06 - 男子と女子A



放課後、筋トレ後にテニス部の練習着のまま第二体育館へ向かった。今日は半分だけ空いとって使えるらしい。
俺とブン太が到着した頃には、すでにほとんどのやつらが集まっていて、丸くなってトスの練習をしたりサーブの練習をしたりと盛り上がっとる様子だった。


「遅くなって悪い!」


そう言いながら、ブン太は男子の集団の元へ向かった。俺もそのあとに続く…が。
やっぱり女子のほうが気になる。昼休みよりは断然人数も増えてるが、やっぱり土屋は見当たらない。

やっぱり俺が伝えておくべきじゃったか…。


「仁王早く!2つに分かれてミニゲームするぞ!」

「ああ」


急かされチーム分けの輪に加わるものの、ふと思った。例えば俺が土屋に伝えていたとしても、それはそれでおかしな話な気がする。練習も別々なわけじゃし、男の俺が伝えるのって変じゃろ。「え、土屋さんに連絡してないんだけど」みたいな空気になっちまったらそれが一番やばい。…や、さすがにそんな意地悪なやつはおらんか。ちゅうか、そもそも連絡がいってないとは限らないわけで……。

あーもう、モヤるのう。これが同性友達だったらもっとズケズケいけたんじゃろか。俺がサッちゃんだったら。
友達とはいえ性別が違うと思うように踏み込めない。紙のように薄っぺらくでもむちゃくちゃ高い、そんな仕切りがあるように感じる。絶対に越えられない。


「んじゃあミニゲーム始めようぜ」

「すまん、ちょっと抜ける」

「は?」


ブン太のかけ声で男子どもがそれぞれのポジションに散るのを見つつ、俺はブン太にそう伝えて女子のほうに向かった。

たとえランドマークタワー並みに高い仕切りでも薄っぺらいなら破ればいいんだと。なんか知らんが変な決意をして。


「なぁ」


女子は全員で一つの輪を作ってトスの練習をしとった。比較的よく話をする野口に話しかけた。


「あ、仁王くんどうしたの?」

「土屋は?」


俺が話しかけたことで女子全員の動きが止まりこっちに視線が集中する。別に長話じゃないし、続けてくれてもよかったが。


「土屋さん?そういやいないねぇ」


野口は一瞬考えて周りを見渡したあと、そう答えた。いや、いないのは知っとるけど…そいつの視線が他の女子に向かう度、目の合った女子は一様に首を傾げる。中には、「なんでいないんだろ?」なんて声をあげるやつもいた。でも、声かけたけど断られたとか、そういう事情を知っとるやつはおらんかった。


「つまり連絡してないってことじゃな。今日のこと」


ちょっとキツい言い方になっちまったかもしれん。言い方っちゅうか、声のトーンがな。野口含め他の女子も一瞬で気まずそうな空気を出した。
自分も、たぶん周りも感じてる通り、何だかイラついとる。


「どうしたんだよ、仁王」


いつまでもミニゲームに参加しない俺にしびれを切らせてか、悪い空気を察知したか、ブン太がやってきた。傍から見たら俺がいきなり女子に悪態をついたように見えなくもない。

でもブン太に説明するのも躊躇う。告げ口みたいになるし、嫌味なしでは伝えられんし、そもそもなんで俺はこんなにイラついてるのかって。
友達が蔑ろにされた、それが事実なのに、やっぱり性別のせいで違和感があるのも事実。


「何でもないぜよ。ちょっと休憩」

「休憩!?まだ全然やってねーけどお前」

「疲れたんじゃ、筋トレ」


引き止めようとするブン太を躱して体育館を後にした。
別に行くあてもなかったが、とりあえずポケットに入れといた携帯で、土屋に電話をかける。今日は部活ない日じゃきたぶん、ちゅうか絶対もう学校にはおらんし。

プルルル…プルルル……コール音を聞きながらふと、電話してどうすると思った。
今から来い?俺があんな微妙な空気にしといてそこへ来いって?


『ただいま電話に出られません。ご用の方は……』


何を言うか迷ってるうちに留守電に繋がった。とりあえずはよかったと胸をなで下ろすが、耳元ではあっという間にピー音が流れる。


「……プリッ」


そのままぶつ切りしてやった。結局何も言うことは思いつかず、普段通りの言葉(?)を入れた。この留守電を聞いてぽかんとする顔が目に浮かぶのう。

その電話をかけつつ俺の足は、校舎内に向かっていた。もう体育館に戻る気はしない。
この時点で、意味不明にイラついて身勝手に練習を抜け出した俺のほうが断然悪者だという自覚はある。

季節は梅雨に差しかかっていて、降ったり止んだりの曇り空が遠くまで広がっている。校舎内に入ってからまっすぐ屋上に向かったが、降られても困るんでその手前の踊り場に座り込んだ。床がひんやりとしてて気持ちいい。

そのまんま、ごろんと横になった。

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