の話に耳を傾けるせいかみんなして猫背。



「事の始まりは2週間前、部活がなかった日の放課後じゃ。俺が1年半前に図書室から無断で拝借した本をそろそろ返そうと忍び込んだら…」

「いやいや何してんスか、借り過ぎ!」

「なに、また盗賊団の真似事?盗賊団よりスパイごっこしようってば」

「俺はやんないっスからね」

「なんで?」

「なんで!?俺あんとき真田副部長に散々絞められたんスよ!」

「あれは悲しい事件だったね」

「いやだからお前らちゃんと聞けって。ここからおもしろくなるから」

「ブン太って、この映画おもしろいから見たほうがいいぜ〜主人公の恋人が実は真犯人で〜とか紹介しちゃうタイプだよね」

「あー俺、丸井先輩に結末バラされたことあるっス!」

「あたしも!まさか黒の組織のトップが阿笠博士だなんてさー」

「ええええ!?阿笠博士が黒幕なんスか!?あんな子ども好きのいい人が!?」

「それ知った日悲しくて眠れなかったよ」

「俺も今夜は眠れなそうっス…」

「一応言っとくけどそれデマだからな。てかお前ら真剣に聞けよ、仁王がなんか拗ねてんじゃん」



ええええデマ!?とあたしと赤也は再びびっくりしたわけだけど。たしかにあまりにも話を聞かないうちらに、仁王は若干拗ねてる模様。



「…で、続きは?仁王先輩」

「えーっと、図書室に忍び込んだらなぜか香水つけた柳生を見つけたってとこまでは言ったじゃろ」

「言ってない言ってない!なに、香水つけた柳生って!」

「ようするに、仁王が図書室忍び込んだらヒロシがいて、見つかったら面倒だからこっそり見張ってたら、そのヒロシから香水の匂いがしたってことだろぃ?」



そうそう説明サンキュとばかりに仁王は満足そうに頷いた。やっぱりブン太には大方説明済みだった。



「柳生先輩が……香水…!?」

「妙じゃろ?」

「えー、あたしが前つけてたら、遠藤さんにはまだ早いですよって注意してきたのに」

「まぁたしかに佐奈にはまだ早えよな。お前は牛乳石鹸の匂いで十分だ」

「逆にそれ卑猥っス」

「そーかぁ?」

「どーでもいいけどあたしの香水は修学旅行のときにデューティーフリーで奮発して買った超有名ブランドのだからね。石鹸と一緒にしないで」

「お前なぁ、入浴上がりの石鹸の香りはガッキーが一番好きな匂いなんだぞ、なめんなよ」

「先輩たち、仁王先輩がいじけてる!」



赤也の言葉に一斉に仁王を見ると、いじけてそっぽ向いて携帯をいじり始めてた。いやあ、申し訳ない。



「そ、それで続きは?仁王先輩」

「…えーっと、柳生を観察しとったら本を読むでも探すでもなくこそこそ本棚に隠れて貸出カウンターの様子を伺ってたってとこまでは言ったじゃろ」

「言ってない言ってない!なに、こそこそ様子を伺うって!」

「ようするに、香水つけたヒロシは本を探すわけでもなく図書室にいて、その目的はどうやら貸出カウンターの様子をこっそり伺うことだったらしい、ってことだろぃ?」



そうそう説明サンキュとばかりに再び仁王は満足そうに頷いた。話は進んでないように見えてしっかりと進んでいたらしい。

その他にも最近、入れ替わり時についての注文が増えたとのこと。髪が乱れた際には即刻直せ、部活後の場合はデオドラントスプレー必須、制服時にトイレに行ったら絶対チャックが閉まってることを確認してから出ろ、校内で下ネタ禁止、などなど。

つまり、そこから導き出される答えは?



「…まさか柳生先輩、図書委員に恋してるとか!?」



赤也がはっきり言ってくれてすっきりした。あたしも同様の見解。ブン太も、もちろん仁王もそのつもりでこの話題を出したんだろう。



「これは放課後、図書室に行くしかねーよな?」



幸い、今日部活はお休み。ニヤリとイタズラに笑うブン太に、あたしら3人も同じ表情で頷いた。





「どう?貸出カウンター見える?てか柳生いる?」

「うーん……」



放課後、図書室に4人で向かうと、まずは俺が確認すると志願したブン太が一人扉から中を覗き込んだ。



「とりあえずこの中に柳生先輩がいるかいないかっスよね。いなかったら入って、本でも探すふりして…」

「いや、それはマズイ。俺は正面から中に入れん」

「なんでっスか?」

「ほら、こっそり本を戻そうと思ったら結局図書委員長に見つかって1時間正座でこってり絞られたって言ったじゃろ」

「言ってない言ってない!なに、結局見つかったの?」

「見つかった。これで3冊目じゃったからのう。1冊目のときまとめて戻しとけばよかったぜよ」

「常習犯だったんスか!」

「お前らうるせーよ、中に聞こえてんだろぃ!」



あたしらの声が普通に図書室内に漏れていたらしく、慌てて扉を閉めつつ叫んだブン太の声が廊下中、たぶん図書室内にも響き渡った。



「で、なんか見えた?」

「全然。本棚が邪魔で貸出カウンターも見えねー。ちなみに浅倉さんがいた。かわいかった」

「お、南ちゃん。ここは真田のためにお近付きのチャンスじゃな」

「じゃあ中に入る?」

「…入らん」

「でもここにいてもしょうがないし、中に入るしかないんじゃないっスか?」

「いやそれはマズイって。俺は入らんぜよ」

「仁王がこんなにビビってるなんてその図書委員長よっぽど怖えんだな」

「怖いマジで。でもそんなところも含めて柳生は好きなんじゃろうな」

「え!柳生はその怖い図書委員長が好きなの!?」

「そうそう、ヤツのポエムノートvol.36のP18に、図書委員長の名前がタイトルに入ったポエムが書かれとったって言ったじゃろ」

「言ってない言ってない!vol.36て!デアゴスティーニで創刊狙ってんじゃないの」

「そうだったんスか!話だけ聞くとまるで真田副部長なのに。俺見たことねーや」

「俺も知らねー。3年だよな、誰?」

「お前さんらは図書室利用せんから知らんか。えーっとたしか……」

「穂波さんですよ」

「あーそうそう、穂波さん。だから俺は陰でたまちゃんって呼んどるって言ったじゃろ」

「言ってない言ってない!って………」



仁王の背後から聞こえた声に、あたしらはたぶんみんなして凍りついた。



「何をしているんですかあなたたちは」



はぁーっと、深い不快ため息を吐いた柳生。同時に、仁王がさっき言ってたように、柳生から香水の匂いがした。

うーん、どう答えようかとみんなの顔を見渡したところ、ブン太が仁王の脇腹を突くのが見えた。それに対しハイハイって顔の仁王、でも直後に胡散臭い笑顔に変わった。さすが切り替え早い。



「柳生はこんなところで何してるんじゃ」

「何って、こちらで借りた参考書を返却しに来たんですよ」

「へー、相変わらず勉強熱心だなぁヒロシ!」

「さすが柳生だねすごいや!」

「これでたまちゃんもイチコロっス!」



空気読めない赤也を3人で叩くと同時に、柳生はフンッと鼻息荒くみんなを押しのけ(珍しい)、扉に手をかけた。



「入るんですか、入らないんですか」



不愉快そうに、振り返って問いかけた。もちろん、イエス。





「結局仁王先輩も入るんじゃないっスか」

「俺だけハミゴなんて嫌じゃ」

「ちょっと仁王くっつき過ぎ」

「バレないためには面積の広い佐奈の後ろに潜むのがベストじゃろ」

「面積広いって失礼ねぇ!てかどこ触ってんのよ」

「脇腹。ぷにぷにしとる」

「変態!」

「佐奈先輩最近ちょっと丸くなりましたよね!お菓子食い過ぎっスか?」

「うわぁ、赤也今向こう3年はあたしと口聞けないぐらいのこと言ったね」

「じょ、冗談っスよ!もっと太ってもいいぐらいっス!」

「そうそう、柔らかいぐらいがちょうどいいぜよ」

「お前らうるせーって!なぁヒロシ」



自分の声も十分デカいのに。柳生のご機嫌取りのためかブン太に窘められた。

でも柳生はそんなことどうでもよさそうなぐらい。真っ直ぐに、誰もいない貸出カウンターへ向かった。
そしてそれに気づいたらしい女子が、小走りにカウンターへ近づいて行くのが見えた。

さすが図書室、すごく静か。でも会話は全然聞こえない。けど。



「……柳生、うれしそう」



そう思わず洩らしてしまうぐらい。柳生はその女子、たぶん図書委員長の穂波さんとうれしそうに会話してた。

同じテニス部で毎日毎日、彼のいろんな顔は見てきたつもりだったけど。たしかに他の、ブン太や赤也と比べて表情豊かとは決して言えないけど。



「帰ろっか」



あたしの提案に、他の3人も無言でついてきた。

初めて見た彼の、恋してるんだなって顔に。不覚にもときめいた。他人でも、あんな素敵な場面を見るのはドキドキするもんなんだね。

やっぱり恋っていいなあ………。



「…俺の思ったことをソッチョクに言うっスけど」



しんみり恋って素晴らしいと噛みしめるように思いながら歩いていたら、赤也が口を開いた。



「柳生先輩って、めちゃくちゃメンクイっスね」



メンクイ…?そういえばさっきあたしは、うれしそうな柳生の顔によく言えば見惚れてて、女子の顔ははっきりと見てなかった。つまりたまちゃんはかわいかったってことね。



「俺も思った!てか前からじゃね?好きなタイプは清らかな子って内面尊重派っぽいけど遠回しに外見重視だろぃ」

「そうっスよね!あれは絶対顔!怒ったら真田副部長化するんスもんね!」

「つーか仁王が怖がってっからたまちゃんじゃなくて前田さんタイプかと思ったぜ」

「前田さん?」

「ほら、まる子が掃除係になった回でいろいろあってキレて鼻ちょうちんしてたやつ」

「いや、あんなにかわいいが怒ったらむちゃくちゃ怖いんじゃって。前田さん並み。だから間取ってたまちゃんにしたって言ったじゃろ」

「言ってないっス言ってないっス!穂波だからって話で!」



あたしが柳生の恋にうっとりしてる間、こいつらは女子しか見てなかったと。碌でもないやつらだほんと。…まぁあたしも男子(柳生)しか見てなかったけど。



「真田副部長は浅倉さんでしょ、柳生先輩はたまちゃん……俺と丸井先輩にもかわいい子誰か欲しいっスねぇ」

「だよなぁ」



この場にシングル男子はもう一人いるけど。
あたしがそうツッコミ入れることを期待した顔の仁王が目に入ったので、スルーした。

とりあえず明日柳生には、もうちょい香水は弱めのほうが女子受けがいいんじゃないかと、アドバイスすることにしよう。つけ過ぎて臭かったから。



END

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