storyteller:Yanagi



昨日、12月21日夕方。神奈川県にある私立R中にて盗難事件が発生。当該校内の某所より、全国中学テニス界の根幹を揺るがしかねない重要書類が忽然と姿を消したのだ。

その重要書類とは、通称・柳ノート。

容疑者として挙がったのは皮肉にもR中の生徒数名。彼らは犯行時刻、最も現場に近い場所にいたテニス部員たちだ。しかしながら犯行を自供している者はいない。

果たして犯人は?容疑者の中にいるのだろうか?そしてその動機は一体?



申し遅れたが俺は柳蓮二。この事件の被害者でもあり、その解決を一任された立海テニス部専属の探偵だ。通称・プライベートアイR…いや、職業というわけではない。自称だ。というか副部長の弦一郎から直々に依頼されたので設定してみた。俺としても早く柳ノートを奪還したいと思っているしな。

それではまず、容疑者の彼らの話を聞こう。ただし、中には嘘も含まれている可能性もあることは肝に銘じて欲しい。





【一人目】
クラスと名前ですか?3年A組、柳生比呂士です。…12月21日、昨日ですか。ああ、テスト返却日でしたね。今回もすべて満点を取らせて頂きました。…文武両道の秘訣?それは愚問ですね。部活がどんなに忙しくとも、勉強出来ないほどに時間がないと言うことはあり得ません。時間は自身で作るものです。…ああ、ご質問にまだ回答していませんでした。12月21日の放課後、私は冬休み後の対応について、風紀委員の方と会議をしていました。そうです、冬休み期間中によく外見の乱れる生徒がいるので、冬休み明けの対応がとても肝心なんです。そのための施作を皆さんで議論し…、ええ、16時には解散しました。その後、同じく風紀委員である真田君を引き止めたのは私です。実は先述の議論内容に私は不満があったのです。あまりに早く終わってしまいましたから。そして真田君はとても風紀委員の活動に熱心なので、更なる議論を深められると期待し引き止めました。彼は部活に行こうとしていたのを無理に、と言えばそうかもしれません。何か問題でもありますか?…場所は3年A組です。彼も私も同じクラスですから。その後はおそらく真田君もおっしゃっているかと思いますが、17時過ぎに揃って部活に顔を出させて頂きました。そのとき会話したのは…、仁王君、幸村君ですね。丸井君や切原君も練習していましたし。ええ、確かにいました。ただ、私が来ていなかった17時までのことは存じません。…会議の途中で?ああ、そう言えばそうでしたね。確かに電話が入り一時退席しました。誰からかと言うのはプライベートなのでお答え出来ません。何か問題でもありますか?そうですよ、私が練習に出ていたのは17時以降です。それまでに私の姿を見たのでしたら、それは仁王君ではないでしょうか。以上です。





【二人目】
クラスと名前って…えーっと、3年B組丸井ブン太。…は?漢字?知ってんだろぃ。…丸いの丸に、井戸の井、ブンはカタカナで太は太い。…これでいい?…そーだよ、昨日は、テストの返却が終わってHRも終わってから……駄菓子屋に行きました。禁止されてたのにすんません。一人じゃねーぜ、ジャッカルとな。腹減ってたんだよ、数学のテスト結果もよくねーし。いやいや、赤点ってほどじゃねーよ。なんとか冬休みの補習は逃れたぜぃ。…一学期はすんませんでした。え、仁王?HR後に佐奈と教室でしゃべってたのは見たぜ。俺は駄菓子屋に行ったけど。そのあとは普通に二人とも部活で会ったし。基礎練終わってから、俺はジャッカルとか赤也と試合して…んで全部練習終わったのは17時半とかだったろ?そのあとジャッカルと自主練してたら、例の騒ぎがあったじゃん。…や、なんか部室のほうで騒いでて、赤也が大変っス!って来たから、俺は事情を知ったわけ。それだけだよ。俺は話聞いただけ。…最近赤也が帰るの早いって、そーだったっけ?…あー、思い出した。なんか二週間くらい前に、“このままだとサンタさんがプレゼントくれないよ”って母親に言われたっつって、寄り道せずに真っ直ぐウチ帰ってるらしいぜ。だからいち早く部室にいたんじゃねーかな。いやいや、俺がサンタなんて信じてるわけねーだろぃ!むしろ毎年弟たちにプレゼントする側だぜ。…クリスマスの予定は特にねーよ。まぁ去年みたいにみんなでパーっとやるぐらいじゃん。…そこにもし佐奈がいなかったらどう思うかって?さぁな。あいつがもし彼氏出来てデートするっていうなら、それはそれでいいと思うけど。まーでもあいつに彼氏なんてそう簡単に出来ないって!根拠?別にねーけどよ。もういい?腹減ったから帰りたいんだけど。…え?俺が練習を途中抜け出したって目撃証言があったの?…あー、小腹空いたから駄菓子屋で買ったグミ食いに行ったかも。何時かなんて覚えてねーよ。そんときは誰とも会ってない。じゃあ、そういうことで。





【三人目】
2年D組、切原赤也っス!…つーか、なんなんスか?この刑事みたいな取り調べ。そんなヤバいことなんスか?アレが紛失したのって。普通にどっかに落としただけなんじゃないっスかねぇ。まぁ、柳先輩に限って落としたとかありえねーのはわかるっスけど、新しいやつ買ったらいいじゃないっスか。……へぇ、データ並みに大事なことでも書いてたんスか?え?書かれてたんじゃなくて挟まってた?手紙が?その失くなった柳先輩のノートに?…ナルホドねぇ。あ、別に内容はいいっスよ、興味ないんで。…へ?し、知らないっスよ!どんな手紙だったかなんて!ホントっス!俺は先輩に…、や、何でもないっス。……え、えーっと、昨日のことっスよね。昨日はー、俺は部活に出たあとはずっと練習してたっス!仁王先輩と試合やったし、そのあと丸井先輩とも。…ジャッカル先輩?いたっスよ。たしか柳先輩と試合してたっスよね、その前は俺らの球拾いしてたっス。幸村部長もあとで俺にアドバイスくれたし。みんな不自然な点は一切なかったっス!……プレゼント?あーハイハイ、今年はプレステ4を頼んでるっス!でもサンタさん、ここ数年はあんま希望したもの届けてくれないんスよねー。不景気だって、母ちゃんは言ってたけど。…は?俺が悪い子だからって?そんなわけないっス!だって今回は赤点は英語だけだったし、普段から真田副部長とか先輩方の命令…じゃなかった、言いつけとかちゃんと守ってるっスから!…それで今回も言われてやったのかって?…えーっと、何言ってるかわかんないっス!も、もう行っていいっスか?俺英語の補習課題やんなきゃ…だーかーら、佐奈先輩宛てのラブレターなんて俺は知らないっス!………あれ、俺なんか余計なことしゃべっちゃった感じですか?……あ、はい、そうっス。途中練習抜け出しましたけど。なんか急に腹痛くなって。えーっと、たしか丸井先輩との試合が終わって、ちょっとしてからだっけな、トイレ行ったの。それだけっス、ハイ。





【四人目】
さーて、俺は何を話せばいいんじゃ?まずは名前か?3年B組仁王雅治。175センチのAB型。星座は射手座。…なんじゃ、占いでもしてくれるんじゃなかったんか?…へー、取り調べ。あの、柳ノート紛失事件の?そりゃご愁傷様。知らんよ俺は。柳ノートなんて見たこともないし都市伝説だと思っとったぜよ。ほんとに部室に保管しとったんか。そんな大切なもの鍵もついてない部室ロッカーにしまっとくとは、お前さんも詰めが甘いのう。昨日俺は佐奈と部活向かって、そのあとはフツーに練習しとったぜよ。…証人?さぁ、赤也と試合やったりはしたが、ずっと俺と一緒だったやつなんておらんよ。ジャッカルとは休憩中に会ったが。いや、そのあとジャッカルはお前さんと試合だって行っちまったし、しばらく一人だったかの。…俺の姿が見えなかったときがあったって?まぁ昨日は柳生にも化けとったし、俺がいないように見えた時間もあったかもな。…幸村?あー、見かけた気もするし見なかった気もする。覚えとらんよ、毎日似たような感じじゃし。…手紙?なんじゃそれ、知らん。…ふーん、佐奈宛ての。それをお前さんが預かって、例のノートに挟んどったんか。あ、もしかしてそれってラブレターか?ほーう、やっぱりな。あいつも一丁前にモテるんじゃな。んー、別に何も思わんけど。そりゃ付き合うことになったら本人から一報欲しいがな。まぁ、普段から俺は可愛がっとるし、嫉妬じゃないがちょっとぐらいは寂しい気もするかの。どちらにせよ俺は佐奈にもし彼氏が出来たら、心から応援するぜよ。いやー、でも佐奈の手に渡る前に紛失するとは、あいつもツイてないのう。預かったお前さんも、今回は運がなかったな。佐奈に怒られた?へー、お気の毒に。見つかるといいのう。





【五人目】
ずいぶんと時間かかったねぇ。俺は…五人目?そろそろ蓮二も疲れてきたんじゃない?…ああ、でも佐奈が許してくれないか。そうだよね、初めてもらうはずだったラブレターが失くなったんだもんな。え?…あー、ほんとはラブレターはもうどっちでもいいってことか。いや、蓮二らしいね。もちろん佐奈には告げ口しないから安心して。まぁ蓮二としてはノートが一番大事だよな。でもますます行方が気になるね。だって、そんな大事なもの、蓮二はどこかに置いてきたりしないだろ?そして俺たちの中にそんな人のものを盗むやつなんているかい?たまたま、昨日はテニス部しかあの時間まで残ってなかったからどうやら俺たちが疑われてるようだけど。容疑者は今日呼び出された六人ってとこなのかな?…ふぅん、その六人にだけアリバイに穴があるんだ。俺かい?俺は校内の花壇を見回った後に部活に行って、その後は練習してたけど。ずっと一緒だった人なんていないよ。みんなそうだろ?…部室に近寄った不審な人物?さぁねぇ。そんなテニスに集中しているはずの練習中に、キョロキョロコート外なんて見ないよ。…あー、でも17時過ぎだったかな?見たかも、不審人物。…はは、そうそう、真田。柳生はすぐ俺と会ってしゃべってたけどね、真田は一旦部室から出て、そういえばまた戻ってたかもね。真田だったりして、蓮二のノート盗んだの。…やだな、冗談だよ。でもね、一番信頼している人物こそ一番疑わなければならないと思うよ。だってそんな人物こそ蓮二がどういった行動に出るか、予測出来た上で計画するはずだから。完全犯罪に近くなるんじゃないかな。…あれ?俺はもう終わりかい?いや、俺が逆に取り調べしてるような空気にさせちゃったのは悪かったよ。疲れているところ苦労かけたね。この後最後のジャッカルかな?…はは、せっかくだけど帰らせてもらうよ。彼への取り調べは楽しそうだけどね。それじゃあ、また明日練習でね。





以上が今回の事件における容疑者の供述だ。長くなってしまったのでジャッカルの話は割愛する。

さて、彼らの話をまとめるとこうだ。

まず、一貫してアリバイが成立するのはジャッカルのみだ。彼はほとんど誰かと行動をともにしており、16時40分から部活終了まで他ならぬ俺と試合をしていたからだ。それならば何故取り調べをしたかと言うと、何となくだ。その他、ブン太と赤也は途中抜け出していた事実もあり、仁王に至ってはその姿を一時消していた。柳生は、弦一郎とほぼ一緒だったという鉄壁のアリバイにも見えるが、会議中退席したという点が引っかかる。精市は目撃情報が極端に少なく、最も犯行を及ぶに容易い立場であった。がしかし……。



犯罪における真相究明の基本は、状況から推理することと、動機から推理すること。
それを踏まえ、この事件が起こった当初より、俺は引っかかりを感じていた。それは、この事件の動機だ。本当にこの事件の真の動機は、柳ノートなのだろうか。動機……。

俺は今、一筋の光が見えた。
そう、犯人はこの中にいる。





「…ヤバかったな」

「ヤバかったっス」

「完全に私たちの犯行だと睨んでましたね」

「さすがは参謀じゃのう」

「でも決定的な証拠はないし、まさか全員共犯とも思ってないだろ。誰も自白しなければ大丈夫だよ」

「…お、ジャッカルからメールがきたぜ」

「何だって?」

「とりあえず完全黙秘しただってよ」

「黙秘とは…それは逆に疑わしくないですか?」

「まぁジャッカルは嘘とか無理じゃろ」

「焦って自爆しそうっスよね」

「それよりジャッカルに、今マックにいるってメールしといてくれ。うろついて後をつけられるとまずいよ」

「そうだな。…今マック、至急来い、…送信っと」

「で、例のノートと手紙は仁王が持ってるのかい?」

「おう、これじゃ」

「どれ、差出人は…藪小路?聞いたことねーやつだな」

「確か3年F組の…ああ、だから蓮二に預けたのか」

「バカっスねぇ、このヤブノコウジ君も」

「俺らがこんなの見逃すはずねーだろぃ、なぁ」

「佐奈に近付く虫ケラどもはすべて駆逐してやるぜよ」

「おお、テニスの試合ですら見たことないぐらいの気合いが入ってるっスね、仁王先輩」

「あれ、蓮二には“佐奈に彼氏が出来たら応援する”って言ってなかった?」

「大嘘に決まっとるじゃろ。どんな手を使っても阻止じゃ阻止」

「俺もそれ賛成。あいつがどっかの顔も知らねーやつに取られたら誰が俺にお菓子くれんだよ」

「他にもくれる女子いるじゃないっスか」

「お前なぁ、お菓子なんてうまくなきゃ意味ないんだぜ。失敗作渡してくるやつとかどーゆー頭してんだよって感じだから」

「丸井先輩がお菓子をちゃんと味で判断してたとは知らなかったっス」

「その点、佐奈のは失敗ナシ。全部買ってきたやつだから」

「愛情ゼロじゃないっスか。まぁ俺も、佐奈先輩に彼氏が出来るのはイヤっス。なんかイヤ」

「佐奈はどっちでもいいんだけど、俺はこっちが興味深いんだよね。この蓮二のノート」

「やっぱ幸村君はそっちに興味あったのかよぃ」

「だって気になるだろ?一度も見せてもらえないし。だから今回、みんなの計画に乗ったんだ。俺は何もしてないけど」

「なるほど。…てか柳、佐奈のラブレターもだけど自分のノートがなくなったことがよっぽどまずかったっぽいよな。そんなすごいこと書いてあんのか?」

「全国中学校のテニスデータが詰まってるとおっしゃってました。これを手にした学校は全国制覇も容易いと」

「え、俺ら準優勝だったのに?」

「あくまで柳君談ですので」

「データっちゅうかけっこう愚痴っぽい内容も多かったけどな」

「柳先輩が愚痴!?」

「オーラとか分身とかズルいって書いとった」

「やべぇ、俺もそれ超見たい!幸村君、次貸して!」

「俺も俺も!つーか、よく考えたら俺が一番活躍したっスよね!実際ロッカーから取り出してきたの俺だし」

「ちゃんと俺が部室のドア見張ってたからだろぃ」

「現物受け取って隠したの俺じゃし」

「私が一番危険人物である真田君を引き止めたからこそですよ。まったく、会議中に突然電話してきて“真田を引き止めろ”なんて。これは貸しですよ、皆さん」

「蓮二との試合をタイブレークで粘り続けて足止めしてたジャッカルもなかなかだよね。まぁ、とりあえずみんなお疲れ」

「「「お疲れー」」」



翌日、犯行動機から推理を展開し、赤也およびジャッカルを締め上げた。そして彼らの犯行は白日の下に晒されることとなった。動機は、やはり佐奈宛てのラブレターにあったらしい。そのため、我が柳ノートは返却されたものの、ラブレターは今なお行方不明とのことだ。
無事、事件解決だな。お疲れ様。



END

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