storyteller:you
※『立海の詐欺師の主張』の後の話です



「あれー?真田じゃん」



日曜日午後。母親とショッピングモールへ買い物に来て、あたしは本屋(漫画を買いに)、母親は夕飯の材料を買いに食品街へ行ったところ。その本屋で真田を見かけた。



「遠藤!」

「コラコラ、本屋では大声禁止……って、なにそれ」



真田は部活中ほぼ帽子を被ってる。でも制服や私服で被ってることは少ない。その真田は、今日は私服なのに帽子を被りおまけにマスクまでしてる。風邪か変装か。たぶん後者だ。

なぜって、真田が今手に持ってるもの、それは……、



「なに真田、罰ゲームかなにか?」

「い、いや…そういう訳では…」

「えー?だってその雑誌、“関東近郊イルミネーションベスト版”なんてまるで……」

「………」

「えぇー!?」

「本屋で大声は禁止と言ったのはお前だろう!」



だってだって…!50代みたいな老けた勇ましい顔しながらそんなロマンチックな雑誌を立ち読みしてるなんて!真田がイルミネーションて!余談だけど買えよ!必要なら!



「あ!もしかして噂の浅倉さん?」

「む…」

「イルミネーション見たいって、ねだられちゃった?」

「……」

「てか結局付き合ってるの?告白はされたんだよね?」

「………」

「教えてー」

「…俺は黙秘権を行使する」

「えーケチー。じゃあ真田が“恋のABC”なんていう本買ってたって言いふらすよ」

「なに…!嘘はやめろ!」

「はい、本屋で大声禁止ー」

「む!」



こんなコントがやりたいわけじゃないんだけど。
でもまぁ真田の気持ちもわかんないでもないかな。あたしは置いといて、ブン太や仁王や幸村たちにことごとく邪魔されてるもんね。真田は気づいてないけど味方だと思ってる柳もけっこうなもんだし。あたしにバレたらまた厄介なことになると想像できてんのかな。



「ありがとうございましたー」



結局、あたしは真田から離れないし、真田も真田であの雑誌を買うまでの勇気はなかったらしく、二人して無言で本屋をあとにした。

…あれ、あたしもなんか邪魔しちゃった感じかな。悪いことしちゃった?



「あー真田、えーっと…」

「遠藤はどうなのだ」

「……え?」



一応謝っとこうかなぁと。いくら真田でも、普段女のあたしでも容赦なく罰則を科してくる憎たらしい真田でも、寂しそうに本屋をあとにした姿を見るのは忍びない。



「どうって、なにが?」

「結局のところ返事は貰ってないと、そう聞いたぞ」

「…あー、あれねー」



返事はもらってないって、あの状況でどうしろと。おまけにあたしから蒸し返すのもなぁって。本人が今どうなのかわかんないし。あれ以来その件についてはなんの音沙汰もなし。続きもなければどっか行こうなんてデートのお誘いもないし。
あれはただの気まぐれって言われても、というかそっちのほうが納得できる。奴なら。



「信じ難い、と言った心境か」

「そりゃね。相手があんなだし。たとえあたしが真面目な話を出しても、99パーはふざけて返ってくるし」

「まぁ、同感ではあるな。俺にも奴の真意はそう読めない」

「だよねー………浅倉さんがうらやましいよ」



別に真田に惚れられてるからって意味じゃなくてね。そう言わなくてもわかったかな。真田みたいに絶対嘘つく人じゃないと、信じ切れるのがうらやましいって、そういうことなんだけどヤバいな、なんか真田が微妙に気まずそうにしてるよコレ。勘違いしてるかもしれないよコレ。



「…すまないが」

「えっ」

「俺には意中の人がいて…」

「いや知ってるよ。そーいう意味で言ったんじゃないから」

「む?」

「真田みたいに愚直な人ならよかったのにって意味」

「俺が、愚直だと?」



バカにするな!って怒鳴られると思ったけど。笑ってゴメンて謝ったら、ため息吐きつつ許してくれたみたい。

真田は黙秘権貫いたつもりかもしれないけど、うっかり本音を言っちゃうところがまたね。



「…あ、お母さんから電話だ」

「母親と来ていたのか」

「そう。じゃあね、また明日」

「ああ、ではな」



もしもしー?電話に出ながら少し後ろを振り返った。顔を見なければガタイのいい高校生って感じ?あたしは浅倉さんと面識はないけど、彼女が真田のどこを好きになったのか、聞かなくてもわかる…かな。てか真田結局また本屋に戻ったぞあの方向は。
うらやましいな、ほんとに。あの真っ直ぐなところは。

丸井や仁王や幸村たちに邪魔されてもからかわれても、あたしは秘かに応援してあげようと、そう決めた。





「でね、また本屋戻ってったの!たぶん買いに!」

『ほーう。それは見たかったぜよ、その現場』

「真田らしくもなく変装なんかしちゃってさ!写メ撮ればよかったなぁ、立ち読みする真田」

『惜しいのうつくづく』

「ほんとにー……てか、用件はなんだっけ?」

『ん?』

「いや、電話してきて。なんか用あったんじゃないの?今日のことが強烈過ぎてあたしばっかり話しちゃってるけど」

『声聞きたかったってだけじゃダメか?』

「切るよ」

『…つれないのう』



枕元の目覚まし時計を見るともう0時を回ってる。1時間…は過ぎたかな。話してるのは楽しいけど、だんだんまぶたも重くなってきた。明日も朝練で早いし。



「そろそろ寝る?」

『そうじゃな』

「じゃ、また明日学校でね」

『ああ……あ、佐奈』

「ん、なに?」

『東京タワーな』

「…は?」

『一番よさそうじゃき』

「…なにが?」

『イルミネーション』

「え、なに、そんな単語じゃなくてちゃんと説明し……」

『あの雑誌に載ってた中では東京タワーが一番ってこと。来週日曜行くから空けときんしゃい』

「………はい?」

『これで浅倉さんがうらやましいなんて言わせないぜよ』

「ちょ、ちょっと待って………まさか」

『じゃあな、おやすみ』



初デート決定うれしいな、なんて気持ちは置いといて。

今日会った真田は仁王の変装だったってこと!?会話内容はさすがに言ってないし……それとも真田が話した!?

わかんない…わかんないよ!でも。



“これで浅倉さんがうらやましいなんて言わせないぜよ”



うーん、もしかしてちょっと傷つけちゃってたかもしれないけど。でもそう思ったのは本心だし。

何より、それを受けて行動してくれたことがうれしかった。そしてもしあれが仁王だったんなら、あたしをイルミネーションに誘おうとして、立ち読みしてたってこと。真田に変装してまで。

何考えてるのかわかんないことのほうが多いけど。素直になりきれないあたしのことも、仁王はわからないのかもしれない。

…何着て行こうかな。



END
たまには夢っぽいのもいいかと思って

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